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今月読んだ本/2021.5

読書量が減っている。由々しき事態だ。原因はわかっている。自分の中に葛藤があるのだ。

ぼくはこの秋からイギリスの大学院に進学しようとしている(実はまだ少し迷っていたりする)。すると、秋からは英語で大量の論文を読まないといけない。英語でディスカッションをしないといけない。

ぼくの英語力は目を覆いたくなる方だし、これまで読んでた本だって、ノンフィクションだとかポピュラーサイエンスだとかって翻訳本が圧倒的に多い。つまり、ぼくが持っている知識一般の多くは英語から日本語から翻訳されたものであるということだ。

英語でディスカッションするということは、それらの日本語を再び英語に直して会話しないといけない。二度手間ではないかという疑義が生じているというわけだ。

だから最近は、気になる翻訳本があれば積極的に原著を、つまりは洋書を買っているのだけど、どんどん積読になっていく。これはひとえにぼくのリーディングのスピードが圧倒的に遅いことによる。英語の勉強にはなっている、と信じたい。これはきっとこれから活きてくるはずだ。

一方で、読書というのはぼくにとっては世界を見る窓のようなものであり、エンターテインメントであり、気晴らしでもある。

その趣味の側面の強いぼくの読書が洋書によって意味が変わりつつあるのだ。インプットという側面で見ると、果たしてぼくの留学後の就業地はどこでどんな言語を話している人たちに囲まれて生活することになるのだろうと思う。

仮に、留学後は日本に帰国して日本で就職ということなら、従来通り日本語中心のインプットで良いだろうと思う。そういうテーマの雑談をする相手は日本語話者である場合がほとんどだろうから。けれど、海外なら、英語でインプットするべきだろう。雑談はフランス語やスペイン語の可能性もあるけれど、確実に日本語ではないだろうから。

そう、原書で読むか、翻訳版を読むかと立ち止まっている今、ぼくが直面している本当の課題は、今後ぼくの人生はどこで展開していくのか、させたいのかということなのだ。

・一番伝わる説明の順番

ぼくは人前に立つ機会が普通の人より多い。そういう選択をしているというのもある。大勢の前で話すのが得意とは言えないので場数を多く踏みたいのだ。

ぼくはずっと、「お前の話は難しい」ということを言われてきた。幸い、仕事だと、共通言語があって、抱えている課題もイメージしやすいので相手がうまく汲み取ってくれるから、そんなことはなかったんだけれど、日常生活だと、突拍子もないことを言ってしまうらしい。

それはたぶん、生来のめんどくさがりの性で、間の説明を省いてしまっているからだろうと思う。なるほど、要するに丁寧な説明というコミュニケーションを取ればぼくの話もみんなに伝わるのだなと思って、講演なんかで中高生の前に立って、小難しい話をしているのだけど、当たりはずれが結構大きい。最初、それは学区の偏差値の差かな?なんて思っていたのだけど、それはそれで伝わらない話をしているぼくに問題があるわけで、要改善状態が続いていた。

そして、あるとき尊敬している人から勧められたのが本書。

懇切丁寧に、どういう順番で話を展開すべきか、相手に合わせて話をするだとか、言ってしまえば「当たり前」のことが網羅的に書いてある。

その当たり前のどこかができていないから、ぼくの話は伝わらないのであって、ふむふむなるほどと思いながら読んだ。できていること、できてないことがあって、その確認を視覚的にできたのが良い。

たぶん、これからも定期的に読み直すというかチェックする本になると思う。それくらい基本で、それくらい大事な本。


・統計外事態

舞台は2040年なので近未来SF。ラノベ的にすらすら読める。

さいきんまたSFを読み始めているのだけれど、それはSFから未来のヒントをもらおうと、著者の溢れる想像力の恩恵に与ろうというやましい気持ちが半分と、純粋に自分の想像の及ばない世界を知りたいと思うからだ。

それで、本書はタイトルの通り、統計外のこと、極めて起こる確率の低いことが起こってそれにまきこまれる物語。あまりネタばれすると面白くないので、中身に言及することは避けたいのだけど、主人公は統計を武器に受託分析をする人で、いわゆるデータサイエンティストの職務とその職責の人の思考回路を知ることができる。(ま、本書にでてくる主人公のデータサイエンティストって厳密にはちょっと違うと思うんだけれど…)

