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【起業戦略】第5講 幻想の競合優位性

前回は、「競合っていうのは、同じMUSTをカバーする存在」っていう話をした。

今回は、競合優位性について話していこう。

新規事業の企画をしていると、ベンチャーキャピタルや自社の役員から

「競合優位性はどこにあるの?」
「独自性はどこ?模倣されない?」
「なんでうちがそれやるの?」

みたいな質問をされない日はないよね。

こういう質問する人たちって、本当に、ビジネスをやったことがないんだな、ということが明らか。やったことがあるとすれば、そして成功したことがあるとすれば、その成功が適切に抽象化できていないってことだろう。

まあ、それはさておき、まず「競合優位性」とはなにか、整理しておこう。

競合優位性とは、その名の通り「競合する製品、サービスに対する優位性」のことだ。

ここまでは、誰もが理解していることだろう。

でも実は、競合優位性の本質は、カバーしているWANTの優位性のことだ。

カバーしているMUSTが違えば、マーケットも違うし、狙う予算も違う。そこには優位も何もないよね。

だから、競合優位性っていうのは、共通のMUSTをカバーする存在(=競合)の間での話になる。

でも、WANTというのは往々にして、漠然としていて、その範囲も広大。そのうえ、決定打にはならない

「価格」「予算以内」というのはMUSTだけど、実は、予算以内なら「まあ、安い方が嬉しいかな」程度の話にしかならない。

MUSTでない機能やサービスも「あればいいよねー(使わないかもしれないけど)」みたいなことになる。

営業力だって、同じだ。「プレゼンのうまさ」「対応の速さ」みたいなものも、WANTにすぎない。

だから、「これがあれば、勝てる」みたいな競合優位性というのは、幻想だ。

それに、もし本当に「これがあるから、絶対に勝てる/勝っている」みたいな機能なりなんなりがあれば、競合は絶対にそれを模倣してくる。

特許を持っていても関係ない。

特許を無視するということでは、もちろんない。同じようなことを実現する違う手段というのは、必ず作られるということ。

ちなみに「これがあるから、絶対に勝てる」というのは、「MUSTを自社に有利なように変えた/追加した」ということになる。これは、ポーター先生の「競争の戦略」に類似する高度な戦略だ。高度過ぎて、実現性はほとんどない(規制業界や非常に歴史の古い業界、極々一部のプラットフォーマーなどでは、実現できているところはある)。そんなことを妄想している暇があったら、とっとと顧客に会いに行った方がいい。

「市場を独占できるような競合優位性がなきゃ、新規事業として認められない」
みたいなことをいう人がいたら、
「自動車でも、スマホでも、どこの業界、どこの企業でもいいんですけど、競合優位性でマーケットを独占している会社なんてあります?」
って聞いてみよう。

誰も参入しないニッチなマーケットでもない限り、そんな状態は作れないし、そんな状態を作れるマーケットは、概ね、スケール(大きく成長)しない。

世の中のすべての企業が、自社のカバーするWANTの優位性で、全身全霊の勝負をして、この世の中は成り立っているといっても過言ではない。

だから市場を独占するような決定的な競合優位性がなくても、別に気にする必要はない。競合と違うWANTがあれば、そのWANTが刺さる場面、顧客にはアピールが強い、という程度だから、あっても必勝ではないし、なくても必敗ではない

とにかくカバーできているMUSTもつ顧客を最大限捉えて、そこに対して、全身全霊で向かっていく。毎回、負ける競合(=同じMUSTをカバーする存在)があれば、その競合が持っているWANTを模倣する。相手も、そうする。

ただし。

新規参入の場合は、先行する強い競合製品に対する顧客の不満を解消するというのが、まず最初に検討すべきアプローチだ。

競合比較表をイメージすると分かりやすい。

競合比較表は、MUSTの一覧として作る。これは自社、競合ともに全て◎か○がつくことになる。逆にここで✕がつくものは競合にはならない。

その上で、競合に対する不満が起きているポイントを1つでも、2つでも入れる。当然自社は◎で、競合は△や✕になる。

絶対的な有利になるわけではないけど、新規参入ながら検討してもらえる可能性が出てくるよね。

つまり、新規事業を企画するときには、先行する競合に対するペインを見つけて、それを解消する機能を競合優位性として開発すればいいということ。

ちなみに、このペインは、第一回で説明したペインとは似て非なるもの。最初に説明したペインは、漠然とした業務に対する不満や困難だけど、ここで言ってるペインは競合製品に対する不満や困難だから。

閑話休題。

まあ、こういうのも上手くはまればはまるほど、競合もすぐに真似してくるから、いたちごっこではある。そういうもんだよね、ビジネスって。

というわけで、今回は、ようするに、競合優位性で独占状態を作るなんて幻想。参入時に競合の弱点をつく機能を競合優位性として打ち出すのは有効。でも、それでずっと楽ができるなんて、思っちゃダメだよ、っていう話でした。

次回は、プロダクトマーケットフィットについて話します。

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