20周年に感謝を込めて!作り手・戸田靖が語る『リングカード・シリーズ』
戸田デザイン研究室の代表作のひとつ、『リングカード・シリーズ』。
初めて発売されてから、なんと!今年で20年になります!
たくさんのお客さまやお取引先さまにご支持をいただき、今や累計100万個を売上げる大人気シリーズに成長しました。本当にありがとうございます。
そして先月8月には、新作「のりもの」も誕生。おかげさまで既に重版も決定いたしました!
20年の節目となるタイミングで、改めて『リングカード』に込めた思いから新作の制作秘話まで、代表・作り手を務める戸田靖がお話しします。
(聞き手:広報 / ディレクター 大澤)
信頼のシリーズに成長。
ー『リングカード・シリーズ』が誕生して、今年で20年です。
戸田:時が流れるのは早いね!
これほどまでに皆さんに支持をいただく商材になるとは…。 有難い事です。
ー おかげさまで、なくてはならない代表作になりました。
直感的に楽しさを感じていただけて、親しみやすい商品なんだと思います。
「シリーズが増えてもクオリティがブレないのも好き!」など、お客さまから嬉しいお声をいただくことも多いですね。
市場に知育カード商材は溢れていますが、品質・デザインへの信頼も大きいです。
戸田:今までも『リングカード』の類似品は本当にたくさん発売されたし、売れるものも多かったと思いますが、長く残っているものは少ないですね。
おそらく、こういうカードは継続して作っていくのが難しいんじゃないかな。
ー コストなど、現実的な問題が立ちはだかると言う意味ですか?
戸田:まず、パーツが多いでしょ?
ー 多いですね。私たちの『リングカード』を考えても、 カードを作るのはもちろんのこと、フタ、リング、ケース。
どれもそれぞれ専門の業者さんにお願いしないとならないですもんね。
戸田:最終的にはそれらを印刷会社さんに組み上げてもらって完成というフローを踏むわけだけど、 そこでも人手も必要だしね。
ー この一連の作業を前提に、商品が途切れないように重版体制を敷くのはなかなかですよね。
戸田:だから商品に魅力があっても早々に利益率が問題にされたりして、作り続けるのが難しいと思う。
ー でもやはり、これを作り続けられるのがうちの強みというか、 面白さなんでしょうか。
戸田:それはそうだね。小さい会社は工夫とスピードを強みに乗り切る!
とにかく楽しいカードを目指した。
ー 当初、戸田デザイン研究室で知育カードを作る構想はなかったんですよね?
お客さまから「戸田デザインで学習カードを作って!」という声が多く寄せられて、 検討を重ねていったということですが。
戸田:やはりフラッシュカードに代表される学習カードは、教材的なイメージがとても強かった。
いわゆる“お勉強”のアイテムではないものを生み出してきた我々が、わざわざ作る必要はないと思っていたんです。
ー 何かのタイミングで気持ちが変わったんですか?
戸田:リクエストがとても多いので、 試しに『あいうえおえほん』をバラして段ボールに貼っていったんです。「あ」という文字の裏面に「あし(足)」の絵を貼って、それがすごく面白かった!カードってすごく良いものだなと思いました。
ー それはゲーム性のあるものも含めて、カード全般の面白さを味わったということですか?
戸田:いや、フラッシュカードをはじめとする知育カードの魅力だね。これは子どもが遊びやすくて夢中になると感じました。
さらに色々と覚えやすいし、教材としても強いなと再認識させられた。
我々のデザインで新しいモノを作る意味があると思いました。
ー 教材としての有用性も強く感じていたからこそ新しいものが必要で、 私たちの主軸となるデザインで新しい可能性を広げられると思ったんでしょうか。
戸田:フラッシュカードや暗記のための単語帳のようなものは、既に出回っていたしね。
他にないカードを作りたい、従来とは全く違うものを作るというのは強烈に考えていました。
ー この豆のような特徴的なフォルムが生まれたのも、そういう理由からですね。
戸田:最初は長方形の角を丸くする程度でいいかと思っていたんです。
それでもかなり可愛い雰囲気はあったけど、まだ教材的すぎるというか…。楽しくないなと思った。
目的はもう「とにかく見るだけで楽しくなるような知育カード」に絞っていたからね。
だから既存の暗記カードとか単語帳とか、そういう匂いは一切残したくなかったんだよ。
ー 2004年に「あいうえお」「A B C」「わえい」の3作を同時デビューさせたんですよね?
