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仮想美少女シンギュラリティ読了、概略

こんにちは、都知事です。
このnote記事はバーチャル美少女ねむ氏の「仮想美少女シンギュラリティ」感想記事です。


ばちこりネタバレを含みます。
「面白そう!」と思った瞬間にこのページを閉じる事をオススメします。

買ってね!



【この小説はヤバい!】


正直、小説とはそれぞれの趣や良さがある為、他の作品と比べるべきでは無いのですが、ドストエフスキーの罪と罰に並ぶ程の面白さでした。



なぜ罪と罰と比べたかと言うと、仮想美少女シンギュラリティは「人の心」についての描写が繊細である事、「行動を起こす事で精神の安らぎを得た」という流れがとてもよく似ていたからです。



人の心についての描写といえば太宰治の「人間失格」や、夏目漱石の「こころ」もそうなのですが、本作にはそのようなダーク要素がなく、清々しく読み終えることが出来る、しかしながら、未来についてポジティブに考えることが出来る内容の為、これらとは比べませんでした。



そして、なんと言っても読みやすく、内容も入ってきやすいし、そんなに長くもない。(100ページに満たない)


夢中になってスラスラ読んでいたら、1時間半もあれば読み終えてしまう作品です。


全体の構成がコンパクトにまとめられているので、小説独特の「早く終わってくれ…長い…しんどい…」という読み疲れが起きない、日頃活字を読む習慣のない方も、ゆるっと読めて、グワッと楽しめる、そんな作品です。


さて、内容はどのようなものかと言いますと、

「とある研究者が身体を使うことなく脳波だけで意思疎通する機械を作ろうとしている」

「Vtuberの存在を知る」

という、最近ではわりとポピュラーな「Vtuber」が題材となっています。


Vtuberを身近に感じている、又は推している人ほど楽しめる内容です。知っている事や好きなことはスルッと頭に入る、人間の不思議。


では、章ごとに内容を砕きつつ、ご紹介して行きます。



説明だけでは絶対に体験出来ない事が起きるので、是非無料期間のうちにお手元にご用意頂くことをオススメします。


ちなみに主人公の性別は本編では描かれていませんので、好きに妄想することができます。

【】内は個人的な印象から付けたサブタイトルです。



音声で聞きたい方はこちら

仮想美少女シンギュラリティ概要読み上げ https://nico.ms/sm38036221



1章
仮想美少女の目覚め
【はじまり】

本を開いた瞬間、「お前は誰だ?」と目の前の白いワンピースを着た少女に問いかけるシーンから始まります。

場所は見たこともない建物に雷鳴轟く不気味な場所。

この不思議な少女は、何故か自分と同じ動きをします。

「全く同じ動きをする」のです。鏡のように。
自分とは明らかに容姿の違う人物が同じ動作をする不気味さと恐怖が、読みながらもぞわぞわと感じられます。

主人公は今ひとたび問います。「お前は誰だ?」

しかし、自分の声は雷鳴に打ち消され、少女の美しい声のみが帰ってきます。

「お前は誰だ?」少女が、自分が発したはずの言葉を自分に投げかけて来ます。


「この少女は自分だ」
信じられないけど、信じるしかない。目の前で信じられないことが起こっている。何かおかしい。

少女は続いて語ります。

「私は、ねむ」

主人公も続きます。

「私は、ねむ…」


「私は、仮想美少女、ねむ」

「私は、仮想美少女、ねむ」


その時、少女の口元が緩み、僅かに微笑んだ気がした。


微笑んだのは自分か、少女か、それとも両方か。
確かめる術はその場にない。


2章
電脳ツインテール
【きっかけと出逢い】

主人公が現実世界で目を覚まします。
しかし、見ていたはずの夢の内容がいまいちよく思い出せません。

主人公はドーム型の専用機械の中で頭に電極を取り付け、自らを実験台にして脳波を測定していたのです。


主人公は研究者で、数年成果を上げられず、首を切られる寸前。

「思考を読める機械を作れたら世界が変わるんじゃないか」という理想と夢をもとに研究者になりましたが、理想と現実はやはり違うもので、責任者の吉岡教授は目覚めた主人公に嫌味を言った後、部屋を出ていきます。


