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だから選挙はやめられないっ【「NO 選挙,NO LIFE」感想】

という感じでした。映画「NO 選挙,NO LIFE」
ポレポレ東中野で9日見てきました。

選挙は重い想い、つまりはクソデカ感情のぶつかり合いだと私はずっと思ってるんですが、やっぱりそうでしたね。

この映画もクソデカ感情がビュンビュン交差しまくります。
この映画で密着されている選挙ライターの畠山理仁さんも、それを密着する前田亜紀監督も、各立候補者さんも、立候補をやめた人も、支持者の皆さんも、政治と選挙へのクソデカ感情しかないです。クソデカ感情映画。
選挙が好きなオタクとクソデカ感情が好きなオタクは見よう。

そしてこの映画はフジテレビの「NONFIX」で放送されたものの長尺映画版になっています。なので「NONFIX」でもやってた範囲であらすじをめちゃくちゃ雑に言うと、

国政政党の大手候補からインディーズ候補(畠山さんは「無頼系独立候補」と呼んでいる)まで全員取材する畠山さん、去年の参議院選挙東京選挙区でも「全員取材」する

参院選期間中の畠山さん「とは言えお金も体力も限界…沖縄知事選で選挙取材最後にしよ(めちゃくちゃ意訳)」

参院選も沖縄知事選も面白い!!

畠山さん「やっぱ選挙取材辞めらんねぇ!!(めちゃくちゃ意訳)」

っていう話です。これがめちゃくちゃ面白い。
とりあえずどこが面白かったのかを、語彙力がないなりに書いていきます。

※私自身多少ネタバレした状態で見ましたが面白かったので、この後は映画にしかなかった箇所もラストシーン以外は多少ネタバレします。ご了承ください。
※台詞の記憶が曖昧だったので、一部「」内台詞は購入したパンフレットから引用させていただきました。
※めちゃくちゃ長くなってしまった(総文字数4000字超)ので、興味のある目次のところだけ見てください。
※あとぜひ映画館で見てください。


立候補者が個性しかない

知ってた。(独立候補箱推し)
でも改めて思い知らされました。個性しかないなぁ!!
特にフィーチャーされていたのは、参院選で東京選挙区から立候補していた中村高志候補と中川智晴候補。この名前にピンと来た選挙オタクは見るべきです。知らない人はなおさらです。

告示日、畠山さんの取材に中村候補は、「自分は超能力がある。自分が思ったりやったりしたことをみんなが真似する」「だから当選したら、議員収入を溜め込まずにどんどん使う。そしたらみんな真似するから景気が良くなる」ということを言っています。
中川候補は「トップガン政治from中川」という自身の政策を街頭演説で訴え「落選したらどうしますか?」と畠山さんに聞かれると「勉強して、バッティングセンター」「小学校の通信簿が3。それが今ではバッティングセンターで170キロ打てるんですよ」と答えました。驚く畠山さんに中川候補は「打てるんです。成績が悪い子でも、努力次第でできるということを伝えるために。それが伝えたいメッセージ」と続けます。
この一見変わったお二人は映画で2回ずつ登場し、畠山さんは毎回真剣にお二人の話を聞いています。

そして中村候補と中川候補、とにかくなんというか、不器用です。(これは映画に出てくる全ての人にある意味言えることですが)
中川候補は演説中にスタンドが風で倒れるわ、中村候補は街頭演説中演奏しているアコギの楽譜(!?)を出し入れする時に手がめちゃくちゃ震えてるわ。
そういうのを見かねたのか、畠山さんが倒れたスタンドを起こしたり楽譜を固定するのを手伝っていたりするのが印象的でした。
お二人とのシーンには、どんな候補でも分け隔てなくまずは話を聞くという畠山さんの姿勢が表れており、さまざまな独立候補の面白さも存分に表れていると思います。

怒る時は(静かに)怒る畠山さん

どんな候補でも分け隔てなくまずは話を聞く畠山さん。しかし無批判というわけではないんです。
怒る時は(静かに)怒ります。

参院選告示日の取材で、某新風の候補(かなりの保守系)の「LGBTQにしたって、ダメなものはダメ」という発言に、畠山さんは「LGBTQはその人の権利であり生き方なので…〜」と穏やかながらもしっかり反論していました。このシーンの前に、LGBTQ当事者であり多様性を尊重するような政策を掲げる候補を取材するシーンがあるのが、また良い対比を生み出しています。編集の妙技ですね。

そして畠山さんが一番(静かに)怒っていた、というか抗議していたのが、某国政政党からの後出し動画撮影NGです。参院選で初めて国政政党になった、オレンジ色がイメージカラーの某DIY政党ですね。
事前にフリーランスであることと名前を伝えた上で会見の取材許可を貰ったはずなのに、会見後党の関係者から「フリーランスは動画撮影NG」と言われたのです。

知事の会見で新聞社など組織に所属する記者だけを入れてフリーランスの記者を入れないなど、「政治家がメディアやジャーナリストを選り好みすること」を普段からSNSなどで批判している畠山さん。今回の後出し動画撮影NGも、「『国民みんなが参加出来る党』と言っているのに、メディアごとに差をつけ国民を選別するのはおかしい」ときっぱりと抗議します。

