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戸田鳥
2016年5月8日 22:19
春が来るよ春が来たよ花が咲くよ耳に馴染んだ名調子に女たちは色めきたつ。今年も、春のパーツ売りがやってきた。冬の顔は流行遅れ。春の顔に着替えなきゃ。「これまでのわたしを脱ぎ捨てて」春の花を咲かせなきゃ。「知的な女になる口紅の魔法はいかが。 乙女の肌が蘇る魔法の頬紅だよ」梅の雨には溶けて消えてしまうのに、春の魔力には抗えない。女たちは魔法を買い漁る。「悪くなりたけりゃこれは
2016年5月2日 23:16
やあ、旅の人!旅の人だとすぐにわかるよこの町寄るのは初めてなんだろだって回ってないんだもの!つむじ風ばかり吹くこの町じゃ風に逆らえば飛ばされるだから回ってやり過ごすのさ歩くかわりに地面を蹴ってトン!と風に乗って回るんだ慣れりゃ二階までも飛んでけるほら、あそこの葉っぱのようになトン!と蹴って、ヒョイ、と乗るのさつむじ風はわしらの自転車風を扱うのはお手のものコツをつか
2016年2月13日 16:51
るるる……るるる……山の奥深く。虫の音に何百というカエルの輪唱がかぶさって、山は震える鈴の音色に包まれている。そこへ、空気をかすかに乱す話し声。(こんばんは。今夜はとりわけ空気が澄んでいますね)(空のあなたが羨ましい。さぞかし気持ちの良いことでしょう)(水面に泳ぐあなたこそ、波に揺られていつも楽しそう)空に浮かぶ月と、湖面に映る月。彼女らのいつものやりとりに、山の木たちは首
2015年10月27日 20:41
真白い紙の真白なお城に真白いお嬢さんが住んでいた真白い部屋に真白い扉紙テーブルに紙の椅子切り絵のカーテンは花模様真白い出窓を開けたなら真白い紙の花畑真白い紙の蝶々が匂いのする花さがしてるある朝めざめたお嬢さん紙のふとんをはねのけて真白いベッドを飛び出した。真白い庭の紙の木にまんまるりんごの実がひとつ真白い紙の葉っぱのなかに真っ赤なりんごがただひとつりんごを