深夜まで実験していて、そのまま眠ってしまったという話を聞いた教授は、呆れたように「そんな事じゃフレッシュな脳波は取れない」「手段を尽くしても取れる素材が悪ければ意味が無い」と言い放ちます。

その言葉は、当たり前ではあるものの、必死に頑張っているのに報われない、主人公の焦燥感と孤独感を加速させます。

「魂の在り処は本当に脳なのか?」

いくら考えても、いくら探っても答えが出ない中、同じ研究室の学生、加奈子からVtuberの存在を聞きます。

加奈子はオタクでしたが、そういうものに興味がない主人公は乗り気ではなかったものの、「仮想空間の肉体を動かしながら視聴者とコミュニケーションを取る」Vtuberの脳波にはとても興味がありました。


そして、加奈子の手伝いによって、あれよあれよという間にVtuberとして配信環境が整ってしまう主人公。


見たいアニメがあるからと足早に帰っていく加奈子を尻目に、ドームの扉を閉じて実験開始する主人公。

…でしたが、扉を閉じてからの記憶が全くないのです。

ありえないくらい。

しかし、脳波は大量に取れている。

「確かに何かをしていた」のです。

そして、パソコンのアクセス履歴は動画サイトのYouTubeに…


早くも1章が現実のものとなる。そんなぞわぞわが我々を早くも楽しませてくれます。


3章
失われた島の記憶
【ねむからのメッセージ】


主人公は全く記憶にない自分の配信を見てみると、そこには自分ではない美少女が、記憶にないことを喋り、ユーザーと交流している様が残っていました。


主人公は気味が悪くなり、後でアカウントごと消してしまおう、今日はもう疲れた…と、研究室を後にします。

向かったのは山奥の病院。主人公の母、ツグミが入院しています。


母の病気は特殊で原因が分からず、常に夢見心地のような状態で、意思疎通もままならない、というものでした。


しかし、脳の異常によりホルモンバランスが崩れた母は、年齢以上に若く見え、肌は白く、少女のよう。主人公は母の手を握り、話をする事が日々の中の癒しでした。

そんな母が、時折故郷の事をぼんやりと口にすることがある、と聞き、母の故郷を思い起こします。


その故郷は「神着島」(かみつきじま)。

元は自然豊かな島で、代々神に祈りを捧げる祭りの文化もありましたが、母の幼少期に火山が噴火し、全てが灰と溶岩に覆われ、多くの人が亡くなってしまいました。


母の家系は代々、山に住むと言われる龍の怒りを鎮める巫女の一族。

噴火の際、ならわしにより母が儀式の為に島へ残る予定でしたが、姉が替わり、島を脱出させられました。


母以外の肉親は全て帰らぬ人となりました。姉も含めて。

主人公は母と島へ行き、ガスマスクをして家のあった場所へ行きましたが、殺風景で何も無い。

その島に多く自生していた合歓(ねむ)の花束を供えて帰りました。


…ん?「合歓の木…ねむ…」

供えた花の名前と、昨日自分が作ったキャラクターがそう名乗っていたことを思い出し、つい口に出てしまいます。

「ねむ…」母は何かを思い出したように口にし、主人公は問いかけます。


「仮想美少女ねむ」と名乗った少女がいた風景の事。

三角の建物があり、周りはお墓で、雷鳴轟く…そんな場所はないか、母に訪ねました。


母は口々に答えます。

間違いない。ねむが見せたあの景色は、母の故郷、神着島の最後の日の風景だったのだ。


母を元に戻す糸口になるかもしれない。


一見、馬鹿らしいと思うかもしれませんが、研究者としての探究心と、母に意識を取り戻して欲しい一心から、主人公は研究室へ戻ります。


「ねむ」を再び呼び出す為に。


4章
ゲシュタルト崩壊
【はじまり】


主人公はかつてのナチスの研究と、自分がキャラクターに対して「お前は誰だ」と問い続けていた現象が同じだということに気付きます。

意識して物を意識すると、人はその情報が処理できなくなり、ゲシュタルト崩壊という現象を起こす。

その結果、ゲシュタルト崩壊を起こした人格に新たな人格を上書きして別人格にすることで人を操ろうとした…というのがナチスの研究。

