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聞こえるのは、君の足音雨の音。

ポテッポテッポテッ

娘の走る足音。
もうちょい頑張れ!

ポテポテポテテ!

もっと!

ポテテテテテテテ!

うん、この辺が、彼女のMAX速度。
気持ちの上では

シュゴゴゴゴーーーーー!!

ぐらいあるのも知っている。

今日は運動会だった。
昨日の青空と、うってかわって曇天模様。
娘の競技の時間には、ポツポツ雨も降り出した。



ようい! 

娘の順番がきた。
雨粒に目をしばたかせて、今から走るコースをまっすぐ見ている。

パンッ!!

こんなご時世だから、声援はご法度。

心の中で叫ぶ。
がんばれ!がんばれ娘!
MAXポテテを見せつけてやれ!



ーーーーーー


彼女が幼稚園最後の運動会の時を思い出す。

幼稚園のリレーは全員参加。
背の順が、そのままリレーの順番だったので、背の高い娘はアンカーになってしまった。

「なってしまった」なんて言ったら娘には失礼だけれども。
ポテポテ走りにアンカーは荷が重い。
そんな私の不安を知る由もなく、リレーは始まる。


何ということだ、娘のクラスは、抜きつ抜かれつずっと1位2位の上位をキープしている。

このままじゃアレだ、
アンカーで最下位になって、クラスが「ああああー」テンションだだ下がりになるアレ、
アレを体験することになってしまう…!



親として、そんな悲しい結末を見たくない。


いっそ、誰か転んで順位が転落してしまえば娘の責任が軽くなる!

今思うと、相当酷い発想だが、本気でそんなことを願ってしまった。
娘が体験するだろう悲しいことを、誰か他の子に背負って欲しいだなんて、バチが当たるぞ。


分かりやすく頭の中で、天使と悪魔が言い争っているうちに、娘の順番が回って来てしまった。

1位のまま、バトンを受け取った娘は、多分、私が今まで見てきたどの表情より、真剣で、緊張感があって、ヤル気に満ちていた。


走れるかもしれない。


そう思った私の耳に聞こえて来た足音は

ポテテテテテテテテ…!!


だけど、あの表情は。
きっと彼女が聞いてる足音は。

シュゴゴゴゴーーーー!!

今、娘は全力で走ってる。
私も声を張り上げる。
がんばれ!がんはれーー!!


2位の子が迫ってくる。
カーブを終えたあたりで追いつかれる。
それでもいい、最後までがんばれ!

あっ…!!!


ゴールに入る直前か、ゴールに滑り込んだのか。
どちらともつかないところで、娘が盛大に転んだ。

娘の転がりこんだ体と、3位から上がって来た子のゴール、どちらが先か、私には見えなかった。

幼稚園の運動会だ。
派手に転んだ娘の手を取って、先生は2位の旗を持たせてくれた。
ビデオ判定があったら3位だったかもしれないけれど。


リレーが終わり、閉会式が終わっても、娘は、ずっと俯いていた。
迎えに行っても、ギュッと私の手を握って黙っていた。
「痛かった?」そう聞いたら、首をブンブン横に振った。

そうして、帰りの車に乗って、扉のバタンと閉まったその音を確認すると、娘はそこで初めて

わーーーーん!!

と泣いた。

全力で走ったんだ。
悔しかったよね。
転んだ痛みなんて感じないぐらい。
みんなのために、1位でゴールしたかったんだ。

ごめんね。
誰かが転べばいいだなんて、お母さんはそんなこと考えてしまった。
まさか君が転ぶなんて思ってなかったけれど。
それがバチだなんて思わない。

転ぶぐらい、前のめりに走った君は、カッコいい。
君の全力をみくびっていてごめん。
ポテテテテ!と走る君の限界を、勝手に決めつけてごめん。


あの時、ほかの誰が転んでも、きっと君は全力で走って、ゴールに転がり込んでいっただろう。



ーーーーー


ポテポテポテテテテテ!!

相変わらずの足音で、娘が全力で走っている。

がんばれ、がんばれ娘!!

雨の中、どの子供達も全力で走る。
先生たちが、びしょ濡れで見守っている。
天気予報は曇りだった。

だけど、誰も「あーあ」なんて言わない。
雨の中、ゴールだけを見ている子供たちを、全力で応援する。
心の中でだけ、とびきりの大声で。


がんばれ!がんばれ!!


聞こえるのはパタパタと傘に降る雨の音と、ポテテテテテ!!の全力足音。

でも、あの子の耳には、きっと

シュゴゴゴゴーーーーー!!


風を切って、雨をくぐり抜けていく、かっこいい音が聞こえていたに違いない。







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