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「建設工事受注動態統計」の遡及改定で2021年度の成長率が上方修正されるかも?

 8月5日、国土交通省は二重計上などの不正処理のあった「建設工事受注動態統計」について、2013年度以降の公表値を修正し、公表しました。合わせて、「建設工事受注動態統計」などを用いて推計され、GDP統計の推計にも用いられる「建設総合統計」も遡及改定を公表しています。

 本件については、6日の日本経済新聞朝刊でも報じられており、「GDPにはこの統計をもとにつくる「建設総合統計」が反映される。国交省は同統計も訂正した。従来の公表値と比べた変化はマイナス0.5~プラス0.6%だった。内閣府によるとGDPに占める建設分野の割合は1割程度で、建設総合統計が反映されるのはその一部といい、GDPへの影響を軽微とみている」と書いています。

 この記事には、建設総合統計の遡及改定前と後を比較したグラフが掲載されていませんので、作成してみました。

 GDP統計の推計においては建設総合統計の伸び率が用いられていますので、各年度の前年比成長率の改定前と改定後、そして両者の差額を示しました。上記記事にある「マイナス0.5~プラス0.6%」というのは各年度の改定前と改定後を比較したものですが、前年比成長率の変化でみると、少し話が違ってきます。2021年度の前年比成長率は改定前のマイナス1.3%から改定後はマイナス0.1%と1.2ポイントも上方修正されています。2020年度が改定で0.3兆円下方修正されたのに対し、2021年度は改定で0.3兆円上方修正されたためです。

 GDPに占める建設分野の割合が1割程度ということなので、成長率への影響は0.12ポイントということでしょうか?軽微と言えば軽微でしょうが、ほぼゼロ成長の日本では小さくない変化かもしれませんね。このほか前年比でみると2019年度に0.4ポイント下方修正(改訂前:1.4%→改定後:1.0%)しているのが目立つ程度であまり大きな変化は無さそうです。

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 「建設総合統計」の遡及改定の影響は、GDP統計における公共投資(公的固定資本形成)の方がはっきりわかるかもしれません。以下のコラムで説明しているように、公共投資の速報段階の推計には建設総合統計が用いられているためです。

 2022年6月8日に公表された2022年1~3月期のGDP2次速報において、名目公共投資の2021年度の前年比は6.3%減でした。一方、この時点で入手可能であったと考えられる建設総合統計(公共)の2021年度は8.0%減でした。今回の不適切処理にかかる遡及改定により、2021年度の公共の伸び率は5.6%減までマイナス幅が縮小しています。2021年度の名目公共投資の前年比のマイナス幅も縮小が見込まれ、この面でも2021年度の成長率の上方修正に結び付きそうです。

 8月15日に公表が予定されている2022年4~6月期のGDP一次速報では過去の実績値がどれだけ変化したのかについても注目したいですね。

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 さて、今回の建設総合統計の「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る遡及改定」での国土交通省の資料提供は、相変わらず不親切ですね。記者レクの資料がどうだったのかは知りませんが、このコラムでお示ししたような改定幅のグラフなどの資料は一切掲載されず、「改定前の数値」をフォルダに収めて、ホームページにアップしているだけです。

 しかも、そこについているメモ帳をよく読まないと各ファイルが何を示しているのか、にわかにはわかりません… 統計不正でお騒がせしたにしては不親切ですよね(汗)。

 なお、「建設総合統計」は2020年度の年度報公表時に大幅な遡及改定を行っています。そこから、今回の不適切処理に係る遡及改定まで実に3度も改定が行われています(以下の表)。その変化についてもグラフにしてみました。2018、19年度の改定ぶりが凄いですね(汗)。補正率変更による定例遡及改定は、今後も毎年行われますので、過去3年分の実績値は結構変わる可能性があることを踏まえて観察する必要がありそうです。

2020年7月17日:2020年度報(2011年度まで遡及改定)
2021年10月19日:2021年度の定例遡及改定(補正率を変更することで2018~2020年度を改定)
2022年6月17日:2021年度の実績の公表および2022年度の定例遡及改定(補正率を変更することで2019~2021年度を改定)
2022年8月5日:不適切処理に係る遡及改定
※なお、2021年度の実績公表と2022年度の定例遡及改定は同じ日付になっていますが、2021年度の実績は当初の公表値と定例遡及改定ではわずかに修正されています。

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 2020年度の建設総合統計の大幅な遡及改定については以下のコラムで説明させていただいております。あわせてご高覧いただければ幸いです。

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