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記念日背景効果音

5月13日(土)枚方パーク、通称ひらパーへ行く。
前々から割引券を持っており、そろそろ期限が迫っている時だった。
天気予報は午後から雨。
うぬぬ、一週ずらすか、決行するか、家族会議の結果、雨予報の方が空いているのではないか?という結論になった。そして私は晴れ女(自称)。それより、来週土砂降りに見舞われたり、体調を崩したりしてチケットを無駄にすることを避けたい。

同日、私は早朝から予定があった。普段早起きをしておらず、早朝5時は完全に寝不足に陥ることが予想されたため「行きの車でしっかり寝かせてもらう」という宣言もしておいた。

詰めが甘かったことは認めよう。
前日「明日はひらパーだから飲みに行くのを禁ずる」そう伝えるべきだったのだ。
「控えめにしなよ」なんて甘っちょろいことを言うべきではなかった。

当日朝、萎びたサボテンの様相で起きてきた夫。ヨレヨレのくせに、無理やり起こされて棘が立っている。自業自得の二日酔いであるのだから、せめて萎びたきゅうりのように起きてくるべきである。

「帰りは運転するから、行きはお母さんが運転して行って…」
このやろう…今日は寝不足になると伝えたはずだ。加えて、大阪市内の運転は正直恐怖でしかない。自宅から3km圏内、そこを出る時は電車に乗ると普段から言っているはずだ。
義実家から帰る時の高速も、酒を飲む夫のために歯を食いしばって運転しているのだが…ゴゴゴゴゴ…
私が二次元の世界線で生きているのならば、確実に背後にこの音を背負っている。

「酒が残ってるから、運転したら捕まっちゃう。それとも今日行くのやめる?」
その選択肢がないとわかってそれを言うかコイツ…!
あと2秒あったら爆発するところだったのだが、娘がそこに入ってきた。
「えー!?じゃあお母さん運転してよ!!」
なんてことだ、運転したくないという私が悪者になっているではないか。夫が無計画に酒を飲んだにもかかわらず、私がわがまま枠になっている。
この恨みハラサデオクベキカ。
行きの車内で極力音量を上げて、娘と大合唱しながら現地に向かってやった。

ひらパーに到着し、フリーパスを購入する。
「俺、乗らないから入園圏だけでいいや」と夫。
オマエ…何しに来た…?

いざ乗り物を目指すと、思惑通り空いていた。ほぼ並ばずに乗り物に乗れる。
しかし、それが仇となった。
立て続けにジェットコースターに二度乗り、急流滑りのアトラクションにも間髪入れずに乗った挙句、ぐるぐると回転し続けるブランコや、うつ伏せ状に回転するなんとかFlyという乗り物にも乗った私は、盛大に乗り物酔いをした。
寝不足、そして運転による緊張と疲れも相まったのだろう。
「ちょっと待って、お母さん立てない…」
青白い顔になっている母を見て、娘はさすがにこれはまずいと思ったようだ。
「じゃあここで休んでて。お父さんと乗ってくる」と振り返るがお父さんも青白い。
なんだこの家族。
すると夫が意を結したように言った。
「よし、お父さんが連れてってやる」
ありがたい。じゃあ、チケット一回分買うのかなと背中を見送った後、しばらく経って見に行くと、娘がにやけながら1人で乗り物に乗りまくっていた。
「あれ、お父さん乗らなかったの?」
「いや、それは無理だ(キッパリ)」
オマエ…何しに来た?

しかし、娘がご満悦の表情をしていたので、私はホッと胸を撫で下ろす。
そうして随分体が楽になった頃、お昼の時間になった。
娘にリクエストを聞くとマックがいいと言う。しかし、私の体調を心配してか、うどんでもいいよ?と言う健気な娘。ありがとう、愛している。そう言いながらレストランを覗くと、明らかに冷凍うどんなのに900円であったため、「マックへ行くぞ!!」と踵を返し、娘は小躍りした。私の胃袋はどうやら値段に反応するらしい。
二日酔いの夫は無視しよう。食べられなくても私には関係ない。
そう思ってモバイルオーダーをしようとメニューを覗き込んでいたら「俺、このセットとコーラねー」
食えるんかい!
遊園地に寝ながらやってきて、乗り物には乗らずベンチでうたた寝を繰り返し、マックを平らげる夫を見ながら、しみじみと思う。

オマエ…マジで何しに来た!?