主人公がねむを呼び出した時も、奇しくも同じ状態だったのです。

ドームの中は無音で風もなく、目の前のモニターに集中できる。そして、肉体は疲労困憊。極度に暗示にかかりやすい状態でした。

主人公はソフトを立ち上げ、キャラクターを呼び出します。

白いワンピースに髪飾り、黒いショートヘアの、10代前半くらいの見た目の女の子。

加奈子と一緒にキャラクターデザインした時とは明らかに違う見た目でした。

主人公は「ねむ」に憑依しようと、「お前は誰だ」と問い続けますが、昨日のような感覚には陥りません。

ヘッドホンで耳を塞ぎ、音を完全に遮断しているので、自分の発した声すら聞こえず、聞こえるのはねむの声。

身体を動かしてねむの身体を動かすも、やはり自分は自分、キャラクターはキャラクター。

シンクロは起きません。


「もしかして、配信する、という行為がスイッチになるのではないか?」

そんな期待を胸に、【配信開始】のボタンをクリックします。


画面はパッと切り替わり、【ON AIR】の文字。全世界に発信されています。


しかし、肝心の「ねむ」は降りて来ない。

仕方が無いので、最近主人公がハマっている仮想通貨の話をしました。


「かわいい」
「おもしろい」

そんな美少女に対する賞賛を向けられる事に、心の温かさを確かに感じる瞬間でした。

5章
バーチャル・アイドル
【没入】


ある日、後輩の加奈子すらも「仮想美少女ねむ」の配信を見ていることに気付き、コーヒーを吹き出しそうになります。

容姿が可愛く、ぎこちなさが初々しい。
企業ではなく完全に個人で始めた事で、判官贔屓が起こったのか、ねむは瞬く間にバズり、多くの人の目に触れるようになりました。

しかし、まさか自分が「ねむの中の人」だとは言えるはずもなく、日常は過ぎていきます。

研究者としての自分と、美少女Vtuberとしての自分。

自分の中で自分が2つに分かれていくような奇妙な感覚に、主人公はまだ気付いていません。


そんな時、ファンの1人から3Dモデルをプレゼントされます。


画面を見る、画面に写った自分を見るのではなく、ヘッドマウントディスプレイでVR空間に「入る」感覚にとても興味があり、すぐさま機材を揃えました。


6章
オルタナティブ・テラ
【自由】

バーチャルSNS空間、オルタナティブ・テラ。通称、オルタナ。

中に入ると目の前に大きな地球儀があり、自由に回して、行きたい所をスマートフォンのズームと同じ動作をすると、その場所へ行ける、というものです。


さっそくプレゼントされたアバターを身にまとい、ねむとして活動する主人公。

そこには、いつものくたびれた研究者の姿はなく、生き生きと自由に動き回る美少女のみが、無邪気にはしゃいでいました。


見下ろせば、白くすらりと伸びる手足、少女の身体。そして、捲りあがってしまうスカートに少し恥じらいを感じます。

ウォーミングアップもそこそこに、地球儀に触れると、それはまるでどこでもドア。オルタナの中に入ったねむは、今まで味わったことの無い情報と感動の波に打ち震えます。

自分がいつも住んでいる、働いている東京も、何故か現実よりも幻想的で美しい。

バーチャル空間独特の感覚に驚きながらも、自由に空を飛ぶことが出来ました。

「いつも街を這いずり回っているだけでは見られない光景だ」


そんな中、ねむはザメルという人物に出会います。

ザメルはねむを知っており、オルタナの過ごし方や楽しみ方を教えてくれました。


ザメルから「作られた場所ならどこへでも行ける」と聞いたねむは、真っ先に「神着島」へ飛び立ちます。


神着島は現在地から230km。東京〜愛知県くらいの距離。しかし、座標を打ち込んだ途端、身体は大空上空へ飛び上がり、太平洋の上をあっという間に横断します。


現実世界の主人公は思います。


「自分は今、確かに東京の狭いマンションの一室に居て、手にコントローラーも持っているし、足もフローリングに着いている。しかし、目を開くとそこにはそれらが何も無い。自分は少女で、どこまででも、いつまでも飛べる自由な身体がある。あぁ、自由だ。今この瞬間こそがリアルだ。」