最初のデビューを飾るラインナップに「わえい」も入るのは珍しいですよね。 もっと定番テーマを入れても良さそうですが…。
戸田:最初に「わえい」を入れたのは理由があったんです。
「わえい」はシリーズの中でもいちばん単語帳に近い性質を持っています。 既存のフラッシュカードや単語帳を持っている人も、たくさんいたと思います。
その人たちに「こっちにもっと楽しく学べるものがありますよ!」と呼びかけたくて作ったんです。
ー なるほど。違いを伝えるためにも、あえて教材的な印象が強いものを入れたということですね。
戸田:あと、この商品を作ったことで様子を見たかった。
ー というと?
戸田:「あいうえお」「A B C」「わえい」を同時にデビューさせて、「わえい」しか売れなかったら、いわゆる単語帳やフラッシュカードの文脈でしか受け止めてもらっていない。
戸田デザイン独自のコンセプト・デザインでお客さんを呼べなかったってことになる。
でも「あいうえお」「A B C」が売れたら、我々の考えがフィットしたってことだと思ったんだ。
ー デザイン性がある知育カードが、多くの方に響くという証明になると。
結果、「あいうえお」「A B C」の方が売れたんですよね!
戸田:はい、嬉しい結果になりました。作るのにコストがかかる商材を一気に3つも作ったからね。かなりの賭けだったよ。
ラインナップに託した思い。
ー 今ではシリーズも9作になりましたが、ラインナップも重要ですよね。
例えば「しきさい」。色をテーマにした知育商材は珍しくはないけれど、選ばれた色のバリエーションも含めてややマニアックな個性派です。
お取引先さまからも「これを知育カードに入れてくるあたりが、戸田デザインぽいよねー」と言われます。
戸田:シリーズでどんなラインナップを揃えるかは、とても重要です。
戸田デザインのモノづくりにおいて、色へのこだわりはとても強い。
その私たちが色をテーマにしたカードを作るならどうなるか。そこを突き詰めて「しきさい」が誕生しました。
定番テーマで需要に応えることも必要だけれど、きちんと私たちの考えやセンスを伝えているかは大切です。
ー シリーズのテーマセレクトも弊社らしさがありますが、 個人的にもこれは思い切ったと感じるのが「国旗」です。
国旗を、あの豆型に収めてしまうというのは…。
戸田:恐らく賛否両論分かれると思いました。
当時、既に代表作となっていた『国旗のえほん』の見え方や売上にも影響してしまうリスクも想定できたしね。
社内から不安の声もあったし、刷り上がる前日まで「本当に良いのか」と考えていましたね。
ー やはりリスクも想定されたんですね。
戸田:かなり考えましたよ。
でも、大事なのは戸田デザイン研究室がどういう考えでモノを作っているのか。 そこを一番に据えるべきだと思いました。
もちろん国旗デザインは、それぞれの国の文化や歴史を反映した大切なものですが、そもそも『国旗のえほん』は国威発揚のために作ったわけではない。シンプルに国旗デザインの面白さを伝えたくて作った。
それが自分の想像を超えた反響をいただくことになって、さまざまな政治的な考えをを持つ方たちからも高く評価されたんです。
読む人がどう感じるかは自由だし、色々な考えを持つ方から評価されること自体、とても嬉しいことです。
でも、ここで自分たちの考えをはっきりさせるべきだと思った。
ー こちらの想像を超えた解釈もついてきて、 一度リセットしないと思ったんですね?『リングカード』にすることで、それを形にできると。
戸田:最初はね、作り手の私には「とにかく国旗デザインは面白い!これを大きく、まとめて見たい!」という衝動しかなかったからね。
実際に作り込んでいくと、国旗デザインを通じてその国の歴史や文化を感じてほしい。
それぞれの国や人に敬意を感じてほしいと思うようになって、その思いで出版しました。
それがいつの間にか類書もどんどん出版されて、色々な角度から論じられるようになって 「あれ?自分のしたかった・伝えたかったことはこういうことか?」って疑問も覚えるようになったんです。
だから豆型にすると、我々の意図や考えがはっきりすると思いました。
ー 何かわかりやすいメッセージを発信するという手段もありますが、戸田さんは新たなモノで伝えていこうと決められた。
戸田:それが自分の中で一番しっくりきたし、戸田デザインらしいやり方かなって思いました。
だって「せかいじゅうの国旗」のボリュームを考えてみて!あの3束・総計198枚の迫力!
