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詩のようなものだけ集めてみます。
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#小説

春月

春が来るよ春が来たよ花が咲くよ
耳に馴染んだ名調子に女たちは色めきたつ。
今年も、春のパーツ売りがやってきた。

冬の顔は流行遅れ。
春の顔に着替えなきゃ。
「これまでのわたしを脱ぎ捨てて」
春の花を咲かせなきゃ。

「知的な女になる口紅の魔法はいかが。
 乙女の肌が蘇る魔法の頬紅だよ」
梅の雨には溶けて消えてしまうのに、春の魔力には抗えない。
女たちは魔法を買い漁る。

「悪くなりたけりゃこれは

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つむじ風たち

やあ、旅の人!
旅の人だとすぐにわかるよ
この町寄るのは初めてなんだろ
だって回ってないんだもの!

つむじ風ばかり吹くこの町じゃ
風に逆らえば飛ばされる
だから回ってやり過ごすのさ

歩くかわりに地面を蹴って
トン!と風に乗って回るんだ
慣れりゃ二階までも飛んでける
ほら、あそこの葉っぱのようにな

トン!と蹴って、ヒョイ、と乗るのさ
つむじ風はわしらの自転車
風を扱うのはお手のもの
コツをつか

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夜を掬う

夜を掬う

るるる……るるる……

山の奥深く。
虫の音に何百というカエルの輪唱がかぶさって、山は震える鈴の音色に包まれている。
そこへ、空気をかすかに乱す話し声。

(こんばんは。今夜はとりわけ空気が澄んでいますね)
(空のあなたが羨ましい。さぞかし気持ちの良いことでしょう)
(水面に泳ぐあなたこそ、波に揺られていつも楽しそう)

空に浮かぶ月と、湖面に映る月。

彼女らのいつものやりとりに、山の木たちは首

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Paper Castle

Paper Castle

真白い紙の真白なお城に
真白いお嬢さんが住んでいた

真白い部屋に真白い扉
紙テーブルに紙の椅子
切り絵のカーテンは花模様

真白い出窓を開けたなら
真白い紙の花畑
真白い紙の蝶々が
匂いのする花さがしてる

ある朝めざめたお嬢さん
紙のふとんをはねのけて
真白いベッドを飛び出した。

真白い庭の紙の木に
まんまるりんごの実がひとつ
真白い紙の葉っぱのなかに
真っ赤なりんごがただひとつ

りんごを

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