主人公は涙を流しました。きっと、ねむも同じく仮想空間で涙していた事でしょう。

7章
絶滅した鳥の歌
【確かなぬくもり】

到着した島にはパスワードがかけられていました。「あなたがこの島の住民だったなら、おかえりなさい。パスワードは霊鳥の名前」とポータルに示されたメッセージ。


ねむは悩みましたが、母の名前を思い出しました。

そう、母の名は「ツグミ」。漢字では鶫と書き、その島の霊鳥の名前でした。

母の家系が神官を務めていたのなら、不思議なことではありません。


道は開き、気付くと森の中に立っていたねむ。

目の前に広がる合歓(ねむ)の木。

ここは現実世界ではなく、滅びる前の島の姿なのだと、ねむは察知しました。

先に進もうとすると、階段がピタッと途切れ、「工事中」の看板。そこから先には進めないことを意味していました。

キョルルン、キュッ…と、特徴的な鳥の鳴き声が響き渡る森を進むと、コンクリートの道路に出ました。


眼前には美しい海と、白い砂浜。

砂浜には、その身体よりも長い杖を携えた少女が座っていました。


「ソルティ」と、名前の表示があります。

「ソルティ…さん?はじめまして、私は、ねむといいます」


そう挨拶すると、ねむに突然抱きつくソルティ。

バーチャル空間なので物理的に抱きつかれた訳ではありませんが、ソルティが触れているねむの場所がほんのりと暖かくなることを確かに感じていました。

ソルティは嬉しそうに、独特の方言を交えながら語ります。

神着島再生委員会の存在、ねむのことを「ねむ様」と呼ぶこと、ねむの為に島を再現し、鳥の鳴き声を作ったこと。


島の写真や人伝に話を聞き、自分が知らない場所は誰かが知っている。その知恵を借り、ここまでモデリングして島を作り上げたという。


しかし、島の事を一切知らないねむに、ソルティは疑問に感じます。

ソルティ曰く、ねむの今の姿、そして名前は、この島にとって特別なものであるとの事。

ねむは全て話しました。実験中にこの姿になったこと、島民だった母のこと、母の為に島の記憶を求めてここへ来たこと。

ソルティは、目の前にいるのが自分の思っていた「ねむ様」ではないと悟り、「ねむちゃん」と向き直って、明日またここへ来るように伝えます。


ねむは聞きます。
「あなたは誰?私の会ったことのある人?」

ソルティは答える代わりに、ねむの腰をぎゅっと、掴みました。

掴まれた場所は、やはり、ほんのりと暖かかった。


8章
仮想美少女は毎夜悪夢にうなされる
【バーチャルこそがリアル】

ザメルやソルティと出会い、バーチャル空間で真の自由を知った主人公は、現実世界でも「ねむ」になりかけていました。

同化と言う方が正しいかもしれません。

立ち並ぶビルは質の悪い3Dポリゴンに見え、ガラスに写った人物に驚き振り返ります。

しかし、誰もいない。

「お前は誰だ?」

それがガラスに写った自分自身だということに気が付きます。


吉岡教授と今後の事を話しますが、自分の発する声はねむの紡ぐ美しい高音のものとは違い、疲れ、くたびれ、とても聞けたものではない人間の声。

「この声は私じゃない。この声の主は誰だ?私は誰だ?」


吉岡教授からは「結果を残せないなら契約を更新できない」と現実を突き付けられます。

虚ろな表情をした主人公は辛うじて返事をするものの、「あぁ、息苦しい。辛い。ここは居心地が悪い。この身体はしんどい。この悪夢が早く覚めればいいのに。美少女の身体に、早く戻りたい」