あれを見る・持つだけで「世界には、こんなにたくさんの国があるのか!」って、心底驚くし、感動するよね。
ー 今『リングカード・国旗』『リングカード・せかいじゅうの国旗』を愛用してくださっている子どもたちの中には、 小学校にあがる前にほとんどの国旗を覚えたという“国旗博士”たちや、 毎日お手本にして絵を描いているという子、 お部屋の壁に好きな国旗デザインを貼っている子、 とにかく自由に楽しむ子どもたちがたくさんいますよね。
彼れらは知識に縛られず、まず自分の心で国旗デザインに向き合って、どんどん世界という存在に興味を持っていく。
ある意味、戸田さんの目指した理想の形と言えるのでは?
戸田:うん!もう本当に嬉しいことです。
「のりもの」制作秘話。
ー そんな『リングカード・シリーズ』ですが、今年の8月に新作が誕生しました。誕生から20年、9作目にして定番の「のりもの」。
戸田:今更だよね 笑。
ー この順番は戸田デザインらしいですよね 笑。
そもそも戸田さんは、乗り物、特に車が好きで、以前から乗り物の絵本を作る構想があったんですよね?
戸田:そうです。本のタイトルまで決めていましたよ。
『くるまのえほん』というタイトルで、世界のいろいろな車をブランドごとに紹介する内容です。 プロが社運を懸けて本気でデザインしているだけあって、それぞれのロゴもカッコイイから!
ー そこまで構想も見えていて、なぜ出版されなかったのですか?
戸田:進めてはみたんだけど、もの足りない感じが拭えなかった。 だからお蔵入りにしたんです。
その後も何度も『リングカード』で乗り物をやるか!と思ったけど、テーマも定番中の定番だし、今慌ててやることでもないかと先延ばしになっていましたね。
ー ついに着手して、どうでしたか?
戸田:まずはどの乗り物を入れるか、50くらいセレクトするところから始めたんだけど、この時点でとにかく面白かった!
「もう、どれにしよう~、迷うよ~。」って感じでね。
ー それは幸せな作業ですね 笑。
制作の過程でそうした幸福感・充実感があるかないかは重要ですね。
戸田:これだけ作っていく作業が面白いんだから、きっと良いものが出来ると思ったよね。
ー 実際にセレクトで気をつけた点はどこでしょうか。
戸田:まずは奇をてらいすぎず、ユニークだけど魅力があると感じる乗り物もバランス良く入れたいと思ったかな。
意外と難しいのが表現のカテゴリーのレベル合わせ。 車で言うとワンボックスカー、ハッチバック、セダン、みたいに分類していくと、どんどん複雑になる。
本当はそうやってカテゴリーにこだわるのも面白いんだけどね。
でもこれは「のりもの」と言う広義なカードだから、そこまでいかないレベルで合わせていこうと決めました。
ー ディープにし過ぎず、乗り物の大きな枠でやっていこうと考えたんですね。
定番だからこそ、イラストのテイストを決めていくのも相当難しいですよね?
戸田:これは本当に難しかった!時間がかかりましたね。
初めは何人かのイラストレーターに描いてもらったんだけど、すべての方が乗り物が好きとは限らない訳です。
でも絵を描く本人が乗り物を面白いと思っていないと、やはり仕上がりが楽しくならないんだよね。
私が乗り物に抱く面白みとか興味とか、それを共有して進めていくのは難しいなと思いました。
ー 作り手が楽しんでいるかは、仕上がりを大きく左右しますよね。
最終的に社内で仕上げていく道を選ばれて、まずイラストの方向性・基準を考えられたの思うのですが。
戸田:当然ですが、それぞれの乗り物の特徴を捉えて描こうとすると、色々な描き方が出てきます。 アングルとか大きさとか、乗り物によって違ってくる。
でも『リングカード・のりもの』は47枚でひとつになったカードです。 色々な描き方をしてしまうと統一が取れていない印象になってしまうんです。
ー 描き方に一貫性が必要だと。
戸田:そうですね。 最初は「トラクター」だと、あのドンとした迫力が出るように斜めに描いてみたりしたんだけどね。 それではカードとしてまとまりがなかった。
「それぞれの乗り物の特徴が伝わる角度をひとつ決めるとするとなんだ?」と考えた時に、 やはり真横がベストだなと。
だから全て真横のアングルで描き直そうと決めたんです。
ー なるほど。次にイラストをどこまで描きこむか、という調整が出てきますよね。どういう点に気をつけられました?
