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カリブの小国がオリンピックに力を入れるワケ

ぼくの書類上の直接のカウンターパートというかボスは視覚障害者協会の副理事。

彼は非常勤で、本職はオリンピック協会の理事。

人口10万人の小国なんだから、選手層はどうやったって薄くなるのに、競技を絞るではなくバレーにラグビーにバスケにサッカー、陸上に水泳に…とたぶん一通りの競技の選手がレベルはともかくいる。

今年の3月頃、オリンピック協会のオフィスでWi-Fi難民をしていたころ、南アフリカからラグビーコンサルタントとして半年くらい来ていた人に会った。前のラグビーW杯で日本が南アに勝った試合を何百回と見たという話で盛り上がったんだけど、

俺はね、こういう練習をして、こういう作戦を組んでチームを強くするのが良いと思うという提言をだしたんだ。3か月前にね。けどね、ここの連中は一瞥もくれなかったんだ。一瞥もだぞ。こんな扱いを受けたのは初めてだ。がっかりだよ、まったく。もう帰る。ぼくのここでの仕事が徒労に終わったんだからね。見込みもないし

と怒り心頭だった。ぼくの数か月後の姿を見ているようで心から同情するとともに、スポーツに力を入れているんだなあと感じた。彼の他にも欧米人の卓球コンサルタントが出入りしていたし。

ボート競技で中米選手権で優勝した人もいたけれど、それにしたって人口10万人なんだからある程度競技を絞って身体能力の高い人を集中的に投下した方が結果がでるんじゃないかと思っていたし、前述のように全然組織として周ってない。せっかくのリソースも運用・管理できてない。

なのに、どうしてこの小国はスポーツに、オリンピックに力を入れているのかわからなかった。新聞には毎回1ページにわたってオリンピック協会からプレスリリースだってでてる。

こんな言い方をしてはあれだけれど、自分たちをアメリカ人だと勘違いしてるフシがあるんじゃないかと疑ったりした。

それで、地方の子供たちのバスケ教室に通ってたとき、主催者のウィリアムが「バスケというスポーツを通して愛国心を育んで欲しいんだ」と言っていて、そういうことをスポーツに求めてるのか、たしかに毎年結構な数のセントビンセント人が海外へ渡ってしまうものなと思っていた(たしか毎年人口の1%ほどの人たちが流出してしまう)。

それでも、それはあくまでもキレイゴトというか一番の理由ではないような気がした。それにしては力を入れ過ぎているように見えるから。

ずっと、何かあるんだろうなと思っていた。

きっかけは本当にたまたまで、せっかくダイビングのライセンス取ったんだからセントビンセント近郊でどこか良いダイビングスポットはないかと調べていたときに、セントビンセントの南にあるグレナダに目がいった。

グレナダはセントビンセントと同じく東カリブドルを使う国で、人口も10万人でセントビンセントと同じような島国だ。そこの沈没船スポットを何気なくリストアップしているときだった。

なんとなくウィキペディアを見ると、世界的な有名人としてキラニ・ジェームスという人がいた。

察しの良い人はなんとなく気づいたであろう。彼はオリンピアン。それも何十年と前ではなくロンドンオリンピックの時から。

そしてなんと、400mでロンドンで金、リオで銀メダルを獲得してるトップアスリートなのだ。(グレナダ史上初の金メダル)

この衝撃は大きかっただろうなあと思う。同国においてはもちろん、周辺島国にも。

ジャマイカが陸上で強いのはよく知られていることだけれど、人口だった270万人で、こちらの人口規模と差が10倍あるから、金のかけ方も選手層も違ってくる。

けれど、セントビンセントと同じ人口10万人ほど、しかも隣国、民族的ルーツや歴史も同じとなると「俺らにもできるだろ」と思うのは自然なこと。そして結果がでなくても、グレナダのキラニという成功例がある以上、その才能を見つけるために多くのことが正当化される、予算通りやすいだろうなと。そりゃあらゆる才能を探すために、あらゆるスポーツにとりあえず手を出すよなと。どうせ才能が見つかれば奨学金取り付けてアメリカへ送り出して育成するもの。

そして、ここらのカリブ諸国はルーツも歴史も似ているからか、我々アジア諸国のように国にアイデンティティを感じていたり、国を意識することが少ないと言われている。たぶん、各地に親戚が住んでることも関係してるのだと思う。意識することもなかっただろう。

しかし、留学や仕事でアメリカやイギリスに行くと、カリブ事情を知らない人にも当然出会うわけで、するとセントビンセントなんていう国は誰も知らない。

留学で国外へでるようないわゆるエリートの人たちにとってはそれはそれはショックだったろうなと思う。自分たちはカリブという井の中の蛙だったんだと知る瞬間だ。カリブ外での知名度はほぼゼロ。(パイレーツ・オブ・カリビアンのロケ地になるまでは観光客も少なく本当に誰も知れないヨット乗りの秘境だったらしい)

これはなんとかしないとと思うのは無理もない話で、その知名度、存在感アップのためのひとつの施策としてのスポーツ、オリンピックというのも合わさっての力の入れようなんだと思う。

だって、カリブの西側カンクンを有するメキシコ人の友達もセントビンセント知らなかったもの。

住民にとってはどうでも良くても、いわゆる ” 偉い人 ” には辛いよな、世界の誰も知らないってって思う。

完全に推測だけれど、僕の中で make senseだった。なんかつながった気がする。あながち間違ってはないと思う。

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