主人公の中では、バーチャル空間こそがリアルで、真実でした。

その日の夜、ねむは昨日の約束通り、ソルティと会い、共に神着島のある場所を回りました。


それは、代々島の人達がお参りをしたりお祭りをしていたという神社でした。

1つ目は、「塩姫命(しおひめのみこと)」の祀られている神社。

塩には代々魔除けや防腐の効果があり、島に眠る龍の怒りも塩姫命が御神塩(おみしお)を捧げて鎮めていたとの事。


ソルティは小さな身体をぴょこぴょこさせ、島を嬉しそうに案内してくれました。

学校の校舎や校庭、町役場や商店街、そして、製塩所。今にも人々の生活音や話し声が聞こえてきそうでした。


「あぁ、母が見たかったのはこの光景だったんだ、あんなガスマスク越しに見る岩石の山ではなく…」


ねむは、ソルティに感謝を述べました。

「ソルティはすごいね、神様みたい。こんなにすごいものを全部作ってしまうなんて」

「ねむちゃんに早く見てもらいたかったんだ。この島の本当の姿を知ってくれて、ありがとう」


ソルティは飛び上がってねむに抱きつきました。

ねむは、こんなにも安らげる世界を一生懸命に作ってくれたソルティの事が愛おしくて堪りませんでした。


やがて、飛びついたソルティの顔とねむの顔が近付き、2人はそっと唇を合わせました。


感触は無いけど、これがねむにとって生まれて初めてのキス。


感触とか実体とか、そんな事はどうでも良くなる、ただ強烈なまでの心の繋がり。


そして、2人は最後の神様が祀られている場所へ行きます。

そこが、「合歓姫命(ねむひめのみこと)」の祠。

しかし、その先の景色がありません。


「この先は代々神官を務める家の巫女しか立ち入る事ができない聖域、誰も知っている人がいなくて、どうしてもこの先だけが作れない」


ねむはハッとします。

「もしかして、【ねむ】が一番初めに見せたあの景色…もしかして、この先に、その光景が広がっているのでは…」


「【ねむ】は一体私に何をさせたかったのだろう?」

ねむは今までの出来事を整理します。

なぜ研究者である自分に【ねむ】が憑依したのか?

なぜ雷鳴轟くあの場所で、自問自答したのか?

なぜアカウントを作ってYouTube配信をしたのか?

ファンとの交流…インターネット上でのコミュニケーション…


ねむは遂に辿り着きます。

「一本の線に繋がった、こんな所に私の求める答えがあった。しかし、もう時間がない。早くしないと、私は研究者で無くなってしまう。【ねむ】の意志を無駄にしてしまう事になる」

ねむはソルティに頼みます。

「ソルティ、私この先の光景を知ってる。その通りに再現してくれる?それで」

「神着島が、完成する」


9章
インディアン・ペール・エール
【生きるべきか死ぬべきか】

主人公は現実世界で協力してもらうべく、加奈子をカフェに呼び出し、全てを打ち明けます。

自分が仮想美少女ねむであること、一緒にモデルを作った後、ついハマってしまって何度か配信していたこと。


加奈子は一緒に作ったのに自分に内緒で置き去りにされているのが寂しかったのか、はたまた仲のいい「先輩」をファンに取られてしまったのが悔しいのか、少しムスッとした様子でした。


「先輩、現実が嫌になっちゃったんですかぁ?」
独特の物言いながら、図星を突かれた主人公は「研究のため…だよ…」と、力なく返しました。

何とか協力してくれることになり、手筈は整いました。


主人公は帰宅し、冷蔵庫からビール瓶を取り出しました。


主人公は、ねむとして配信する時に仮想通貨やビールの話をするくらいに、ビールが好きでこだわりもありました。

ビールは輸入品のIPA(インディアンペールエール)。

【IPAとは】
IPA と書いてアイピーエーと読む。インディアペールエールの略称で、 18C末、インドがイギリスの植民地だったころに、インドに滞在するイギリス人にペールエールを送るために造られた。海上輸送中に傷まないよう、防腐剤の役割を持つホップを大量に投入したため、香りと苦みが非常に強い。

