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かい離する2つの「労働分配率」

 12月24日に、内閣府がGDP統計の19年度年次推計を公表しました。すでに、NQNスペシャルで穂坂デスクが書かれているように、労働分配率は2019年度にかけて一段と上昇したことが明らかになりました(私のコメントも使っていただいています。ありがとうございます)。

 記事中にあるように、GDP統計を用いた労働分配率は以下の2つが新聞記事などで良く用いられます。
(1)働く人々の給与等の総額である「雇用者報酬」を、国内総生産で割ったもの(以下、労働分配率(A)とします)
(2)雇用者報酬(海外からの雇用者報酬(純)を含む)を、国民所得(要素費用表示)で割ったもの(以下、労働分配率(B)とします)
 そして、記事では労働分配率(B)の方が労働者の分け前の割合を見るうえでふさわしいこと、労働分配率(A)は減耗が大きくなっている影響でミスリードになることを示しています。

 今回の年次推計では基準改定も行われ、GDPの実績値が過去にさかのぼって上方改定されています。詳しくは、下記の私のnoteをご覧ください。さらに、統計不正問題で世の中を騒がせた毎月勤労統計の再推計値を反映したことで2004年以降の雇用者報酬も改定されています。そこで、基準改定前(18年年次推計時点の値)と今回の基準改定後で、労働分配率(A)と労働分配率(B)の動きがどのように変わったのかを見てみたいと思います。

 まず、労働分配率(A)を見ると、2006~07年ごろを除いて基準改定後の方が低くなっており、基準改定前との差も徐々に拡大していることがわかります。これは、固定資本減耗が基準改定で膨らんでいることが主因です。一方、上記の私のnoteでも説明している通り、建設投資の過大推計を修正したことで2010年前後の名目GDPの上方改定幅が他の時期に比べて小さくなっています。さらに、雇用者報酬は2004年から09年にかけて上方修正されています。これらの要因がごちゃ混ぜになって労働分配率(A)の改定幅に影響をしているのです。ややこしいですね(汗)。

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 一方、労働分配率(B)はどうでしょうか?労働分配率(A)ほど、基準改定前と改定後の差がありません。改定後の方が高くなっている2005年度から09年度は雇用者報酬が上方改定した時期に重なります。逆に2010年度以降は、雇用者報酬が下方改定された時期になります。やはり、労働分配率(B)を用いた方が解釈がしやすいかと思いますね。そして、穂坂デスクの記事にもあるように、20年度の労働分配率(B)がリーマン・ショック後の2008年度を超えるかどうかが注目されます。

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#日経COMEMO #NIKKEI

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