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『人』がコンテンツ ~ もとまち朝市~


福島県南相馬市原町区にある三嶋神社で、毎月開催している「もとまち朝市」。初開催は2021年11月だったので、この記事を書いている時点(2023年12月)で、2年ちょっとということになる。
まだたったの2年しか経っていないが、その間に出店者も来場者もじわじわ増えてきた。
そこで拡大した理由を自分なりに考えてみると、この朝市を通じて学んだことがたくさんあることに気づいたのだ。

そんな話を書き記しておきたい。


始めたきっかけ

ここ南相馬市もご多分に漏れず、人口減少と共に高齢化が進んでいて、もとまち朝市を開催している原町区本町では高齢化率35%、隣の大町では高齢化率50%とのこと(ソースが示せず申し訳ない)。なるほど確かに、町内を歩くとお歳を召した方をお見かけすることが多い。そしてそうした方々にお話を伺うと、「これから先体力が落ちていくと、日々の買物が不安だ」という声をたくさん耳にする。
「それじゃあ近くでマルシェでも開いて、地域の人に地元産の野菜を売ってみっか」
と、余り深く考えずに、開催に向けて準備を始めた。
開催しようかどうかしばらく逡巡していたところ、一緒に活動している仲間たちに「やってみたら良いじゃん!」と尻を叩かれ、エイヤでやってみることにしたというのが真相だがw。

地域との『縁』

始めは「出来る範囲で小さく始めよう」ということで、車1台分も無い小さな空き地で、テーブル1台出して野菜を拡げて販売しようと考えていた。ご近所さんだけに告知して、ちょこっと販売するところから始めようと。
「試しにやってみて、実績が出来たら規模を大きくしていこうかな」
と考えてたわけだ。
そこでそのアイデアを携えて、いつもお世話になっている商店会長さんに相談に行ったのだが、そこで
「んな狭いとこでやんなら応援出来ねえな。三嶋神社の宮司に声かけてやっから、三嶋神社の参道でやったら良いんでねえの」
という返事が。

南相馬市原町区の、旧国道沿いに鎮座する三嶋神社
何とこの参道で、マルシェを開けという提案が


三嶋神社とは、南相馬市原町区本町に古くからある神社で、大晦日の夜は「年越し詣で」にやって来る人たちで大変賑わう場所。言うなれば、この地域の象徴のような場所だ。実のところ、三嶋神社の参道でマルシェを開くことは「実績を重ねてからお願いしに行ってみよう」と企んではいたのだが、それが地域の人の口利きで、いきなり実現してしまう。なんともビックリだったのだが、これはとんでもなく光栄なことだ。

私は2011年に引っ越してきた移住者だが、移住した頃から、商店会の方々とは密接に関わり(というかお世話になりまくり)ながら10年以上過ごしてきた。東日本大震災とそれに伴う原発事故によって、この地域の営みは破壊されてしまったわけだが、失われた地域の営みを取り戻そうと、私も及ばずながら地域の人と共に活動してきた。そうして培った10年分の「ご縁」が、こういう願い事や相談を、お互いに出来る関係性をつくっていたという事なのだろう。

蛇足だが、私が地域にお世話になった(というか今もお世話になっている)、ご恩を地域に返したいという気持ちも、マルシェを始めた理由としてかなり大きかったりする。

最初はこぢんまり始めたが……

始めはこのように、軽トラを並べただけで開催していた

三嶋神社の参道は、一部を駐車場として使っているものの、基本的に車が通行することが無い場所。そのうえマルシェを出店するには十分な広さもある。そこに人が集まっても、交通の妨げになることが無い。子連れで買物に来ても安心だ。
そこに農家さんの軽トラを並べ、地元のスーパーが惣菜販売で出店もしてくれ、店舗数5店舗ほどで始めたマルシェ。
それが「もとまち朝市」の始まりだ。

「これならゆっくり買い物してもらえるかな」
「お客さんは何人くらい来るかなぁ」
「まぁちょぼちょぼでも、来た人達が喜んでくれりゃあ良いや」
まずはそんな気持ちで、軽く始めてみた。すると、近所の方々がそれなりに来場してくれ、まずまず賑わったのだ。トータルの来場者数は20~30人ほど(人数を数えていないので、正確な人数は不明w)と少なかったけど……

野菜を囲んで、農家さん、お客さん、手伝ってくれたボランティアさん等の間でお喋りが弾む

初めて開催した割には、お客さんも来てくれたかなと。
そして、人が集まれば会話も弾むわけで。そこかしこで
「あらお久しぶり!元気にしてる?」
「朝市やるっつーから、楽しみにしてたのよ」
と立ち話の輪が出来ていた。そして、
「この野菜はこうして食うと美味いよ」
「せっかく買ってくれたから、こいつオマケだ」
「試食に漬け物つくってきたから食ってみろ?」
というやり取りが、売り手の農家さんとお客さんの間でも繰り広げられている。

