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【読書記録】罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法

参考になった書籍についてまとめました。これは私の個人的な抜粋と感想です。興味をお持ちの方は、ぜひ書籍全体をお読みください。

はじめに。
管理職面白そうやん!管理職辛いけどもう少し頑張ってみよう!みたいにはなりません。

現在の管理職(いわゆるマネージャー)が直面している状況を構造的に分析し、その課題を少しでも解決するための施策についてまとめられています。

そのため、周囲に相談できるメンターがいない私のようなマネージャーにとっては、非常に励みになる内容でした。しかし、これから管理職を含めたキャリアを考えている方には、ややネガティブな印象を与えるかもしれません。

【理解編】管理職の「罰ゲーム化」とは何か

管理職とは?

①情報収集や経営メッセージの流通や共有を主とする情報関係の役割

②日常業務の処理や新規事業の立案、グローバル化への対応などの業務遂行関係の役割

③部下への指導や育成、風土醸成やトラブル解決といった対人関係の役割

④企業のガバナンスや労働法の遵守といったコンプライアンス関係の役割

管理職への期待値は組織ごとに違いはあるが、このようにリストアップされるとマジで組織の要。って再認識します。参考までに経団連の資料も載せておきます。

「ミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応」一般社団法人 日本経済団体連合会(2012.5.15)

現状整理

問題はこれらのどこに負担を感じているのかっていうこと。筆者らがとったアンケート結果は想像通りのものでした。

③と④ですね。

特に「部下の扱いやコミュニケーション」だそうです。コミュニケーション下手なん?そうではありません。
【解析編】と【構造編】で問題の構造を理解できますのでもう少し読み進めてください。

「部下マネジメント全般」の負担感に加え、ハレーションの生まれやすい「評価」と「トラブル対処」が心理的負担を、「はみ出し仕事のフォローアップ」が業務量的負担を上げている。

もう辛いですね。
さらに、追い打ちかけてきます。

組織フラット化による管理職ポストの減少

管理職とメンバー層の「タイパ逆転」の現象

もちろん、この現状を若手は見ているので管理職意欲は低下しています。
そして・・・、

日本では一般職よりも管理職の方が死亡率が高い

では、なぜ管理職志願者数は極端に減少しないのか?

「罰ゲーム化」してもまだ管理職のなり手が現れてきているのは、日本社会に残っているこうした大きなジャンダー・ギャップのおかげだ、という言い方もできます。

ライフイベントを機に「時間」と「休み」を重視する傾向が強い女性にとって、管理職への道は非常にハードルが高くなっています。
一方で、ライフイベントを機に「お金」を重視する傾向が強い男性は、それに伴う覚悟を決めて取り組むという感覚が根強いです。

このジェンダー・ギャップが、現在の管理職の候補者数を支える一因となっているそうです(書籍内ではアンケート結果を使って詳しく説明されています)。

【解析編】管理職の何がそれほど大変なのか

管理職はその役割からして大変なポジションであることは間違いありません。役割のみに注目すれば、筋肉質な考え方(マネジメントスキルを磨いて管理職として強くなるぞ!)で対応可能かもしれません。
しかし、これから紹介するマクロな環境を考慮するとそうは言ってられないと理解できると思います。

管理職を罰ゲーム化するマクロなトレンド

本書にある図表がわかりやすいのですが…。
キーワードだけまとめます。

バブル崩壊後の「経済の長期停滞」と「人手不足」の進行は、特に重要なファクターです。
これらが経営環境に大きな影響を与え、「成果主義」の採用、「組織のフラット化」、「プレイング・マネージャー」の増加といったトレンドを加速させています。

さらに、「ダイバーシティの推進」や「ハラスメント防止法の施行」など、現場マネジメントの難易度と個別性はますます高まっています。

これが管理職の負荷増加の長期トレンドです。

一方で、負荷軽減の施策も登場します。
それが、「働き方改革」です。
はぁー助かったというわけにはいきません。

「(勤務先の)働き方改革が進んでいる」と回答した管理職のほうが、そうでない管理職に比べて、業務量自体が増加したと答えています。

全くもって意味がわかりません。

筆者はこの皮肉な事態を「働き方改革の二重の矮小化」にあると主張しています。

二つの矮小化とは、労働生産性向上という本質的な内実を伴わない「労働時間上限設定への対応」と改革対象を職場全体ではなく労働時間管理の対象である「メンバー層へ限定」と説明されています。

さらに続きます。

組織の平均年齢の上昇やポストオフ後も長く働くということが増えています。
一方で、年功序列の傾向は希薄になっており、年上部下問題が発生する年輪型秩序が生まれているということです。
つまり、人事制度の「年功」と社会秩序の「年輪」にギャップが生じているので、マネジメントコストがバカ上がりするという構図です。

管理職負荷のインフレ・スパイラル

これまでに見てきた社会的、組織的なトレンドだけであれば制度、組織課題として対応できるのかなって思ったりします。しかし、問題はより複雑になっています。

その複雑化した問題のサマリーがこちらの地獄絵巻です。

「中間管理職の就業負担に関する定量調査 結果報告書」パーソル総合研究所(2019年11月)

各項目の詳細は、本書を読んでいただくとしてポイントだけまとめたいと思います。

現場のマネジメント・ループ
管理職の負荷が上がると何をはじめるか。そう、マイクロマネジメントです。作業効率だけを求めるのであれば、わからなくもないです。マイクロマネジメントをすると部下は「配慮的」「批判的」になっていきどんどんマネジメントコストは増加していきます。

