延べ宿泊者数が2019年同月比で2ケタ増~2024年7月の宿泊旅行統計調査と2024年6月の出入国管理統計
観光庁の「宿泊旅行統計調査」の2024年7月分が本日(8月30日)公表されました。「出入国管理統計」の「短期滞在」の入国外国人の動向ともにポイントをまとめたいと思います。また、今月からは百貨店のインバウンド需要に相当する「免税売上高」の推移も示していこうと思います「。
2024年7月の延べ宿泊者数、前年同月比8.6%増
2024年7月の延べ宿泊者数は5390万610人泊であり、前年同月比で8.6%増加しました。6月の6.3%増(速報段階でも6.3%増)から伸びを拡大させました。日本人観光客の寄与が1.5%と3ヵ月ぶりにプラスとなりました。外国人の寄与は7.1%と2024年3月から5ヵ月連続で1ケタにとどまっています。
延べ宿泊者数の前年同月比の伸び率は2024年6月までは縮小傾向にあったのですが、7月は反転の兆しでしょうか?
2019年の同月比では日本人宿泊者の寄与が拡大
コロナ禍前の2019年の同じ月との比較もしてみましょう。2023年6月から14ヵ月連続でプラスになり、7月は14.2%増と伸びを拡大しました(6月は9.9%増へとわずかに下方改定されました)。
内訳をみると、外国人の寄与が8.0%、日本人の寄与が6.2%となっています。日本人の寄与は6月の1.5%から大きく拡大しました。夏休みシーズンになり、ようやく日本人旅行客も動き出したようです。
「短期滞在」の入国外国人は1~6月累計で前年の1.6倍
90日以内の滞在予定で入国する「短期滞在」の外国人、多くが観光目的と考えられる外国人も増加を続けています。現時点で判明している2024年6月において「短期滞在」の入国外国人は287.2万人で10ヵ月連続で2019年同月を超えました(1.14倍)。1~6月の累計でみると1609.2万人となり、前年の1.6倍です。多くが観光目的と考えられる外国人が前年の1.6倍のペースで入国していたら、混雑が起きるのも無理ないですね(汗)。
一方、観光目的以外も混在していると考えられる2024年7月の訪日外客数は、329万2500人。5ヵ月連続で300万人を超えました。ただ、2019年同月比は1.1倍と5,6月とほぼ同じでした。
客室稼働率、2019年同月に近づく
客室稼働率は引き続きコロナ禍前水準に並んでいます(2019年水準にはまだ届きませんが)。2024年6月の宿泊稼働率は61.8%。前年同月(57.9%)に比べて3.9ポイントの改善です。前年同月と比べた改善幅はこのところ緩やかに縮小傾向です(1月から、5.2ポイント→4.8ポイント→3.2ポイント→4.8ポイント→3.3ポイント→3.2ポイント→3.9ポイント)。客室稼働率の改善は一服しつつあるように思われますが、2019年7月(63.3%)にも近づきつつあります。
宿泊施設タイプ別にみると、ビジネスホテルとリゾートホテルがコロナ前水準を確保した一方で、観光需要が中心のシティホテル、旅館はコロナ前水準を下回っています。特に、旅館は5月、6月、7月と3ヵ月連続で前年同月水準を下回っています。働き手不足も影響しているのでしょうか?