戸田:リアルだけど、わかりやすくシンプルに、ということかな。
とにかく最初はベースを作るために、かなりリアルに描いていきました。
その上でもっとシンプルにしていこうと調整を始めましたが、当初はやり過ぎてしまったんです。
ショベルカーのショベルがなぜ動くのか。それがわからなくなる程にシンプルにしてしまった。
ー 機能としての理論が成り立たないといけない?
戸田:シンプルにしても乗り物のフォルムの特徴は表現できますが、 乗り物の総合的な魅力は機能と直結していると思うんです。 ショベルカーならショベルが動く仕組みがあって面白い。 ただアームだけが描いてあっても、どう動くか想像ができないんですね。
これはダメだなと思い、機能を失わない範囲でシンプルにしていくという基準を持ちました。
ー そのあたりはかなり慎重に仕上げていったんですね。
戸田:例えば自転車だってチェーンがなければ、タイヤは回らないでしょ?
いくらシンプルにするといっても、チェーンが後ろの歯車に繋がっているという部分を描かないと、イラストとしてもどこか面白みに欠けてしまうんです。
ー 確かにそうですね。
でも…そこまで機能の部分まで描きながら「自転車」のイラストって、すごーく遠距離から捉えたアングルですよね?
戸田:そう!そこが面白いところ!
仕上がりとして大事なのは全体の雰囲気です。 でも細部に配慮しないと、全体の雰囲気も良いものにならないんです。
この「自転車」も機能や動きがきちんとわかるように描いてあるからこそ、ここまで思い切って小さくできる。
虫眼鏡で見てもらっても、タイヤとチェーンはきちんと繋がっています。
ー これは最初から考えていたレイアウトですか?
戸田:レイアウトに関して詰めていったのは、かなり最終段階。 もうどれだけ拡大、縮小しても大丈夫というレベルまでイラストを完璧に仕上げて、 どんなレイアウトがベストかを実際に配置しながら考えていきました。
どれだけ雰囲気を出せるか、という視点で考えていきましたね。
ー 雰囲気というと、やや抽象的な印象が強いですが、乗り物って実際に存在しています。さらにメカニカルなものじゃないですか。
戸田:そうそう。 だからねレイアウトで思い切って小さくしたもの、大きく描いているものにはちゃんと私なりの理由があるんですよ。
ー 詳しく聞かせてください。
戸田:自転車は珍しい乗り物ではないですよね? 日常で目にする機会や乗る機会も多い。わざわざこのカードで説明し尽くさなくとも、子どもも大人も触れる機会が多いです。
だからムードを重視して、あえてこの遠いアングルで捉えてもOKだと考えた。
ー そうなると「除雪車」なんかは、そうはいきませんね。
戸田:その通りです。 雪国に暮らす人だって、除雪車を横からじっくり観察した経験がある人は限られるでしょう。
まして雪がそこまで降らない地域に住んでいたら尚更。
だからこれはしっかりと大きく描いて、じっくり見られるようにしたんです。
ー ムードやイメージだけでなく、日常でのそれぞれの乗り物との接触頻度なども考えたということですね。
戸田:雰囲気って言うと曖昧に聞こえがちですが、ちゃんと論拠もあるんです。 私の気まぐれではない 笑。
ー 景色や背景はどう描いていったんでしょう?