グラスは中央がくびれた形をしていて、
くびれはビールの滝をつくり、
対流して飲む直前に香りと味わいを限界まで引き出してくれる。

グラスの飲み口は香りを外に逃さないように狭まったかたちをしていて、
口を付けると、もぎたてのオレンジみたいな、
柑橘系の芳醇な香りに包まれた。


主人公は、「いずれ、バーチャル空間でも芳醇な香りや味わい、濃厚なのどごしさえも、再現する事が出来るだろうか」

「結局は全てが電気信号なのだから、不可能な理由はない」

と想いを馳せながら、IPAに酔いしれます。


そして、明日…

アシスタントは加奈子に、神着島はソルティが作ってくれている。この身に、もう一度【ねむ】を降臨させる。


もしかしたら、明日、私は【ねむ】に憑依され、自我を失ってしまうかもしれない。

だが、それもいい。とても甘美な誘惑に思える。

現実世界はろくな事がない。
バーチャル空間で美少女として愛される私は生きている実感がある。

この部屋へは寝に帰ってくるだけ。
ビールを飲み、ただ寝る。

この部屋で多くの時間を過ごしたが、その対価として何を手に入れただろう?

今の自分と、ねむとしての自分、一体どちらが自分にとって、世界にとって意味があるんだろう?


…その答えは、明日の実験で分かる。

10章
ガール・イン・ザ・シェル
【輪廻転生】


【私】は、雷鳴轟くあの場所に居た。

目の前には白いワンピースを纏った少女。

【私】は問いかける。

「お前は誰だ?」

自分の声は聞こえない。少女の声のみが、自分に届く。

【私】は語る。

「私は、仮想美少女、ねむ。」

準備は整った。

今までと違うのは、両手足を椅子に縛り付け、身動きを取れなくしていること。

今までは身体を動かしてねむを操作していたが、今回の実験では違う。


「脳波」だけでねむを動かす。

人間とは、そもそも身体を動かそうとして動かしている訳ではなく、無意識的に動かしている。

しかし、その理論ではバーチャル空間を真に生きているとは言えない。

バーチャルの身体を、生身の体を使わずに動かす、という実験。

加奈子がカウントダウンを始める。

「配信開始3秒前、3、2、1…配信開始!」


「先輩、さようなら…」


「………… お前は………… 誰だぁぁぁ! 仮想美少女YouTuberねむでーす! 今日も生放送、すっるよー! みんな、聞こえてる? 音量大丈夫かな? 聞こえてたら、コメント、お願いしまーす!」


早速、ファンからは雨のようにコメントが届く。


オルタナのバーチャル空間では、コメントが吹き出しのような形をして、ゆらゆらと落ちて来る。


ファンはねむの3Dモデルに大盛り上がり。
「かわいい!」
「3Dになってる!」

「みんなありがとう!写真沢山撮って、拡散してね!」

遂に配信開始。

「ねむを脳波だけで動かす…」

まずは天から降って来るコメントを掴もうと、手を伸ばす。


しかし、生身の手がガタガタと動くばかりで、ねむの手は動かない。


右肩…肘…手首…指先…徐々に意識を強め、ねむの手は天高く伸びる。


しかし、コメントを掴めず、その手は空を切った。


「動きがぎこちないなー」
「カタイwww」
「まだ慣れてないのかな?」
「人形浄瑠璃みたい」

人間の頭の中には、1人の小人が存在する。

その小人を操り人形のように動かす事で、現実の体も動く。

この小人の動きと実際の体のペアリングを切り、出力をバーチャル空間へと移すことで、思考によって身体を動かす。これにより、人は機械と、インターネットと融合出来るはずだ、と私は考えた。

それが私なりの答えだった。


生身の身体を必要とせず、バーチャル空間に美少女を形成し、それを脳で操る。仮想美少女と融合する。
美少女をインターフェースとする事で、現実世界からデジタルの世界へ足を踏み入れることが出来る。