管理職人材不足ループ
管理職の負荷が上がると育成時間が削られ、その働きぶりを見て、若手は管理職になりたくないと思うようになります。

人事の個別対処ループ
会社は何も対応していないのか?そんなわけはないです。ただ、認識がずれているのです。筆者らは管理職と人事部門に対して、管理職が抱える課題感が何かというアンケートをとっています。人手不足の課題感がずれており、人事部はいつまでも「マネジメント・スキル」で乗り切ろうとしてきます。その結果、管理職のやることが増えていきます。

【構造編】ここが変だよ、ニッポンの管理職

この章では、バグの発生源、組織構造上の問題についてまとめられています。

「オプトアウト」方式の昇進

入社と同時に「未来の幹部層候補」として扱われ、手上げ式に昇進レースから抜けていくという構造です。海外はオプトイン方式ということなのでかなり特殊な環境ですね。オプトアウト方式の場合は意思と関係なく昇進機会が開かれているが故にそのレースからの離脱が意思によるものと捉えられがち。

管理職になると市場価値が下がる?

組織構造と役割が欧米の管理職とは異なり、ジョブとしても不明確で役割やミッションのような職業としてのマーケットを形成しづらい。他にも役職定年、ジェネーレーションギャップからの世代逃走について説明されていました。(→このトピックについては正しく理解できているか不安なので、気になる方は原著を読んでください。)

脱・官僚的な自律型組織という全か無かの二分法的な思考による改革を推し進めた結果、中途半端なピラミッド型組織となっていると理解しました。

【修正編】「罰ゲーム化」の修正法

修正方法についてです。この絶望的な状況を改善するため、ただ安心できる言葉を期待するのではなく、現実に向き合う必要があります。既にお分かりのように、この問題には簡単な解決策や「ラスボス」のような明確な敵は存在しません。筆者が「解決法」ではなく「修正法」という表現を選んだのも、この複雑な問題に対する段階的なアプローチの必要性を強調するためだと私は考えています。ともに戦い続けましょう。
それでは、ポイントをまとめていきます。

フォロワーシップ・アプローチ

管理職の部下、つまりフォロワーである「メンバー層」へのトレーニングを増やす。特に現在欠如しているのは「ピープル・マネジメント」の領域です。
脱・リーダーシップ偏重。
STEP1:トレーニングの偏りを認識。
STEP2:メンバー層への育成内容の「見える化」。
STEP3:メンバー層への簡素化したトレーニングの提供。
STEP4:メンバー層向けに、同様の内容を教える。

ワークシェアリング・アプローチ

ベース施策:現状把握(管理職の労働時間の把握、役割の把握)、組織構造・フラット化の見直し、働き方改革のアップデート(効率化、生産性向上、アウトソーシング)。
デリケーション施策:下位管理職への公的な権限付与、承認プロセスの省略、タテの分業の明確化。
エンパワーメント施策:メンバー層へのインフォーマルな役割分担・育成機会の付与、管理職研修。

ネットワーク・アプローチ

管理職同士のネットワーク構築施策。
水平型:管理職同士の横のつながりを創る。
垂直型:上位管理職とのつながりを創る。
越境型:社外でのつながりを創る。

キャリア・アプローチ

会社の昇進構造や選抜のあり方の変更。健全なえこひいきと職域限定的育成。管理職候補のジェネラリスト型マネージャーとスペシャリスト型マネージャー、スペシャリストの各キャリアごとでオプトイン型の行ったり来たりの組み合わせ。

【攻略編】「罰ゲーム」をどう生き残るか

組織としての取り組みはわかりましたと。では、現在進行形の管理職や管理職候補の私はどうすればいいのでしょうか?となりますよね。
私はなりました。【構造編】を読む前に先にこの章を読みました。

簡潔に私の言葉でまとめてみます。

  1. 4つの「修正」を提案し、現場からスモールスタート。

  2. 期待値を擦り合わせて、積極的に「やらない」上司になる。

  3. 「タテのものさし(成果)」と「ヨコのものさし(やり方)」に幅を持たせる。

  4. 筋トレ発想を捨てる。

この本を読んだ翌日から急に始めるとあいつ辞めるんじゃないか?と噂になりそうなので徐々に変えていきたいと思います。
結果的にメンバー層が積極的に動き、組織としてのパフォーマンスが上がることを願って。

結局、管理職になるのは、「得」なのか「損」なのか

最後は筆者からの熱いメッセージでした。

管理職になった人が感じている変化とは、目の前にある仕事や自分自身が置かれている「今ここ」の、さらに、”その先”にあるものです。

管理職になるということは、自らの身を「贈り手」の側へと置きなおすこと

もちろん、管理職以外でも「その先」にある景色を見ることができるとフォローされていますが、私は管理職という立場になって人間としての成長を感じています。そういう意味では、この贈り手という感覚を掴みやすいポジションなのかもしれません。

感想とまとめ

管理職の置かれている状況と組織の問題点、その改善方法について実際のアンケートデータに基づいてまとめられており、内容は終始納得感の強いものでした。この本を読んで、管理職になりたい!って思うことはないかもしれません。管理職になることが「得」なのか・・・。

それは分かりません。ただ、管理職をやってみて思うのはこれまでにない引き出しが色々増えたなと言うこと。これは「得」だったのか?笑

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