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賃金データの観察にご注意を!

物価上昇から名目賃金上昇までには時間差があるよね?

 昨日(1月6日)発表された「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)の11月速報値で、実質賃金の前年同月比増減率が3.8%減と一段とマイナス幅が拡大したことを今朝の日経が扱っています。実質賃金の前年同月比増減率は、名目賃金(現金給与総額)の前年同月比増減率から消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比増減率を差し引いたものにほぼ等しくなります。
 2022年11月の名目賃金上昇率が0.5%と1~2%台だった10月までに比べて伸び悩んでいる一方で、消費者物価上昇率が拡大したことで実質賃金の下落率が拡大した形です。日本における、いわゆる正社員の賃金改定が毎年春に行われることを踏まえれば、足元の物価上昇が名目賃金の上昇に波及するのに時間がかかるのは仕方ない部分があるかと思います。実際、賃金改定がより頻繁に行われると考えられるパートタイム労働者の時間当たり賃金(いわゆる時給)上昇率は2.5%と、前月(10月)の1.4%から高まっています。

単月のブレが大きい名目賃金上昇率

 さらに注意しなければならないのは、単月の名目賃金上昇率はブレが大きいことです。下のグラフは、所定内給与、定期給与(=所定内給与)、現金給与総額の前年同月比増減率の推移を描いたものです。青色の現金給与総額の変動が、所定内給与や定期給与に比べて大きく、時々、前後の変動からかけ離れた異常値(例えば2015年6月)もあることが確認できると思います。
 これは、いわゆるボーナス(特別給与)の変動によるもので、業績の急激な悪化によりボーナスが大きく減って、現金給与総額の下落率が高まることも当然あります(例えば2020年の冬のボーナス時期)。
 しかし、2015年6月、7月という夏のボーナス時期では、6月に2.4%減と大幅マイナスになったかと思ったら、7月にはプラスに戻るということが起きています。この一因は、当年と前年の調査対象が必ずしも同じではなく、例えば、前年は6月にボーナスを支払う企業が多く、当年は7月にボーナスを支払う企業が多くなることで起こり得ます。
 2022年11月の現金給与総額の上昇率が低下したのは、特別給与が19.2%減と大幅に減ったためですが、これが実勢なのかどうかは、2022年12月の調査結果を見ないと判断できないということです。少なくとも、所定内給与や定額給与は緩やかに上昇率が高まっているので、賃上げの機運は高まりつつあると期待しても良いのではないでしょうか(新春のインタビューでも企業経営者はそう言ってますし…)

共通事業所ベースをお忘れか?

 数年前のいわゆる毎月勤労統計調査問題で脚光を浴びながら、最近はとんと忘れられている?共通事業所ベースの現金給与総額も見ておきたいです。前年同月の調査、当月の調査でともに調査・集計対象となった事業所のデータのみを用いて、賃金上昇率を計算したものです。
 下の図は新聞で扱われている現金給与総額の前年同月比と、共通事業所ベースの現金給与総額の前年同月比を比較したものです。共通事業所ベースでは、2021年春先からボーナス支払期を除くと1%強の賃金上昇が続いており、2022年11月も1%上昇になっていることが確認できます。新聞で扱われている現金給与総額の前年同月比のような急縮小は確認できません。
 2022年12月以降についても、しっかり動向を確認してきたいと思います。

#日経COMEMO #NIKKEI

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