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課税対象所得って何?給与収入と違うの?~9/30の日経1面トップ記事を読んで

 本日(9/30)の日本経済新聞朝刊1面に興味深い記事が掲載されていました。2022年度の個人住民税の課税対象所得(地方税は1年遅れなので2021年の課税対象所得を指す)が、全国の約3割にあたる市町村でバブル期を超えたというものです。地方税に関わる統計を駆使した良い記事かと思いますが、課税対象所得が何かを説明しないと給与などの収入と勘違いされませんかね?ということで、元データを紹介しつつ、説明したいと思います。

元データは「市町村課税状況の調」

 この記事の元データは、総務省「市町村課税状況の調」と思います。各年7月1日における全市町村の課税の状況等を調べたものです。地方税は個々人の前年の所得に応じて課されますが、納税義務者に関する詳細なデータが各市町村で集計され、総務省に報告されています。
 日経の記事は、この中で市町村別内訳の表を過去に遡ってデータ収集したものと思われます。市町村別内訳の第11表を見ると、市町村別に「課税対象所得」の数値が書かれています。
 そして、日本全体のデータは、「第11表 課税標準額段階別令和4年度分所得割額等に関する調(合計)」の「所得金額計」に表れており、2022年度は216兆円です。これに対して、納税義務者数は5978.7万人。所得金額計を納税義務者数で割ると、記事中に書かれているのと同じように、361万円となります。この課税対象所得から基礎控除、扶養控除、医療費控除などの様々な所得控除が差し引かれて個人住民税の税額が決まっていきます。

課税対象所得は様々な所得が合計されている

 第11表を見ると、「所得金額計」は以下のように様々な所得の合計ということがわかります。

総所得金額等(=総所得金額+山林所得金額+退職所得金額)
土地や建物の譲渡所得(=分離長期譲渡所得金額に係る所得金額+分離短期譲渡所得金額に係る所得金額)
株式・先物取引に関する所得(=一般株式等に係る譲渡所得等の金額+上場株式等に係る譲渡所得等の金額 +上場株式等に係る配当所得金額+先物取引に係る雑所得金額)

 私たちにとって身近な給料に関する所得(給与所得金額)は、総所得金額に含まれています。第11表では内訳はわかりませんが、「第12表 令和4年度分給与所得の収入金額等に関する調」に給与所得金額は掲載されています。
 ホームページで遡れる2013年度(平成25年度)と最新の2022年度を比較したものが以下の表です。この9年間で課税対象所得は38.5兆円増えていますが、そのうち30.7兆円が給与所得金額の増加によるものです。土地や建物の売却、株式の配当所得なども増えていますが、増加の中心は給与所得金額だということが確認できます。

課税対象所得=収入ではない

 一方、注意しなければならないのは、課税対象所得=収入ではないという点です。例えば、給与所得金額の増加の分、給与収入が増えているとは限らないのです。
 国の所得税や地方の個人住民税は、所得に連動して決まる税金です。この所得は、収入から必要経費を差し引いたものと考えられますが、制度上、様々な「控除」という形で所得金額が決まっているものも少なくありません。例えば、給与は、給与収入から給与所得控除などが差し引かれ、給与所得金額になります。給与所得控除は、給与収入の金額の大きさなどに応じて決まっています。
 以下のnoteに書いたように、国の所得税の場合、給与収入から少なくとも給与所得控除の最低保障額(現在は55万円)は差し引かれます。基礎控除(58万円)と合わせて103万円までの給与には所得税がかからないのです。

給与収入は、給与所得金額ほど増えていなかった

 以下の図は「第12表 令和4年度分給与所得の収入金額等に関する調」のデータを用いて、2013年度以降の給与収入、給与所得控除等、給与所得金額の推移を描いたものです。この間、給与所得金額は1.21倍になっていますが、給与収入は1.16倍で、給与収入の伸びを給与所得金額の伸びが上回っています。給与収入に対する給与所得控除等の比率が若干低下したためですが、これが制度要因のためなのか、収入金額の構成比の変化(高収入もしくは低収入の人が増えた)のためなのかは、にわかにはわかりません。ただし、給与収入に対する給与所得控除等の比率は2020年度から21年度にかけてはっきりと下がっているので、これは、給与所得控除の最低保障額や控除の上限額を引き下げた制度改正の影響があるかもしれません。

長期間の比較には個人住民税の制度改正の影響も

 冒頭の日経の記事は、1992年度と2022年度を比較しています。これだけ長期になると、個人住民税の制度改正(控除額の改定など)によって、収入と所得の変化のズレが生じる可能性もあるでしょう。
 
給与所得控除を例にとれば、1992年度時点では最低保障額は65万円(現在は55万円)、現在のような上限(給与収入850円超の場合は195万円で一定)が無かった。同じ給与収入であれば1992年度時点の方が2022年度よりも給与所得控除額が大きかったと考えられ、同じ給与収入であっても1992年度時点の方が2022年度よりも給与所得金額が少なくなっていた可能性があるというわけです。
 ホームページを見ると、市町村別の「給与所得の収入金額等に関する調」は無いようですが、所得金額だけでなく、例えば、給与収入金額での比較ができると冒頭の記事がいう「競争力」の中身がはっきりするような気がいたします。

#日経COMEMO #NIKKEI

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