全ての立候補の権利を尊重しているからこそ、立候補者や政党が権利の侵害をしているのは容認しないという畠山さんの態度に、ある種の安心を覚えました。

「その後」を知った上で見るという悲喜

この映画で畠山さんが取材しているのは、2022年の参議院選挙と沖縄知事選です。つまり、1年前のことを思い出しながら見ることが出来るということです。

例えば参院選告示日の第一声。自民党から出馬している朝日けんたろう候補の応援演説に駆けつけたのは、安倍元首相です。
私はその応援演説の聴衆と違って、この後何が起きるかを知っているので、そのシーンを見て「あっ…」となんとも言えない気持ちになりました。映画の中盤で「2022年7月8日」という文字がスクリーンに出た時も同じです。

さらに選挙オタクは、
「この後当選するんだよな…」
「この後逮捕されるんだよな…」
「この後党首と対立するんだよな…」
とちょいちょい思えるという悲喜こもごもな仕様となっています。

本当に立候補者のこと好きなんだな畠山さん

マジで思いました。NONFIX版を見た時も思いましたが、改めて思いました。

参院選の時に「雑誌の原稿の締切前に東京選挙区立候補者を全員取材して記事を書かないと!コンプリートまであと一人だから応援演説先の長野行って取材しよう!(めちゃくちゃ意訳)」となった畠山さん。そして長野選挙区の立憲候補者の応援演説に来ていた蓮舫候補に会い、移動する直前に何とかコメントをもらい、34人全員取材をコンプリートしたのでした。
そうやってコンプリートして「来たかいがありましたね!」と言った時の畠山さんの顔がめちゃくちゃ嬉しそうです。長野まではるばる行った苦労より、コンプリート出来た嬉しさが圧倒的に勝ってるということですね。やば。(褒め言葉)
私の近くの観客も、そこで少し笑っていました。嘲笑とかじゃなくて「あらあら〜相変わらずなんだから〜」って感じの笑い声でした。私もそう思います。

そして私が個人的に一番好きなシーンは、沖縄知事選での「のぼり」の一連のシーンです。
いつも「大手候補はいいなぁ、私の推しの独立候補と違ってお金の心配要らないし」と呑気に思っていた私でしたが、このシーンには大手候補の哀しみを感じることになりました。

サキマ候補は、自民公明から推薦を受けているという大手候補でした。最終日の道路沿いでの訴えも、のぼりを持った支援者でいっぱい。しかし街宣が住宅街になると、付き添いは運転手とウグイス嬢だけ。
畠山さんは、「サキマさんじゃなきゃ!っていう応援の仕方をみんながしてくれていないような気がしました。自民党・公明党が推薦する候補だったら国とのパイプがあるから予算を取ってきてくれる、みたいな応援の仕方」と心配をこぼします。

か、悲しい…
支援者の大半は「サキマ候補」が好きなんじゃなくて、「『自民公明の』サキマ候補」が好きということなのか…

そして開票。結果は玉城デニー候補のゼロ打ち当選。サキマ候補は落選しました。
畠山さんは玉城候補→下地候補者の事務所に行ったのち、サキマ候補の事務所へ向かいます。しかしゼロ打ちから時間が経っていたせいか、もう事務所に人影はありませんでした。そして畠山さんは、事務所のガラス張りのドアの向こうにあるのぼりを見つけます。

しかしそこにあったのぼりは、大きなビニール袋にぐしゃぐしゃに入れられていました。
それを見た畠山さんは「畳んで入れてほしい」とぼそっと言い、事務所入口近くのまだ片付けられていなかったのぼりの折り目をなぞりながらこう続けます。「もう使わないってことなのかなと思うと悲しくないですか」

悲しすぎる。
この映画での私的一番悲しい場面はここでした。
そして、畠山さんって立候補者のことが本当に好きなんだな…と改めて思う場面でもありました。

まとめ:だから選挙はやめられないっ(出馬する側も取材する側も、そしてそれを見る側も)

畠山さんが最後のつもりで取材した沖縄知事選。しかし、落選した翌日に取材した下地候補が最後に「(落選したら)ダメージは受けるけど、国を良くしたい、県を良くしたいという思いの方が強い」という言葉を残し去って行くのを見て、「見習わなきゃいけないな。お金がないとか言ってる場合じゃないですね…」と畠山さんは話しました。

ああ、これじゃ選挙取材やめられないわけだわ。

私はそう思ってしまいました。だって取材したら、絶対楽しいから。絶対元気付けられるから。絶対伝えたくなるから。この映画を見て、取材をやめたくなる気持ちもやめられない気持ちもめちゃくちゃ分かってしまいました。
それは立候補者も同じです。特に何回も落選して供託金没収となったような独立候補は、よく出馬時に「この選挙で最後にする」と表明します。しかしなんだかんだで、また出馬するのを何回も見てきました。それだけ、選挙には魔力のような魅力があるということです。

そんな選挙の魅力が詰まっているのが、この映画だと思います。そしてその魅力に取り憑かれた人がこれでもかと出てくるのが、この映画です。
そしてこれを見た人もまた、その魅力に取り憑かれることでしょう。

追伸
今回ネタバレを控えたラストシーンですが、この記事内で紹介したある場面が、伏線のようになっております。
ぜひ映画館で確かめてください!!

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