2024年7月のビジネスホテルの稼働率は74.7%と前年同月に比べて5.3ポイント上昇しました。ただし、2019年同月の76.1%にはまだ距離があります。
観光需要が中心のシティホテルの7月の稼働率は74.2%。コロナ禍前の2016~2019年とまだ距離があります。
リゾートホテルは58.0%と前年同月に比べて4.2ポイント上昇となりました。コロナ禍前の2016~2019年にだいぶ近づいてます。
1~6月平均の客室稼働率が例年の値を上回ったのは13県
1ヵ月遅れで確認できる都道府県別データを用いて、2024年1~6月平均の都道府県別の客室稼働率を例年の値(2015~19年の1~6月の平均値)と比較すると、14県(青森県、秋田県、茨城県、栃木県、新潟県、富山県、石川県、福井県、長野県、三重県、滋賀県、鳥取県、島根県、大分県)が例年の値を上回りました。1~5月平均に比べて1県増えました。
石川県の客室稼働率は67.9%と2015~19年の1~6月平均(60.1%)を上回っていますが、その幅は徐々に縮小しています。復興支援者の宿泊などの影響が薄れてきているのかもしれません。
例年は外国人観光客が多かった都道府県の客室稼働率はまだまだ例年の値には及びません。落ち込み幅が大きい順に、(1)沖縄県(マイナス10.6ポイント)、(2)大阪府(マイナス7.7ポイント)、(3)佐賀県(マイナス6.6ポイント)、(4)千葉県(マイナス6.4ポイント)、(5)群馬県(マイナス6.4ポイント)となっています。
延べ宿泊者数が2019年同期を上回ったのは17都府県
2024年1~6月合計の都道府県別の延べ宿泊者数の前年比を確認してみましょう。減少しているのは16県(岩手県、秋田県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、神奈川県、富山県、山口県、愛媛県、高知県、佐賀県、長崎県、熊本県、鹿児島県、沖縄県)で、1~5月合計から2県増えました。石川県が51.3%増と断トツの伸びになっていますが、徐々に伸びが落ち着いています。
次に高い伸びとなっているのが鳥取県(24.7%)、岐阜県(21.7%)、三重県(21.6%)です。
一方、4年前(2019年1~6月合計)と比較すると、17都府県で延べ宿泊者数が増加となっています。1~5月合計と比べて3つ減りました。東京都が外国人観光客を中心に2019年対比でも43.0%増と最大の伸び。日本全体で延べ宿泊者数が増えていても、一部に集中している姿が確認できます。
クルーズ船観光客、さらに増加
次に、「出入国管理統計」の「入国審査・在留資格審査・退去強制手続等」の中で把握される「船舶観光上陸」を許可された人数を確認してみましょう。いわゆるクルーズ船観光客で、宿泊需要にはなりませんが、お土産などの消費につながる可能性があるものです。
2024年6月は12万9101人と前月に比べて大きく増加しましたが、2019年同月比は59%と5月(63%)に比べて縮小しました。2019年のクルーズ観光ブームにはまだまだ及ばないようです。ちなみに、クルーズ観光客も訪日外客数には含まれています(出入国統計の「短期滞在」には含まれません)。
1~7月の免税売上高合計が前年を抜いた
最後に、日本百貨店協会が毎月発表している「免税売上高・来店動向」を確認しましょう。8月23日の日経電子版でも報道されているように、今年の1~7月の累計で3978億円となり、昨年1年間の売上を抜きました。しかも、コロナ禍前の2019年の売上も抜いています。
直近の2024年7月は633.2億円と前年の2倍です。2019年の同月も300億円を下回っていましたので、最近の免税売上の大きさがわかります。
インバウンドの消費額を観察する統計には、観光庁の「インバウンド消費動向調査」(旧訪日外国人消費動向調査)の買い物代もあります。下の図は年データについては2019年=100、四半期については2019年同期=100としてこの買物代と百貨店の免税売上高の推移を比較しているものです。昨年後半から両者の四半期ごとのかい離が目立っています。
免税売上高に純粋なお土産以外の買い物が含まれている可能性もありますが、インバウンド消費動向調査の調査方法にも無理があると私は考えております(詳しくは下記リンクの私の論考をご覧ください)。
その一方で、インバウンド消費額は政策目標に挙げられることもあります。政策目標にするのであれば、百貨店だけではなく、他の業態でも免税売上高を調査して集計するなど実態を把握すべきと思うのですが、なかなか進みませんね…
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