《小説》書類上 〈第2回〉
階段を降り切って左に曲がれば、簡素な金属製のドアがあった。いかなる装飾も標示もない灰色のドアを開けて、私はそのビルの中に入った。左右に廊下が伸びていた。片方は行き止まりになっているのが見えた。背後でドアが閉まる。その重い音は冷えた空気の廊下に響きわたった。私は進むべきほうへ歩きはじめた。
私の事務所へあの男が入ってきたとき、彼は私の生活の範囲内へ入ってきたことになる。私がつまらない習慣と平凡な方法で築きあげた秩序のなかへ侵入してきた。過去の私があちこちへからだを接触させ