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この出会いこそサプライズ

サプラーイズ!!

あの言葉を初めて聞いたのはいくつの時か?
ビバリーヒルズ青春白書だっただろうか?
真っ暗な家に帰って「今日は誕生日なのに…」と落胆させておいてからの、ヒーハー!!と、はしゃぐパーリーピーポー。
一度やりはじめたら最後、仲間内では、次の誕生日の人も基本やってあげてほしいので、誕生日が遅くくる人は、サプライズを知っていて知らないフリをするほかないし、むしろその時にサプライズしてもらえないほうが絶望感が増すかもしれない。

また、突然歌い踊り出す人々を初めて見たのはいつだろう。
さっきまで淡々と本を読んでいたり、コーヒーを運んでいた店員さんが一斉に踊り出す。
最後「僕と結婚してください!」
目の前にいた彼が、この世界を作り上げてくれた張本人だと知るフラッシュモブ。
「断ったら踊ってくれた人に申し訳ない」
そんな想いにかられないよう、プロポーズは入念に相手の気持ちを確認してからしたほうがいい。


私はそんなサプライズがめちゃくちゃ…
好きなんだ!
やりたいしやってもらいたい!
そう思って青春時代を送ってきた。
夫と出会うまでは。

まだ夫婦になる前だ。

彼は割とお料理が好きだった。
いつも「すぐ焦げつくんだよ」と言いながら、何年も使ってテフロンの威力が弱まっているフライパンの文句を言っていた。
だから、私は、バレンタインに「ジャーン!」と言いながらティファールを贈った。

すると彼は「あ、そういうの先に相談して。これは貰うけど」
そう言い放った。

いや待てと。
「それじゃなかったんだ欲しいのは」
とかね、あるかもしれない。
分かる、分かるよ?残念ながら好みじゃなかったとかね。俺も同じの買っちゃったとか。

だけど、付き合って1年も経ってない彼女の「ジャーン!」はな。
生まれたての赤子、手のひらに乗っちゃう子猫、初めてお披露目される子パンダぐらい、
「愛されて当然」という確信の元に繰り出されているんだぞこのバカヤロウが!!

「え、でもさ、全然要らないものだったら嫌じゃん。コレは嬉しいけど」
正直すぎる彼の胸ぐらを掴みつつ(いや掴んでないけど)私は言った。
正しいツーステップを教えてやるよ。
「嬉しい!ありがとう!」
「だけど、これからは相談して決めようじゃないか!」

そんなわけで、それ以後、私からも、そして彼からも当然、サプライズなどこの世に存在しないものとして過ごしてきた。

結婚して数年目のクリスマスイブの時。
私は体調を崩していて、すこぶる気持ちが悪い状況で眠りについた。
朝、目が覚めると、枕元で何かカサッと音がした。
体調不良の私の心配をして、サンタが来たのね!
喜びに胸を弾ませ、その袋を手繰り寄せると、それはいつ吐いてもいいように用意されたゲロ袋だった。

くっそ…あれほど期待しないと誓っていたのに!サンタさんなんて…サンタさんなんて…!

娘が産まれて、彼女もサプライズをしたがるようになった。

「ふふふ、お母さんは来ないでね!」そう言いながら、お父さんとダイソーへ繰り出す。
もうすぐ私の誕生日だった。
きっと、部屋を飾り付けして「お母さん驚いたでしょー!」あれがやりたいのだ。

「えー?なんでー?お母さんもダイソー行きたいよー」「ダメダメ!お母さんはお留守番♪」
これぞイチャつきの真骨頂!みたいなやりとりをして浮かれていたのに、帰って開口一番
「めっちゃ風船買わされたー」とお父さんが言うや、「なんで言っちゃうのよーー!?」
娘は、父にめちゃくちゃキレて、キックアンドパンチを繰り出していた。
いいぞ、もっとやれ。


ちなみに、彼に、祝う気持ちがないわけではない。
「ねぇ何が欲しい?ねぇ何が食べたい?」
誕生日のひと月前ぐらいから、やたら聞かれるのだが、正直、歳を重ねるごとに欲しいものが思い浮かばなくなってくる。
「iPadは?ねぇiPad!」
…それ君が欲しいんちゃうんか。
「あ、じゃあさ、高級なレストラン行く?あー!今、酒提供されないからダメだわー」
…何私より飲もうとしてるんだよ。

ちょっとアレだ。正直が服着てる。
正直者にサプライズは不可能なのだ。

彼は多分、暗闇でサプライズヒーハーをする以前に「今日の夜、みんなが勝手に家に入ろうとしてるけど、いい?嫌じゃない、勝手に人に家入られるの?」と聞いてくるし、フラッシュモブをやろうものなら、「練習がハンパないの、マジで」と毎日、疲れを労って欲しい空気を出してくるに違いない。


サプライズ。
もし、将来、娘の彼氏がサプライズ好きな人だった場合、私は仲間たちに混じってヒーハーの準備をしておくし、振り切って踊るモブの準備も完璧にしておこう。
だけど、そうだな。
サプライズがなくても幸せに暮らせるし、生きてることこそサプライズ、驚きはその辺にあるもんだと、実はちゃんと知っている。
だってそうでしょう?
この出会いこそサプライズ(キメ顔)

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