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愛のままにわがままに私は君を時々傷つけてしまうから

「いい加減にしなさいよ!」

そう言って、私は娘の頭を思いっきり引っ叩いた。
いい音が鳴るように、手平を広げてスパーン!と。

ことの始まりは、説明するのも面倒な些細なことだったけれども、途中からどうにも怒りが収まらなくなった。


叩く1センチ手前ぐらいで、もう1人の私が叫ぶ。
「叩いたらダメよ!」
しかし、振り下ろされた手は、勢い余って止められない。


手の平の痛みと同時に「やってしまった…!」と後悔の念が押し寄せる。
それで慌てて自分を正当化しようとする。
「お母さんの言ってること、わかる?なんで怒っているか。お母さんだって叩きたくないのに」


娘は、私をキッと睨みつけ、ポロポロ涙をこぼしながら「わからない!」そう言った。


そうだ、そうだよ、君は分からなくて当然だ。
親が子供を叱るとき、パワーで抑えつけられる年頃に対して、叩くという手段に出るのは、卑怯じゃないか。
分かっていなきゃいけないのは私の方だ。
だけど、止められなかった。
煮えたぎった怒りを、娘にぶつけて発散しようとする未熟な私がそこにいた。


自分が未熟と知ったなら、取り繕うことなんてしちゃいけない。
未熟であることを知ってもらおう。


それで、私は「お母さんもわからない!」と叫んでみる。

「大好きなのに、なんで叩いたかわからない!だからごめんねって言いたいけど、でもお母さんも人間だから、あなたに怒りすぎて謝りたくない!!どうしたらいいと思いますかー!!!」

最後はキレた状態で叫んでいる。

人間だもの!ねぇみつを!!
このテンションの殴り書きしたら、トイレにだって貼ってもらえない。

対して娘の対応は。

ちょっと間をおいて、からの放屁。
まさかの

プゥーーー…スン


それから、涙と鼻水を垂らしながら吹き出した。
「オナラでた!あたしもごめんなさい言いたくないからオナラでごめんて言った!」

ぬおおお…なんだその対応は…!!

あ…
愛してる…!!!




私たちは、きつく抱き合った。

なんのドラマだ。


このタイミングで放屁してくれるあなた。
未熟な私を許してくれるあなた。
私の怒りを瞬時におさめてしまうあなた。
愛おしい以外に、なんの言葉が当てはまるのだ。
母さんはこれでジブリ一本分心動かせるぞ。


夏休み、一緒に過ごしすぎて、幾度となく喧嘩を繰り返している。

宿題や、テレビの見過ぎや、食事の仕方、それは、私が子供の頃にも散々叱られて、そして「お母さんはうるさい!」と思っていたことなのに、全く同じ叱り方をして、全く同じようにうるさいと思われている。

だからこそ。
ここに私なりの抵抗を入れたい。

母のことは、大人になった今も大好きだけれど、子供の頃、ひとつ不満は、謝ってくれないことだった。
そりゃ私が悪かったことも承知しているが、母の機嫌が悪かったために怒られたこともあるはずだ。
なんやかんやと理由をつけて、無理やり謝らせた後に「もういいから」と言う母に「出た、大人のズル技!」と思いつつ、怒りがおさまったみたいだから、ぶり返さないでおこうと、こっそり舌を出したことを思い出す。


だから、叱っているつもりが、いつの間にかただの喧嘩になってしまった時は、「謝りたい」という気持ちを言葉に出す。
たとえ親子であっても、言葉にしなければそれは伝わらない。
だから時に真剣に、時に逆ギレの様相で。


謝りたいけど、謝れない。
あなたもそんな気持ちなんでしょう?



それで、最後にきつく抱き合う、までが一連の流れになっているんだけれど。

これ、合ってる?


抱きしめて誤魔化すプレイの記憶になってない?
いや、母さんは誤魔化してるつもりはないんだぜ?
半分は、確実に君も悪いことは覚えておけよ?

でも、今日、叩いたのはごめんな。
それはちゃんと謝った。
「音よりは痛くなかったよ?」と、漫才のボケ担当みたいなことを言ってくれた。
「でも、痛いは痛いからね、許してあげるけどさ」と、大人みたいなことも言う。

いや、ひょっとしたら、私より大人かもしれない。私よりずっと、あっさりと許して、あっさりと謝って、さっぱりとした笑顔をくれる。
そして、ギュッと抱きしめてくれるのは彼女からの方が多い。
むしろ、私から抱きしめると「うぜえ!」という顔になるのはどういうわけだ。それも大人への階段なのか。
この夏に、また背が伸びた。

もうすぐ夏休みが終わる。
ホッとする気持ちと、どこか切ない気持ち。
夏休みの思い出を、家族と作ってくれるのは、一緒にプールや川ではしゃいでくれるのは、もうあと数えるほどだと、伸びた君の背中が教える。

豪雨とコロナで、やたらと一緒に過ごした時間、いつも笑顔でいられたわけじゃないその時を、やたらと抱きしめ合っていた時間という記憶として残せるのであれば、母の今年の夏は、ミッションコンプリートだ。

まぁ、今日ひっぱたいたことは、忘れて欲しいんだけどね。そんなに都合良くはいかないか。



さて、そろそろ、日常に戻りましょ。
(戻れるかな…緊急事態宣言出てるけど…)




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