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「訪日外客数」の中身は?

 4月20日の日本経済新聞朝刊の記事では、「3月の訪日客数は181.7万人と、コロナ前の2019年3月の66%に戻った」と報じています。この記事における訪日客数は、日本政府観光局が公表している「訪日外客数」です。この中身は訪日外国人観光客なのでしょうか?データを探ってみましょう。

元データは出入国管理統計

 この訪日外客数は、法務省が集計している「出入国管理統計」が元データになっています。日本政府観光局のプレスリリースは、下記の通り書いています。

訪日外客数とは、法務省集計による出入国管理統計に基づき、算出したものである。訪日外客は、外国人正規入国者から、日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、これに外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のことである。駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる。なお、上記の訪日外客には乗員は含まれない。

 そこで、出入国管理統計をもとに再現を試みたのが、以下の図です。出入国管理統計における「入国外国人数」に、入国者とみなされない「上陸許可人員」(乗務人員を除く)を加え、永住者等(=永住者+日本の配偶者等+永住者の配偶者等+定住者+特別定住者)を差し引くと、日本政府観光局の「訪日外客数」に一致しました。「訪日外客数」の主体は入国外国人数であることがわかります。

訪日外客数のうち「観光客」は8割程度

 次に、出入国管理統計の「入国外国人数」の内訳を見てみましょう。直近の2022年の「入国外国人数」は419万8045人と2021年に比べて384.5万人増加し、2020年(430.7万人)に近づきました。このうち、観光客の主体と考えられる「90日以内の短期滞在者」は2022年では286万1731人ですが、2020年の336.1万人に比べるとまだまだです。さらに、コロナ前の2019年において、「90日以内の短期滞在者」は2781.2万人と入国外国人数(3118.7万人)の9割を占めていました。少なくとも、2022年までを見る限り、訪日外客数や入国外国人数に示されるほど、外国人観光客は2020年のコロナ禍初期よりも少なかったと推察されます。
 さらに、この「90日以内の短期滞在者」のうち、観光目的はさらに少なくなります。コロナ禍前の2019年でも短期滞在者でかつ観光目的は2537.1万人。訪日外客数(3188.2万人)の8割程度です。訪日外客数の回復を、即、訪日外国人観光客の回復とはみなせない点には注意が必要でしょう。2022年の内訳はこれから公表されるようなので注目したいと思います。
ちなみに、「出入国管理統計」は本稿執筆時点で2023年1月分しか公表されていません(訪日外客数が3月まで出ているのに不思議(汗))。短期滞在は135.1万人で、訪日外客数(149.7万人)の9割を占めます。この点では、コロナ禍前に戻っているといえるかもしれませんね。

訪日外国人消費のデータにも注意を

 なお、訪日外客数は、冒頭の記事に記されていた訪日外国人消費の推計に使われています。観光客ではない人まで、観光客と同じ消費をしていると扱うのはいかがなものかと思いますねー。ちなみに、記事中に書かれていて国際収支統計のインバウンド消費(旅行収支の受取)も基礎統計は訪日外国人消費となっています。旅行収支の推計上は、他国でも用いられている手法ではありますが、「インバウンド消費を○兆円にするぞー」と政策目標にするのは適切ではないと考えています。詳しいことは、ちょっと古いですが拙稿をご覧いただければ幸いです。

#日経COMEMO #NIKKEI

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