その後、体調回復した私は、娘と絶叫系を堪能し、雨がぱらついたあたりで室内の乗り物とゲーム遊びに興じ、閉園時間までめいいっぱい遊び尽くしたが、その間、彼は400円の乗り物券を一枚購入し、ぐるぐる回って二日酔いを再燃させてひらパーを後にした。


5月14日(日)
母の日である。
そしてさらに、結婚18年目の記念日であった。
「カーネーション買ってくればいい?」と義務のように言う夫に
「忘れていると思うが結婚記念日なので花束を用意した方がいいぞ」と、丁寧に教えてあげた。いいか私は根に持つタイプだ。
さすが18年も連れ添っているだけのことはあって、空気を読んだ夫は
「よし!今日はご馳走を作ろう…!」と何故か娘に向かって取り繕っていた。
そうして、スーパーに買い物に出かけ、そこに併設している花屋さんにて「好きなのを選んでおいて」と言われたのだが、スーパーの花屋さんは商品が少ない上に母の日価格である。

「ミニバラの鉢植えが欲しかった。ここに欲しい花はない」そう伝えると、じゃああっちの花屋に行くか?それともこっちの花屋に行くか?と夫は言うのだが、その日は雨が降っていたし、すでに食料品を買い込んでしまっていたため、早く家に帰ってくつろぎたかった私は「もう面倒だから花はいいや」と答えた。
すると「面倒って言うなよ、せっかく買ってやるのに」と夫はのたまった。

…買ってやる…だと?

「はっきり言おう。どんな花でも貰ったら嬉しい。スーパーのカーネーション一輪でも、感謝の気持ちを込めて渡されるなら、私はきっと喜んだ。だけど、欲しいなら買ってやると言われてもらう花なんぞ、最初からいらないのだ」

このセリフを、まったく怒鳴ることなくあえてにこやかに口にする妻。
これが結婚18年にして培った感情コントロール。体力温存バージョンである。
もし私が、二次元の生き物であった場合、表情に反して、背後からメラメラと何かがゆらめいていたに違いない。夫は、気持ち後ずさっていた。

家に帰ってから、夫は猛烈に台所で働いた。そう、彼は料理が得意。
「挽回するには今しかねぇ…!!」という心の声が漏れてくる勢いである。
私はほくそ笑んだ。あえてメラメラを背負ったまま、何もせずに過ごし、長風呂を決め込む。途中「オリーブオイルが切れているー!」と雨のなか出かけて行く夫に「太白ごま油ならあるけどな」と呟いたが、放っておいた。

風呂から出ると、想像していた以上のご馳走が並んでいた。
いやっほい!これがあるから完全に怒れないのよねぇとニヤける。
その上、娘が「お母さん見てみてー!」と嬉しそうにしているのは、ガーリックシュリンプがあったからではない。
そこには、ミニバラの鉢植えと、カーネーションが一輪用意されていた。

「これ以上怒らせたらヤバいと思って。俺はやる時はやる男なんだよ…!」

自信満々の笑顔である。
実は、オリーブオイルを買いに走る夫は、もしかして花を買ってくるんじゃないかと思っていた。
しかし18年間、そういう薄っすらした期待は、何度か裏切られてきたのも事実。だって彼はサプライズが出来ない男。
期待するほどショックを受けることを学んでいた私は「花が食卓に用意されることはない」と強く打ち消していたのだ。
打ち消したぶん、出現した花の効能は大きかった。

できるじゃないのサプライズ!!

私はまんまと、この2日間背負っていた不穏な背景を、一瞬で『パァァァッ!』と言う文字に差し替えて背負った。


なんやかんやあれど、こうして夫婦はこの先を目指して歩くのでありましょう。
背景は、出来ればいつもホワホワとしていたいものですが。
この先も、どうぞよろしく。

うつ伏せで回転させられて、吐きそうになる
娘、8回ぐらい乗ってた、オエップ…
夫渾身の記念日ディナーと花。
お疲れ様ありがとう。



この結婚式から18年経ちました。


サプライズの出来ない男。

私の夫はいい具合に面倒くさい。



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