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過大な名目賃金、統計委員会がお墨付き?

 これまでnoteで幾度となく書かせていただいたように、現状の「毎月勤労統計調査」の名目賃金上昇率は、ベンチマーク要因で過大となっている。ベンチマーク要因とは、毎月勤労統計の調査結果を日本全体に当てはめるための、産業、事業所規模等のウエイトである。2018年から適用された新しいベンチマークが、2017年までのベンチマークと比較して30人以上の事業所の比率が高いために、2018年の賃金上昇率が過大になっている。厚生労働省自身も、ベンチマーク要因が0.4%、賃金上昇率を過大にしていることを認めている。

 しかし、毎月勤労統計調査はこの過大部分を修正しようとしていない。毎月勤労統計調査を基礎統計に用いているGDP統計の雇用者報酬が、この過大部分を調整しているにもかかわらずだ。この理由について、旧知の民間エコノミストが「統計委員会がお墨付きを出しているからだよ」と教えてくれた。

 このお墨付きを出したのが、2018年8月28日の統計委員会で配布された「「毎月勤労統計」の接続方法及び情報提供に係る統計委員会の評価」である。ここで、毎月勤労統計調査の賃金指数における「ウエイト(ベンチマーク)更新に起因するギャップ」についても、遡及改定しないことが適当な処理方法であることを明確化したのである。これは、2019年2月22日の統計委員会委員長談話にも示されている。

 この判断の根拠は、2016年6月から8月にかけて3回開催された「新旧データ接続検討ワーキンググループ会合」である。この会合では、経済データが遡及改定される要因として、以下の5つを提示したうえで、4番目と5番目について議論した。

1)集計過程における過誤
2)遅れて提出された調査票の追加
3)基準改定・ウエイト更新・計算方法の変更
4)母集団情報の変更に伴う更新
(比推定における比や母集団の大きさ等の更新)
5)標本交替による新旧断層への対応

 4番目については、「全数調査などベンチマークとなるものが存在する場合、それを利用して数値を確定する」のが妥当とした。その際、「過去値の遡及改訂により新旧ベンチマークに起因する断層を解消する(新ベンチマークによる数値<新基準による対象時点の値>と旧ベンチマークによる数値<旧基準による対象時点の値>の間を滑らかに接続する)」ことにした。
 5番目については、断層を解消することなく新旧計数をそのまま接続し、断層が過度に広がる前にサンプルを交替することが妥当とした。
 2018年1月から「毎月勤労統計調査」でサンプルの部分入れ替え方式が導入されたのも、このワーキンググループ会合の結論に沿っている。

 一方、現状の「毎月勤労統計調査」の名目賃金上昇率が過大になっているのは、上記の3)の要因によるものであり、ワーキンググループ会合では直接に取り扱っていない。にも関わらず、2019年2月22日の統計委員会委員長談話では、「「賃金」についてはそもそも全数調査がないため、「全数調査などベンチマークとなるものが存在する場合」に該当しないこととなる」として、WGで議論していない3)についても適用しないことが妥当としているのだ。

 しかし、鉱工業生産指数、消費者物価指数などの基準改定では、新しい基準で算出した指数同士で前年同月比を求めるのが一般的だ。例えば、鉱工業生産指数ならば、同じ産業構造における生産の変化を比較することに意味があると考えているためだ。それに対し、毎月勤労統計調査の賃金では、異なるベンチマークで算出した2018年と2017年を比較することを妥当としている。

 いったい、どういう力学、判断によって、このようなおかしな結論になったのだろうか。マスコミも野党も厚生労働省ばかり追及しているが、統計委員会にもメスを入れるべきではないだろうか。

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