おや、何だか楽しいぞこれ。
見ると、その場にいる皆さん笑顔だ。皆さん人とのコミュニケーション……というか、朝市の「場」を楽しんでくれている。
そして誰より、主催者である私がメチャクチャ楽しんでいる。

その場にいるだけでウッキウキなのだw。

人付き合いの【スキル】

先ほども記したが、私は移住者だ。この町に来る前にもに何度か引っ越しをし、住む地を変えている。だが、この日のもとまち朝市のような雰囲気を持った場は、どの町にも無かった。いや、遠い昔の記憶を辿ってみると、まだ幼かった頃、昭和40年代から50年代初め、母親に連れられて、近所の商店街に買物に行ったとき、こんな風景を見たような気がする。買物途中に行き会ったご近所さんと母が、よく井戸端会議のような立ち話をしていた。商店街の商店主もみんな顔なじみで、子どもだけで歩いていても
「どこ行くの?」
「気をつけて歩きなさいよ」
「遅くならないようにね」
と、そこかしこから声が掛かった。安心して過ごすことが出来たのだ。

あの頃の雰囲気と似た、どこか懐かしい雰囲気……。

もとまち朝市には、そんな空気が漂っていた。

小さな子どもも安心して過ごしてます


つまり、この40~50年の間に都会では失われてしまったそんな空気を、この町の人たちはまだ持ち続けているということだ。
これはホントに大きな発見。
そこで、なぜその空気感を維持出来ているのかを考えてみたところ、この街の皆さんの「人との距離感」が素晴らしいということ気づいたのである。
「この町の人は、他の人と絶妙な距離感を保って接することで、暮らしを成り立たせ、町を守ってきたのだな」
きっと日本中どこでも見られたであろう、しかし都会では失いつつあるこの心地良い距離感。

思うにこれは、この地の人たちが持っている【スキル】なのだ。
そしてこの【スキル】は、失われた地域の営みを取り戻す鍵では無いかと思うようになる。

人そのものが【コンテンツ】

そして私は、「この町では、『人』そのものが【コンテンツ】だな」という思いに至ることになる。ここでいうコンテンツとは、【伝えるべき魅力的な情報】という意味で捉えていただきたい。つまり、地域を盛り上げるに当たって、特別なイベントはしなくてもいいのではと思うようになったということだ。

前の項で、この町の人が持っている【スキル】について述べたが、スキルといっても、もちろん誰かから教わったものでは無い。これは町の人たちが、周囲の人との関わりや日常の中で、自然と育んだものだ。
ここ南相馬市は、相双地域(福島県の海沿いの地域である『浜通り』の北部に位置する地域)の中では比較的開けた町だ。けれども、都会と比べれば足りないものも多い。スーパーマーケットや病院、ドラッグストアなど、生活に必要な最低限のものはある。しかし市内を網羅するバス便がないので、市内に住む人は車は必須。そして買物をするにも医療サービスを受けるにも、都会のように複数ある選択肢の中から選ぶことは出来ない。選ぶほどバリエーション豊かでは無いのだ。
そういう場所で人々が暮らしていると、必然的に人と人のつながりは密になり、協力し、足りないものを補いあって生活するようになる。
地域の人が力を出し合って、道路の草むしりをしたり、お祭りの準備をしたり(この地域には「相馬野馬追」という有名なお祭りがある)。そして
「野菜もらったんだけど少しもらってくんない?」
「煮物つくったから、良かったら食べて」
という「おすそ分け」が日常的に行われている(私も常日頃これに助けられている)。
『最近あそこの○○ばあちゃん見かけねえな』となれば、誰かが様子を見に行く。
そんな『相互扶助』の習慣が強く残っているのだ。
この習慣は、昔からこの地域にあったものだろう。それがさらに強化されるようなモノが、ここには導入もされている。
江戸時代後期の天明の大飢饉以降に入ってきた、二宮尊徳の『報徳思想』がそれだ。
報徳思想とは簡単に言うと、
『至誠(誠実であること)』
『分度(予算を決めて、相応の暮らしをすること)』
『推譲(余剰分を飢饉に備えて蓄え、困った人にそれを譲ること)』
『勤労(働くことを奨励し、新しいアイデアや良い働きは皆で褒めあい、時には賞金や賞品を渡すこと)』
を柱とした地域振興策。そこに住む人一人一人の個性を伸ばしつつ、地域全体で協力して地域の利益を最大化するというものだ。
これを実際に暮らしの中で実行するには、地域の人々の協力体制が欠かせない。もともと地域にあった『相互扶助』の習慣は、この報徳思想の広まりと共に強化されたのだろう。
それに加えこの地域では、同じく江戸時代後期の天明の大飢饉以降、移民政策が進められた。外から人を迎え入れたのである。
さらには、もとまち朝市を開催する南相馬市原町区本町は、江戸時代は宿場町で、旅人を迎え入れる場所だった。