戸田:景色や背景も乗り物と同じような工程を踏んでいます。
一番初めはとにかくリアルに細かく景色も描き込んで、「これだ」というところまで仕上げていきました。そこから単純化を重ねていく。
例えばこの屋根の模様がいらないとか、この木がいらないとか、そんなことをしていると余計なものを省いた2段階目の仕上がりに到達します。
そこで乗り物のイラストを組み合わせてみたんですが、どうもしっくりこない。 乗り物とぶつかってしまう印象が否めなかった。
ー 単純化はしたものの、乗り物を惹き立てる背景になっていなかったんでしょうか。
戸田:そうだね。 だからもう背景は街の様子を色だけで表現しよう、 カラーブロックの組み合わせだけにしようと修正したのが3段階目。
でもカラーブロックだけでは、あまりに抽象的だった。
工事現場ならその場を表す要素が背景からも感じられないと、全体がボヤける。 想像を促す要素が少なくなってしまったんだよね。
だから最小限の街や場所の雰囲気を加えていく形で再度修正しました。
ー 最終的には背景の表現にも規則性を持たせましたよね。
戸田:47の乗り物の中でも、道路や工事現場、街の中とか共通する背景を持つものはそこそこあるからね。
共通するものは同じ背景にしないと、バラした時にも遊びにくい。
最終的な調整段階で統一していきました。
ー それなりの時間を要する作業でしたね。
戸田:予想はしていたけれど、なかなかだった笑。
実際に手を動かしてくれていた制作スタッフも、大変だったと思いますね。
でもここまでしないと、わざわざ戸田デザインで作る乗り物カードの意味は生まれなかったと思う。
ー それぞれにムードがありますよね。
例えば「オートバイ」。 これ、個人的には映画のエンドロールにしたいです笑。
上からずっとクレジットが流れてきて欲しいですね。 このオートバイは主人公とその恋人が乗っているという設定です。
戸田:なるほどね笑。 子どもも大人もなく、そうやって自由に何かを感じてくれたら嬉しいですね。 だからこそ映画の一コマのようなカードにしたいと思ったんです。
ー そういうムードのようなものって、大人だから理解できるのでは?という意見もあると思います。 それについてはどう思われますか?
戸田:知識がないと解けない数式とか、漢字を知らないと読めない文章とか、そういう前提はあるけれど…。子どもだから何もわからない・感じないってことはないと思っています。
まして美しいものを見たりした時の心の動きというものは、本質的に変わらないでしょう。
だからモノづくりにおいて、このあたりのエッセンスは大人だけがわかるものでしょう、なんて考えは一切ありませんね。
ー 裏面についても聞かせてください。
『リングカード・シリーズ』の裏の説明文って、もはや我が社のお家芸的なところがありますよね。
スペースに限りがあるので文章は短いですが、切り取るところがユニークでじわじわくるとか、 そういうお声をいただきますよね。
戸田:やはり楽しくしたいというのが前提にありますね。
でも奇をてらっても、わざとらしい感じになってしまう。
だから狙いみたいなものは捨てて、全体のバランスに気をつけて作っています。
ー 乗り物だとそのものの機能や構造を伝えることも重要ですよね。
そこも抑えたうえで面白いトリビアが入っていたり、エモーショナルな一文もあったりして 大人が読んでも面白い!という声が既に集まっています。
戸田:嬉しいですね。
ー 今回は英語表記もあって、全てにルビが振られていますが、これはなぜでしょうか?
戸田:最初はシンプルに乗り物の和名と説明だけと考えていました。 でも、英語で名前を書いておきたいなと思いはじめて…。
乗り物の場合、和名と英名が一緒ということが多いんですが、違うものは「え?」っていうくらい違う。 自分で調べていても面白かったんです。
ー 他のシリーズ「どうぶつ」でも裏面に和名と英語名が書かれていますけど、これが好評なんですよね。
戸田:やはりデザイン知育カードですから、学びの要素があることも重要だと思っています。
よく「子どもの好奇心を広げたい」って言うじゃないですか。 そのために親や周りの大人はいろいろ与えてあげようと思うんだけど、 子どもたちの興味が目覚めるのって、何がきっかけになるかわからないと思うんです。
ある意味、大人の思った通りにはいかないというか、想像を超えてくる。
この『リングカード・のりもの』で乗り物よりも英語が面白いと感じる可能性だってある。
だからデザイン的に無理なく収まっていくなら、英語も入れたいし、ルビも振りたいと思いました。
ー そういえば、弊社の『国旗のえほん』を愛読くださって、大人になったら海外で仕事をしたいと思い、その夢を叶えたという読者の方もいらっしゃいましたね。
戸田:あの話も嬉しかった!