11章
ブレイン・マシン・インターフェース
【フル・シンクロ】


徐々に動かし方が分かり、完全にねむと融合する【私】。

自分の一挙手一投足にファンが反応し、「ここに自分が居る」「存在している」という有意義な気持ちになれる。


ようやくコメントを掴み、顔の横へ持ち上げ、左手でピースサインを作ろうとするが、難しい。

「カワイイ動作」をする為に、脳がフル回転する。美少女である事に全力になる。

今までも、仮想空間で身体を動かす事は辛うじて出来ていた。

しかし、信号を送ることは出来ても、「身体が動いている実感」を脳に送り返す事が出来ず、その動きには力強さが無かった。

しかし、今は動けば動くほど、ファンからの声援がある、反応がある。

それを、身体を動かす事のフィードバックとして代替する。こうして脳をだます事で、仮想空間の身体にリアリティを生む。

落ちてきたコメントの吹き出しは身体にぶつかり、柔らかな雪のように砕けていく。

その感覚が、確かにある。
皮膚が、その感触を感じている。


まだ足りない。もっとフィードバックが必要だ。


「せっかくのイベントなので、衣装チェンジするよ!」

「変身!」

ねむは、あられもない薄面積の水着姿に変貌した。

更に多くの衆目が私の元に集まる。来場者が増え、コメントは雪崩のごとく押し寄せ、滝に打たれるかの衝撃が皮膚に走る。

美少女の身体を、肌色の柔肌を、ファンが見ている。視線が確かに分かる。

見られている場所が徐々に熱を帯びていくのが分かる。

背中を流れていく汗が、水着の紐にかかるのが分かる。


「あぁ…」


私は、恍惚とした気分でいた。遂に、美少女に生まれ変わったのだ。


徐々に身体に力が入るのが分かる。

今なら立てる。


その場から立ち上がると、全く動かしていないはずの肉体が筋肉痛で悲鳴をあげる。

完全に仮想空間の肉体を自分のものと勘違いしているのだ。

今この瞬間、私は肉体の軛(くびき)から解放された。


醜い肉体よ、今までありがとう。私は遂に、デジタルへ足を踏み入れたのだ!




最終章、仮想美少女シンギュラリティへ続く




ご高覧誠にありがとうございました。私の仮想美少女シンギュラリティ概略はこちらで終了です。


本編には最終章と後書きがありますので、続きはそちらを読んでいただければと思います。

恐らく、私のフィルターは通さない方が美しいままの結末をご覧頂けると思います。


いやー、疲れました!!しかし、どうすれば伝わりやすいか、作者様の意志を尊重した上でよりコンパクトに出来るか、と考えながら執筆するのはとても楽しく充実したものでした。

10章からですます口調から主観の視点で文字を書いたのは、皆さんに「ねむ」になって欲しかったからです。

私は読書中、脳が錯覚を起こしていました。

その錯覚は素晴らしいもので、特に6章のバーチャル空間を飛んで神着島へ向かう時の感動で涙を流しました。

自分自身も、ねむと共に空を飛んでいるような感覚があったのです。


読書とは、そして文学とは、作者の人生の追体験をするようなもの。


読者の我々は、仮想美少女ねむにもなれるし、太宰治にも、夏目漱石にもなる事が、きっと出来ます。


今の時代、没頭できる事は本当に稀で、世の人は忙しなく日々を過ごしています。

そんな時だからこそ、目の前にある進化の扉を開くため、つまらない日常を抜け出す為、この本を手に取って読んで見てほしいと私は願います。


「小説はちょっと…」
「文字を読むのが苦手で…」
「内容が難しそう…」

という方も、概要だけでも知っておけば、読む前のハードルは格段に低くなります。


Amazonで売上1位を達成した名著を、是非貴方の本棚へ追加して頂けますと、私も大変嬉しく思います。

最後に、素晴らしい作品を執筆下さり、この概略を生配信でもご紹介下さった作者様と、この作品を作り上げるに至った全ての方に心より御礼申し上げます。

作者様ツイッターアカウント
https://twitter.com/nemchan_nel?s=21

仮想美少女シンギュラリティの購入は作者様ページから
https://twitter.com/nemchan_nel/status/1342401187937570816?s=21


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