これらのことを合わせて考えてみるにこの場所は、江戸時代の頃から、外の人を地域に迎え入れつつ『地域のホスピタリティー』を高めていったのだろう。
だからこそ、人同士が心地良い距離感でつながる【スキル】が培われたのだと、私は思う。
この地域では、日常的にこうした温かいやり取りが住民の間で行われていた。その場において、この温かいホスピタリティーを提供する地域の皆さん自体が、この地域の持っている【コンテンツ】、つまり伝えるべき情報なのだ。
朝市の場を見ていると、それがよく分かる。農家さんが試食にと持ってきた漬け物を囲み、初対面の人同士が小さなお茶会を開いたり、移住してきて間もない人が、この場所の居心地の良さに惹かれて常連さんになったりといったことが、頻繁に起こっている。

東日本大震災で、壊れてしまった「町の機能」を取り戻すには、この『地域の人が持つ【スキル】』『地域のひと自体が【コンテンツ】』が、大きな財産になるに違いないと、私は思う。

人間らしく「楽しむ」

高校生が奏でる音楽に合わせ、地元の人がギターを鳴らしています
そこに子どもたちも混ざります


恐らく、南相馬市だけが特別なわけではないだろう。人が集住しているところではどこでも、先に述べたような価値があるはず。けれども、そこに着目し活用している活動は少ないように思う。地域を盛り上げるとなると、何か大がかりなイベントを開催したり、活力に満ちた人を移住させたり、企業を誘致したりといっ多方向に向かいがちだ。それらのことは、決して間違いじゃない。それどころか、短い時間で大きな効果をもたらすことも出来よう。

野菜を売りながらゆるゆるとお喋り

だけれども、そうして外から呼び込んだ人やモノが、地域に定着するかどうかは分からない。地域から「No!」と言われるかも知れないし、外からきてはみたものの「やっぱここじゃない」と出て行ってしまうかも知れない。
外から来た人やモノと地域とのミスマッチが、そこになあるのかも知れない。

「混ざる場」としてのもとまち朝市

けど、ミスマッチの原因なんてモノは案外単純で、地域と外から来た人・モノが「混ざる」場がないだけだったということもある。
ここ南相馬市では、移住者と地域の人が同時に参加する「交流イベント」も、それなりに行われている。
しかし、地域の人からは「移住してきた人が何してっか分がんね」という声もちらほら聞かれるし、移住者からは「地域の人の輪には入れない」という声も聞かれる。

ミスマッチだ。

交流イベントで「混ぜよう」としても、イベント中だけではそれほど深い関係は作れないし、イベント終了後には関係が途切れてしまうということも起こりがち。
かといって、移住したばかりの人が地域の人同士の関係性に入っていく事も難しい。
そこで「もとまち朝市」だ。
例えば、もとまち朝市の出店者には、地域の人もいれば移住者もいる。出店者がそれぞれ、自分の得意なモノを販売している。お菓子に野菜、コーヒー、フリマなど、得意はホントに色々。

そこに、地域の人も移住者も、買い物客としてやって来る。
そして、朝市の場で出来上がっているコミュニケーションの場に「混ざる」
もとまち朝市は、日常の買物をイメージした場所だ。
特別なイベントではなく、日常の場を共に体感することで、少し時間は掛かるが、自然と「混ざって」いく。

これを繰り返せば、自然とミスマッチは解消するのだと思う。
なぜなら、朝市の場においては、常に開いたコミュニケーションが行われているからだ。

移住者が、自分で育てた野菜を地元の人に売っている場面です

ミスマッチを解消するのに、特別な仕掛けは必要ない。
ただ「言葉を交わす」場があればそれで事足りる。
そして、「言葉を交わす」場として存在しているのっが「もとまち朝市」だ。少なくとも私は、そんなつもりで朝市を開催している。
そして、そのような声もたくさん聞いている。

これこそ「人がコンテンツ」な場の本領発揮だ

手の届くところ……

私個人で出来ることは、本当に少ない。特別なスキルは何もないし、何かの事業を始める資金もない。
でも、出来ることを続けるだけでも、素敵なモノは作れるのだな……そんなことを「もとまち朝市」から学ぶことが出来た。

何かをやりたいと思っても、それを妨げる要因は色々ある。でもそれがありながらも、出来る範囲で始めて見たら良いのではないか。
軽トラ3~4台で始めたもとまち朝市も、場が育つと共に出来ることが増えてきた。そして参加者も、ホントにじわじわと増えてきている。

「手の届くところから」「手の届く範囲で」小さく初めても良いじゃない。
思いを口にすれば、力を貸してくれる人が現れる。そしてそこに人が集まり、少しずつ場は大きくなっていく。
もとまち朝市もまだまだ成長途中。

私自身も、どんな場に育ち、どんなモノを生み出すが、楽しみにしているのだ。

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