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デザインの視点で見てみよう【第8回 しりとりの楽しさをデザインで伝える。『風の子しりとり』】

古くから親しまれてきた言葉あそび「しりとり」。
その歴史は長く、平安時代の貴族たちの言葉あそびに由来するという話もあるとか。


現代では大人が進んでしりとりをする機会は少ないと思いますが、いざやってみると様々なイマジネーションが浮かんできます。
苦しみながらことばを見つけた時のあの快感を味わうのは、いくつになっても楽しいものです。



今回ご紹介する『風の子しりとり』は、作者・とだこうしろうが、新幹線の中でしりとりをする親子の微笑ましい様子を見たことがきっかけで生まれました。

いつでもどこでも、何人とでも。想像力ひとつあれば出来てしまう。そんなしりとりの楽しさをデザインで伝えようと作られた絵本です。

赤い帽子を被ったかわいい風の子。遠い空から飛んできて、立派なほおの木とカエルとしりとりを始めます。しりとり合戦をワクワクと楽しむかわいい仲間たちの様子がいきいきと描かれています。


それでは、この絵本で特筆すべきデザインを見ていきましょう。
見開きを大きく使った大胆な構図。さらに、イラストの独特な色使いに目を奪われます!

例えば【かめ】は青と紫が混ざったような、なんとも美しい甲羅を背負っています。
そして【つの】は大胆な紫色!山羊の身体も緑色で表現されています。


水の中を美しく泳ぐイメージが浮かぶ


大胆!だけど素敵!


さらに“侘び寂び”の気配を感じさせる【まんげつ】、そこを切り取ったのか!と思わずにはいられない垢抜けた【だいこん】の姿も印象的です。


引き算の美を感じるデザイン


切り取り方ひとつで大根はオシャレに!



描かれたイラストは、確かに実際の色や大きさとは異なります。
けれど、どれもシンプルで洒落ていて、しりとりから広がる自由なイマジネーションがそのまま画面に広がったかのよう。
ページをめくる度、楽しい雰囲気が溢れ出てきます。

そもそもデザインとは、見た通りをそのまま表現するためのツールではありません。
まず「何のために、どんな方法が最適?」というところから、表現方法を模索するべきものでしょう。

前述の通り『風の子しりとり』では、しりとりの楽しさをデザインで伝えたいというところから出発しています。
だからこそ、これ程までに伸びやかな構図、色彩で描かれているのです。
そしてそれは、ことばがもたらす表現やイメージの豊かさにつながり、子どもたちに語彙を広げていく楽しさを伝えます。

さらに【こけし】【のぎく】など、クラシックな日本のことばも登場するのがこの絵本の面白いところ。


限られたページ数で展開するしりとり合戦の中に、この世界にある素敵なものをギュッと詰め込んだようなユニークなしりとり絵本。
戸田デザイン研究室ならではのこのムードを、ぜひ親子でお楽しみください。

そしてデザインに興味をお持ちの大人の方にも、手に取っていただけたら嬉しいです。



★おまけ
ちなみに主役の風の子。強い風が吹くと突然どこかに飛んで行く習性を持っているようで、しりとり合戦の最中でもそれを抑えることはできません。

ノリノリで「しりとりしよう!」と誘っておきながら、勝手に飛んでいく風の子。相手もノってきているのに…。
風の子ゆえの習性なので仕方ないのですが、突然の放置をお見舞いされる、ほおの木の心中や如何に。

しかし、そこがまた憎めない!風の子のかわいさ、侮れません。


ほおの木の表情…