戸田デザインのプロダクトは子どもたちの「きっかけ」を作るとお話しすることがあるんですが、 その「きっかけ」は何も学び=新しい知識を覚えるということに限定されなくても良いと思うんです。
もう少し広く・深く考えて、未知なるものに心を開いていく楽しさと言うのかな。そういうものに触れることで人生は豊かになりますから。
ー 今回『リングカード・シリーズ』で初めての試みとなったのが索引カードです。
「しきさい」もすべて色の名前をパレットのように載せたカードがあるんですが、「のりもの」は索引としてのカードを1枚入れていますよね。
戸田:47の乗り物となると、それなりのボリュームです。
お母さん、お父さんをはじめ、手にしてくださった方はどんなラインナップが揃っているのか気になると思うんですよね。
ケースの裏にもわかるように書いてあるので、参考にしてください。
ー そしてかなり議論を重ねたのが、このリングとケースの色でした。
戸田:うん、ラベンダーね。私は最初は青でいこうと思っていましたからね。特に深い意味もなく、他のシリーズのケースの色との相性も考えて、青がキレイだなと思っていたから。 でも、ディレクターから待ったが入った。
ー はい。ちょっと考えた方がいいと思ったんです。
すごく簡単にいえば、テーマが乗り物でケースとリングが青となると、あまりに男の子イメージが強いのではと心配しました。 いわゆるジェンダーバイアスと言うのでしょうか。
でも実際、戸田さんに相談するまでに悶々と悩んだことも事実です。
戸田:そうなの?
ー ここ数年、時代は変わり目というか、あらゆる面で過渡期を迎えていると私は感じています。 さまざまなジェンダーの問題もそうですよね。
私の幼少期は赤やピンクは女の子の色、青は男の子の色と言うのが当たり前でしたし、 特にそれが話題になることもありませんでした。
でも今まで無意識にスルーされていた前提が問い直されることで、選択肢が増えたり、自分の好きなものを好きと言える自由を得られることがある。 これは無視できない大事なものです。
ただ同時に「こういう配慮をしないと、クレームがくるからやろう」と言う考えではやってはいけないとも思っていました。
しっかり自分たちで納得して、我々のモノ作りの文脈で成立しているかを軸にするべきだと考えていたので。
戸田:それは大事なポイントだよね。
ー 特に弊社は皆さんにご支持をいただいて、40年にわたり知育というジャンルのモノ作りをしてきました。
我々がここである種のアップデートした考えでモノを作るのも大切かなと。だから「本当に青でいいのでしょうか?」と相談したんです。
戸田:結果的にシリーズのカラーバリエーションとしても良かったよね。
初めはもう少しファンシーな色を考えていたんだけど、何回かトライしていくうちにもシックな色味になってきて、これはいいなと。
ー そうですね、当初の想定より大人っぽいカラーになりました。
ネイルカラーみたいな美しさもあって戸田デザインらしいと感じています。
『リングカード・シリーズ』のこれから。
ー 今後『リングカード・シリーズ』はどんな展開をしていくでしょうか。
戸田:ずっと弊社のモノ作りを見守ってくださる方が、「戸田デザインのリングカードは媒体(メディア)でもあり、ガジェットにもなる」と仰っていたんです。それを聞いた時、本当にその通りだと思いました。
知育デザインカードとして軸足を知育に持っていくことも可能ですし、そこから離れてアート寄りにだって持っていくこともできます。
この50枚いかないカードのボリュームも、どんなテーマを扱っても飽きもこなくて物足りなさもない絶妙な枚数だと自負しています。
だから、あらゆるジャンルに対応できると思います。
ー 色々な可能性が広がりますね。
戸田:そうです。今までもこれからも私たち戸田デザインを表すラインナップになると思っているし、そうしていきたい。
そして何より、手にしてくださった方に楽しんでもらいたい。
これからの進化にもご期待ください!
■『リングカード・シリーズ』については、こちらでもお読みいただけます。
■各シリーズはこちらからご覧いただけます。
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