成長率見通しに不可欠な「ゲタ」の視点

 内閣府は、本日、「内閣府年央試算」を発表し、2020年度の成長率見通しをマイナス4.5%へ下方修正しました。日経電子版では、以下のようにこの予測が思い切った下方修正であることを伝えています。

政府はリーマン・ショック後の09年度に成長率が実質マイナス3.3%になるとの試算を出したことがある。今回、コロナ禍による経済の急収縮を踏まえ、当時より厳しい数字を示した。

 確かに、マイナス4.5%というのは、リーマンショックが発生した2008年度のマイナス3.4%、翌09年度のマイナス2.2%を上回る厳しい数字です。しかし、その厳しさ度合いを本当に理解するには「成長率のゲタ」という概念を理解する必要があります。

 成長率のゲタは以下の公式で計算されます。

(1~3月期のGDP(季節調整値)÷当該年度のGDP)×100

 これは、翌年度の各四半期で前期比ゼロの成長が続いた場合に実現する翌年度の成長率です。2020年度について本日(7月30日)で最新のデータ系列に基づいて計算すると、マイナス1.6%になります。つまり、2020年4~6月期から2021年1~3月期までゼロ成長が続いた場合、2020年度の成長率はマイナス1.6%になるということです。上記の政府試算はマイナス4.5%と言っているのですから、マイナス2.9ポイントの上乗せになります。

 一方、2008年度、09年度のゲタはどうだったのでしょうか?本来であれば、その時点のデータ時系列(リアルタイムデータといいます)を用いて算出すべきですが、ここでは、上記と同じデータ系列を用います。

 2008年度のゲタはプラス0.3%でした。2008年度の年度成長率はマイナス3.4%だったので、マイナス3.7ポイントの上乗せです。

 2009年度のゲタはマイナス5.1%でした。2009年度の年度成長率はマイナス2.2%だったので、プラス2.9ポイントの上乗せです。ちなみに、2009年度は各四半期でプラス成長が続いたのに、マイナスのゲタが大きく、年度成長率はプラスにならなかったのです。

 このように見ると、今回の年央試算のマイナス4.5%は、決して厳しい数字ではありません。7月9日に公表された、2020年4~6月期の実質GDP成長率の民間予測平均(ESPフォーキャスト集計による)は前期比マイナス6.49%となっています。これが実現したとすると、残り3四半期(2020年7~9月期から2021年1~3月期)に前期比2.3%を続ける必要があります。コロナ禍から脱せていない日本経済にここまでの高成長を期待できるのでしょうか?

 さらに、8月3日には2020年1~3月期の実質GDPの再改定値が公表され、下方修正が予想されています。2020年度にかけてのマイナスのゲタはさらに深くなるのです。

 電子版の記事にあるように、2020年度の民間予測平均はマイナス5.44%、先日公表された日本銀行の政策委員の大勢見通しはマイナス4.5%~5.7%でした。改定しても、政府見通しは相変わらず楽観的と言えるでしょう。

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