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君はカリブのクリスマス、ナイン・モーニングを知っているか

その奇妙な風習について最初に話を聞いたのはセントビンセントに来て間もない頃だった。

地元の人たちと話していると、この国の主なイベントはみんなカーニバルとクリスマス前の祭りだと言っていた。そのクリスマス前の祭りというのが、「夜中に広場に集まってお祭りをやるんだよ」という漠然としたもの。当時、着いたばかりということもあり、いろいろ把握しないといけなかったり覚えないといけないことが多く、気になりはしたものの島独自の祭りがあるんだろうなと聞き流していた。

1つ先の隊次で来ていた先輩隊員はちょうどクリスマス前に着いていて、その存在を知っていたものの、「なにか夜中に広場に向かって歩いていって何かやるらしいよ」という程度の理解だった。

黒人中心のここの人たちのルーツはアフリカだから、やっぱり黒魔術的な信仰があるのかなと想像を膨らませていた。なんてったって夜中にやるのだ。それはつまり人目を避けるためなんだろうなと思った。

クリスマスが近づくにつれて、情報が具体的になっていき、それはクリスマス関連のイベントで夜明け前の朝4時から始まり、ナイン・モーニングという名前だということがわかった。

25日のクリスマスから逆算して9日前から毎日、朝4時から日の出過ぎ頃までイベントを行うということだった。故にナイン・モーニング。そしてそのイベントの中にラム酒早飲み競争だったり、パン大食い、フルーツジュース早飲みだとかをいろいろとコーナーがあるらしいことがわかった。

厳かな儀式のようなものを期待していたぼくは正直がっかりした。期待値が高くなってしまっていた分、ひどく稚拙に感じてしまった。

だからぼくの興味はすっかり失せ気味だったんだけど、百聞は一見に如かずで、カリブ世界の理解のためにも体験はせねばならぬ、行かねばならぬ、けどしょうもないだろうなぁ気が進まないなあという葛藤を乗り越え、朝4時に起きて行ってきた。

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この時期の日のでは6時過ぎだから、4時は真っ暗。そしてこの時期のこの時間帯は通行止めで広場へ続く道に車が入って来れないようになっていた。

BMXや普通の自転車乗りの若者が集まってレースをやったり、技を試したりしていた。これがナイン・モーニングのイベントの一環なのか仲間内の遊びなのかはわからない。

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そしてさらに広場の方に歩みを進めると今度は輪投げコーナーを発見。するとさっきのもひょっとしたらイベントの一環だったのかもしれないと思えてくる。

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ステージの方、つまりは広場に行くと、フィットネスをステージ上で披露し、それを最も熱心にマネていた観客に商品券が与えられていたり、3歳から6歳までの男の子6人をステージに集め、自己紹介と簡単な歌を披露してもらったり鶏の鳴きまねをしてもらったりして、一番うまくできた子から順番にお菓子を選ばせたりしていた。10代の女の子6人ステージに集合とかステージ横に集めている間に、アーティストやパフォーマーがパフォーマンスを披露し、ということをやっていた。最後の写真は大人の男カテゴリーで集められた3人によるバナナ早食い競争。勝者にはラムの瓶がプレゼントされていた。

イメージは田舎の夏祭りっぽかった。それに大晦日的要素が足されている感じ。夜中だし。

それで、うまく自己紹介できなかったり、ちょっとヘンなことを言ったり粗相があると、司会者が「これがナイン・モーニングだよー!」と言い、盛り上がっていた。

内容自体は、ぼくのようないろんなエンタメを見てきた先進国の人間にとっては全然笑えないしょうもないローカルコンテンツなんだけど、しょうもない小芝居やちびっ子の犬の鳴きマネに地元の人たちは結構盛り上がっていた。シンプル。

ずっと、なんで朝4時からやるんだろう、なんで夜じゃだめなんだろう、その方が人がたくさん来そうなのに、って疑問があったんだけれど、体験してわかった。

感覚的には居酒屋でオールしたときに似てる。

早朝で頭が起ききってなかったり、夜から飲み続けてる人がいたりして、基本的にみんなちょっとおかしなテンションになっていてしょうもないことも面白く感じるようになっているし、みんなちょっと散漫になってるから予期せぬことが起こりやすいような空間になってる。

それを楽しむものなんだろうなと思った。

日の出を迎え、そろそろ始発の時間だな、頃合いだな、帰って寝るかと思うくらいに、大学生のときに居酒屋で飲み放題オールしたときのことを思い出すほどに、懐かしい感じがした。

初見だから楽しめたけど、2回目はないかな。

毎日行くのはしんどいなと思う。

地元の人も毎日行く人もいるようだけど、それは超少数派で、9日間も毎日やってるから1日くらいは行ってもいいかなというものらしい。

ということは、きっと毎日内容は同じなんだろうなと思う。

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