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第1回 インタラプション ~女だって攻める~  「先駆者たれ!」

免責事項:この物語はフィクションであり、登場人物、設定は、実在のいかなる団体、人物とも関係がありません。また、特定の架空の団体、人物あるいは物語を想起させることがあるかもしれませんが、それらとは何の関係もない独自の物語となっているという大人の理解をよろしくお願いいたします。くれぐれも、誰かにチクったりしないようにwww 
※この物語は独自の創作によるものです

第1回 「先駆者たれ!」

「サニーは先駆者たれ。その視線は、いつも未来に向けられ、いかなる過去にも束縛されない。サニーは勇気をもって現在の不可能に挑み、現在を未来に変えていく。製品の開発、生産・販売から総務、購買、経理の業務に至るまでサニーのあらゆる活動には、創造性が要求され、期待され、約束されている。サニーで働く者の喜びは、このこと以外にはない。君たちを縛るものは、何もない。先駆者たれ!」

今から40年以上前に、日本が世界に誇るメーカー、サニーの創業者、盛下大(もりしたまさる)が社内報に直筆で書いたメッセージだ。渡部絢(わたべあや)は、就職活動中の企業研究の中でその言葉を目にしたとき、文字通り魂が震えるのを感じた。そして、それは渡部絢という人間の人生が、永久に変わった瞬間となった。

その魂の震えが、「この会社で働きたい」という具体的な衝動へと変わるまでに時間はかからなかった。

激しい心の動きに、絢は自分自身でも驚いていた。

都内でトップレベルの進学校に入ったのも、単に成績とマッチするのがそこだったからという理由でしかなかったし、私大トップといわれる西北大学への入学も、高校三年生のときの成績と、あとはなんとなくのイメージで決めただけだった。決められた枠の中で、言われたことを淡々とこなし、親の期待に応えることを道しるべとして生活する、それが自分の人生なのだと思って生きてきた。いや、そういった思いすら漠然としたもので、思えば今までの人生で心の底からやりたいと思ったこと、欲しいと思ったものはなかった。

しかし、今、確かに「サニーで働きたい」という衝動を感じている。もやもやとしていた視界の焦点が、一気にピタリとあったようだった。全ての情熱と能力をまずはサニー入社に注ぎ込む、そう決意をした。

志望企業をサニー一社に絞った。絢の性格を良く知る友人たちからは、極めて早い時期に一社に絞り込んだこともさることながら、絢の変貌ぶりにも、驚かれた。しかし、いまの絢には、すべてが当然のことのようにしか思えなかった。突き進むだけだ。

既に15年以上前に他界している盛下大がもしまだ存命なら、いや、きっと今でも天国で自社に入ってくる学生たちに、「先駆者であること」を求め続けているはずだ。自分もサニーの一員となる以上、その期待に応えなければならない。

エントリーシートに書く内容も、その内容を決めるプロセスも、文章の表現も、自分がサニーの社員だったらと考えて、考えられる全ての創意工夫をした。

「こんなのじゃ、平凡すぎる。過去にどこかで見たことがあるものの焼き直しだ」

「未来のエントリーシートってどんなことが求められるだろう」

就活セミナーはすべてキャンセルし、ひたすら自問自答を繰り返した。

自分の先駆者としての資質を見つけるため、家族や友人たちへのアンケートをとったり、サニーのショールームにいる社員やサニーの本社ビルから出てくる社員にヒアリングをしてみたりもした。歴代の製品がそれぞれの時代に、社会にどのような影響を与えたのか、そしてその影響が現代の社会にどのように影響を与えてきたか、という独自の分析もしてみた。

とにかく、誰もやっていないこと、自分自身が考えたことを片っ端から試してみた。

だから、内定が出たとき、他でもない盛下大から「君、これから私と一緒に未来を作っていこう」と言われたように感じた。

自分がサニーの一員として作る未来はどんなものになるだろう。いつか盛下に褒めてもらえるような未来をつくれるだろうか。

まだ会ったことのない同期たちは、どんな創意工夫をしてサニー入社を勝ち取ったのだろう。きっとそれぞれお互いが思いもつかないような面白い発想をしているに違いない。それを聞くことだけでも楽しみだ。

絶対に消えることのない炎、情熱と夢と誇り、そして盛下への圧倒的な尊敬が混ざり合った炎が、自分の中に灯った。「サニーの一員として、一生生きていく」そう決意した。

だが、そうして人生の全てがそこにあるとまで思って入ったその会社は、絢の想像とはまるで異なる場所だったことに気がつくまで、そう時間は掛からなかった。


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