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政府予算案、前年度の当初予算と比べて意味あるの?

 昨日(12月22日)、政府は2024年度の当初予算案を決定しました。日経朝刊は「23年度から予備費を4兆円減らしたが予算規模の縮小はおよそ2兆円どまりと実質的に増額で、抑制に踏み込めていない」とこの当初予算案を総括しています。この比較の対象は、前年度(2023年度)の当初予算、すなわち年度初めに決まっていた予算です。2023年度はまだ終わっていないから決算と比べるのは無理としても、決算見込み的な数値と比べるべきじゃないんですかね?
 そこで、主要な当初予算費目に関して、当初予算、補正後予算(補正予算が組まれた後の改定予算)、決算を比べ、今回の予算案を観察してみたいと思います。2023年度の補正後予算は、11月29日に成立した第1次補正予算後の数値を用いています。


税収は2023年度決算額から3~4兆円減の見込み?

 税収の当初予算案は69兆6080億円で前年度当初予算(69.4兆円)に比べて0.2%増とわずかな伸びしか見込まれていません。特別減税など税制改正で2024年度は減収額が3.8兆円見込まれているので、名目ベースで経済成長して税収が伸びても、特別減税でチャラになるという姿を示しているように見えます。
 ただし、2021年度、2022年度と当初予算における税収見通しは、補正後予算、さらに決算で上方修正されてきました。2021年度の税収の決算額は予算に比べて9.6兆円、2022年度は5.9兆円も上振れました。

 確かに、2023年度の月次の税収入(租税及び印紙収入、収入額調一覧)は10月までの累計の実績を見ても2022年度を下回っている。そのためか、2023年度の補正後予算は当初予算とほぼ変わらない金額(69.6兆円)です。ここから来年度を予測すれば2024年度の69.6兆円も正当化できるのかもしれません。
 しかし、財政問題等に詳しい、第一生命経済研究所主任エコノミストの星野卓也氏のリポート「なぜ税収は去年より減っているのか?」は2023年度の税収減に特殊要因があることを明らかにしており、伸びは鈍化するものの2023年度の税収の決算額は73~74兆円と見込んでいます。この見通しを前提とすると、2024年度の税収予算は2023年度決算から3~4兆円減。経済成長による税収増はほぼゼロで、特別減税等による減収分が引かれた値ということになります。
 一方、21日に公表された政府経済見通しでは2024年度の名目GDP成長率は3.0%が見込まれています。名目3%成長でも税収は増えないんですかね?”甘い”政府経済見通しに対して、”辛い”税収見通しという性格が2024年度も出ているのですかね?(詳しくは下記リンクの拙稿をご覧ください)。

歳出全体も、過去の決算に比べれば正常化モードか?

 歳出についても、決算や補正後予算と比較すると、当初予算対比と違う姿が見えてきます。決算ベースでみた一般会計歳出は2020年度の147.6兆円をピークに、2022年度には132.4兆円まで縮小してきました。2023年度の補正後予算は127.6兆円とさらに減少しています。2024年度の予算額は112兆717億円なので、約12%の歳出減です。日経の記事に書かれているように「本予算は社会保障費や防衛費など減らしにくい項目で固まるため、各省庁の要求に応じた成長分野への支出は補正予算が中心といういびつな構造になっている」のは確かで、2024年度も補正予算の話は出て来そうではありますね(汗)。

 記事では社会保障費が過去最高となっていると言っていますが、決算ベースではコロナ禍の2021年度にピークをつけた後、減少傾向にあります。2023年度の補正後予算は38.2兆円であり、当初予算(36.9兆円)にだいぶ近づいています。

 記事がもう一つ注目している国債費は長らく決算が当初予算を下回る状況が続いてましたが、2021年度は決算が当初予算を上回りました。2023年度の補正後予算(25.7兆円)も当初予算(25.3兆円)を上回りました。日経の記事では、予算も「金利ある世界へ」と想定金利の引き上げにより国債費の当初予算が増えたと報じています。
 ただし、2023年度の利払費は当初予算から8903億円減額され、代わりに返済にあたる債務償還費が1兆3147億円増えてます。2024年度当初予算も、補正後予算や決算で利払費が減り、債務償還費が増えるという組み替えが行われるのではないでしょうか?借金の返済が進むのは喜ばしいことかもしれませんが?


政府も月次決算をすべきでは?

 以上のように、決算や決算見込みにあたる補正後予算で観察すると、政府予算の推移は異なって見えます。もちろん、補正予算は異例なことで、政治家の皆さんからの歳出増圧力に抵抗するうえでも、当初予算ベースで語りたい財務省官僚の皆さんのお気持ちもわからないでもありません。
 ただ、正確な予算を組むために実態に即した前年度の決算見込みは欠かせないのではないでしょうか?そのために、民間企業と同様に政府も月次決算をすべきではないでしょうか?
 GDP統計の中で、年次推計での改定幅が大きいのは政府支出(=政府最終消費支出+公的固定資本形成+公的在庫変動)です。公的固定資本形成は速報段階では公共工事の受注側である民間建設会社などの統計に依存しているためです。政府の月次決算が行われれば、こうした問題も解消するのではないでしょうか?

#日経COMEMO #NIKKEI

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