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「L字カーブ」の実態は?

 昨日、この住宅ローンの記事を読んでいたら「L字カーブ」という言葉を見つけました。「M字カーブ」の誤植かと思ったら、違うんですね。記事では「ペアローンにはもう1つ固有のリスクがある。若年女性の正規雇用率が上がる一方、その割合が年齢とともに下がる「L字カーブ」は依然、残る。出産などを機に妻の収入が減ったり途絶えたりすると、一気に返済が苦しくなるおそれもある」とペアローンを借りる際の注意点について指摘しています。日本経済論を教えるものとして不勉強でした(汗)。ただ、このL字カーブ、額面通りに受け取って良いのでしょうか?


初登場は2020年らしい

ウィキペディアでL字カーブを検索すると、「公文書における「L字カーブ」の初出は、2020年7月の政府の有識者懇談会「選択する未来2.0」の中間報告においてである」と書かれていました。20代後半から30代前半の女性の労働力率(=各年齢層の労働力人口÷各年齢層の人口)が他の年齢層より低くなる「M字カーブ」がほぼ解消しつつある中、次は女性の正規雇用の比率を高めようという背景があるようです。

L字カーブを描いてみました

上記の日経の記事にもL字カーブのグラフは描かれていましたが、私も「労働力調査」(総務省統計局)のデータを検索してグラフを描いてみました。分子となる「正規の職員・従業員」の年齢階級5歳刻みのデータを見つけるのに少々苦労しましたが、「雇用形態,年齢階級別雇用者数(2013年1月~) 」データベースに必要なデータがありました。月次のデータなので、暦年平均をとったうえで、年平均の年齢階級別の女性人口で割ってみました。以下のグラフです。記事と同じように、2013年と2023年のグラフも比較しています。

確かに、25-29歳をピークに急低下しているように見えますが…

 図を見ると、確かに25-29歳をピークに女性の正規雇用比率は急低下しています。25-29歳で59.1%だったのが、30ー34歳では49%と10ポイントも低下、35-39歳になると40.3%まで低下します。10年間で19ポイント近くの低下です。
 結婚・出産を機に正規雇用で働くのが難しくなり、非正規雇用に移行している女性が多いのではないかとの見立てが出るのは不思議ではありません。
 一方、2013年に25-29歳だった女性は、2023年には35-39歳になっています。そして、2013年に25-29歳だった女性の正規雇用比率は44.3%で、2023年に35-39歳だった女性の正規雇用比率は40.3%です。低下はしているものの4ポイントにとどまっています。

同じ年代の女性の正規雇用比率はそこまで低下していない

 そこで、同じ年代に属していると考えられる女性の正規雇用比率の推移を確認してみました。2013年に25ー29歳だった女性は、2018年には30ー34歳、2023年には35-39歳になります。同様に、2014年に25ー29歳だった女性は、2019年には30ー34歳、2024年には35-39歳になります。残念ながら2013年以降しかデータがなく、2014年以降に25-29歳だった女性の35-39歳の正規雇用比率は現時点では確認できませんが、可能な限り推移を描いたものが以下になります。
2013~2018年に25-29歳だった女性の30-34歳にかけての正規雇用比率が確認できます。グラフでみてわかるように低下幅が年々小さくなっていて、2018年に25-29歳だった女性の30-34歳の正規雇用比率は2.7ポイントの低下となっています。2013年に25-29歳だった女性は30-34歳になったときに正規雇用比率が4ポイント低下していたので、改善していると言えます。

若年女性の正規雇用比率が年々上昇しているからL字に見える?

 一方、上のグラフで、2019年以降は25~29歳の女性の正規雇用比率しか得られないため、点になっていますが、その点が年々上に上がっていることが確認できます。若年女性の正規雇用比率が年々上昇しているのです。これは大変喜ばしいことですが、この急上昇によって、同じ年(例えば2023年)の年齢階級別のグラフ(日経の記事に掲載されたり、私が1番目に示したグラフ)でL字がきつくなっているように見えている面もあると思われます。
 このL字カーブのグラフ、内閣府の男女共同参画局の報告書でも使われているようです。EBPMに基づく政策運営が求められる中、データの扱い方についてももう少し丁寧にされてはいかがでしょうか?

#日経COMEMO #NIKKEI

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