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消費が14ヵ月ぶりプラスって本当?

 総務省統計局が本日(7日)に発表した「家計調査」において、世帯人員2人以上の世帯の実質消費支出が前年同月に比べて14ヵ月ぶりに増加したことが注目を集めています。日経新聞夕刊は、3連休で外食が伸びたことなどが要因だと報じています。記事につけられたグラフをみると、今年に入ってから前年同月比のマイナス幅が縮小してきた姿が確認できます。
 一方、GDP統計における実質個人消費(実質民間最終消費支出)の前年同期比の伸びは、2023年7~9月期にマイナスに転じて以来、マイナス幅が拡大してきました(7~9月期:▲0.2%→10~12月期:▲0.7%→2024年1~3月期:▲1.9%)。4~6月期のGDP統計が公表されるのは8月とまだ先ですが、消費の潮目が変わったのでしょうか?


そもそも家計調査とは?

 総務省統計局のホームページにあるように、「家計調査は、一定の統計上の抽出方法に基づき選定された全国約9千世帯の方々を対象として、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを毎月調査しています」。消費者物価指数を算出するうえで必要な、家計がそれぞれの財・サービスをどれだけ購入しているかという消費ウエイトを得るなど重要な統計です。
 一方、2020年の国勢調査で明らかになったように日本全体の世帯数は5583万であり、その0.02%の調査が日本全体の消費、特に前年同月比の動きをきちんととらえられるのか。正直、疑問です。

GDP統計の推計では、家計調査の重要度は低下

 昔、GDP統計における個人消費の推計は家計調査が重視されていました。しかし、2002年8月から始まっている現行の推計においては、需要側、つまりお金を使う側を調べる家計調査だけではなく、供給側(生産など)の統計もあわせて用いる形になっています。また、山澤(2021)によれば、個人消費の推計における需要側統計のウエートはいまや10%まで低下しています。

GDPの個人消費を月次でとらえるなら「消費活動指数」(日本銀行)を見よう

 一方、GDPベースの個人消費は四半期単位でしか把握できません。これを月次で把握できるように日本銀行が作成しているのが「消費活動指数」です。この指数は「財とサービスに関する各種の販売・供給統計を基礎統計」にしており、家計調査の情報は使っていません。
 下図は、消費活動指数の中の実質消費と家計調査の実質消費の前年同月比の動きを比較したものです。2023年3月から家計調査の実質消費の前年同月比はマイナスが続いてきた一方で、消費活動指数の実質消費は2023年はほぼプラスで2024年に入ってからマイナスに転じています。2024年4月の前年同月比は実質消費活動指数が▲0.3%で2ヵ月連続でマイナス、実質消費活動指数(旅行収支調整済)が▲1.0%で2023年12月から5ヵ月連続でマイナスです。

旅行収支調整済とは?

 そして、家計消費の実勢を表しているのは、後者の実質消費活動指数(旅行収支調整済)です。
 厳密にいうと消費活動指数は、GDPの個人消費(民間最終消費支出)そのものを捉えているわけではありません。個人消費の内訳は、以下のようになっていますが、消費活動指数は国内家計最終消費支出を、消費活動指数(旅行収支調整済)は家計最終消費支出を月次でとらえようとしています。

民間最終消費支出=家計最終消費支出+対家計民間非営利団体最終消費支出
家計最終消費支出=国内家計最終消費支出+居住者家計の海外での直接購入-非居住者家計の国内での直接購入

 居住者家計の海外での直接購入は日本を本拠にしている家計が海外で消費した金額、非居住者家計の国内での直接購入は外国を本拠にしている家計が日本国内で消費した金額です。いわゆるインバウンド消費です。国際収支統計においては、前者が旅行サービスの支払(輸入)、後者が旅行サービスの受取(輸出)になります。
 国内家計最終消費支出は、誰が消費したかは問わず、国内で行われた消費金額で、販売、生産統計を駆使して推計できます。一方、その中にはインバウンド消費が含まれているため、日本の家計の消費を捉えるにはインバウンドを差し引き、日本を本拠にしている家計が海外で消費した金額を加える必要があります。これが「旅行収支調整済み」の意味です。

消費の内訳がわかるのは国内家計最終消費支出と消費活動指数

 一方、旅行収支調整済みの消費活動指数や、家計最終消費支出では、耐久財、サービスなど消費の中身を見ることができません。
 GDP統計では、「形態別国内家計最終消費支出」というデータを提供し、耐久財、半耐久財、非耐久財、サービスの4形態別の消費額がとらえられます。消費活動指数でも、実質耐久財指数、実質非耐久財指数、実質サービス指数を算出しています。
 下図はこの3つの指数の前年同月比を描いたもので、確かに4月の実質サービス指数は0.3%と増えています。しかし、徐々にプラス幅が縮小していますし、このサービス消費にはインバウンドも含まれていることに注意が必要です。
 以上を見る限り、サービス消費に含まれる外食の増加で実質個人消費が4月は増えたという解説は、実勢を表していないのではないでしょうか?

追記:インバウンド消費も正確に把握できるのか疑問です

 ちなみに、上記に出てきたインバウンド消費が正確に把握できているのか、私はかねて疑問に思っています。その内訳(宿泊、飲食など)も同様です。詳しくは、東京財団政策研究所のREVIEW(下記のリンク)に書かせていただいておりますので、ご高覧いただければ幸いです。

https://www.tkfd.or.jp/files/research/Data_Lab/EBPM%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%91%E3%81%9F%E7%B5%8C%E6%B8%88%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%81%AE%E7%8F%BE%E7%8A%B6%E3%81%A8%E8%AA%B2%E9%A1%8C240313.pdf#page=26

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