読書体験としては、品田遊の「止まりだしたら走らない」カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を足して2で割った感じ。スピード感があって良い。


・概念ドロボウ

全3巻。

欲望、勇気、魅力、道徳、まごころ…… 人の中にある「カタチの無いもの」を盗まれた時、 人はどうなるか? 世の中はどうなるか?という思考実験的マンガ。発想がおもしろくてハマる。目に見えたないカタチのないものがある特定の個人から盗まれたとして、どうやって知覚できるのよ?ってところから始まるんだけれど、そこにめちゃくちゃ頭良い探偵を登場させることで、論理的に盗まれたモノに、犯人に迫っていく。読者としても、そう簡単に盗まれたモノがなにかわからないから、各章の後半までミステリーよろしく謎解きができるのが良い。非常に良い。

3巻で終わってしまったのが非常に残念ではあるが、スピード感があってちょうどよかったのかもしれないとも思う。

話のパターン的に、おかしな挙動をする人が現れる、異常な事件が発生する→なにか盗まれたに違いない、特定しよう!の流れで話が進むんだけれど、それってワンパターンになりそうで、つまりはすぐ既視感がでて飽きそうなシステムではあった。あと、カタチのないものっていうのも絶対数が少ないのかもしれない。

・地獄楽

全13巻、完結。

ぼくのイメージ的には青年誌版の鬼滅の刃。

死刑囚が気味悪い島から将軍ご所望の不老不死の妙薬を取りに行く物語で、島で囚人同士の殺し合いや見届け人として派遣されている処刑執行人たちのバトルが見どころ。なんだけれど丹田の話がでてきたり、武人としての強さの哲学であったり、妙に引き込まれた。いくつになってもバトルものは好きなんだと思う。


・果ての星通信

とても令和っぽい、いまどきの若者の世界観っぽいマンガ。ぼくは令和を生きる今時の若者というのは不条理の中で、いろんなことを諦めながら、表立って声を荒げたりせず、なんとかやっていこうとしている人たち(ぼくを含む)だと思っているんだけれど、その雰囲気がこの作品の中にはある。

物語としては、ある日突然キャトルミュートレーションというか、宇宙人に連れ去られて、そこで10年間、異星人と共同で星をつくる仕事に着く、というもので、異なる星に旅行にでかけて、ぜんぜん常識の異なる異星人の文化や生態になんやらする…というSFと言えばSFなんだけれど、どちらかというと紀行マンガ。現代SF版ガリバー旅行記。

冒頭の不条理というのは、この主人公、恋人へのプロポーズの前日に連れ去られ10年の任を課されている。その星をつくる仕事をやっている他の異星人たちも同じように強制的に連れてこられている。大きな力に翻弄されて、ある者は絶望し、ある者は諦め…と現実を受け入れ、まあなんとかうまいことやっていこうとするんだけれど、登場人物みんな優しい。というか一見悪人に見えるようなキャラクターにも、実は…みたいなそうせざるを得なかった事情をきちんと描いていたりして、責めるに責めれない。仕方ないよねと思ってしまう。誰が悪いとかじゃなくて、そういう状況だったんだと受け入れるしかなくなったりする。

そういうの描き方というか、世界観がいまどきの若い人が世の中に対して抱いてるイメージというか人生観に近いんじゃないかと思う。わりとほのぼのな世界観だと思うのだけど、ところどころで諦念とか寂しさがにじみでている良作。


・名探偵キドリ

ギャグ枠。タイトル通り名探偵気取りの主人公が事件を荒らしに荒らす。クソしょうもないんだけど、ぼくは嫌いじゃない。シュール。

同じ作者のカラダ電気店もシュールな1話完結型のギャグマンガなんだけど、こっちはいちいちラストで良い話に持って行こうとするのが鼻につくというか、なんでやねん!と思っています。良い。

ちなみに、紺田照の合法レシピの作者でもある。

この作品はギャグ枠ではあるけれど、一番しっかりしてるマンガ。ちゃんとおもしろい。



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