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映画『ほつれる』/ほつれるの意味をこんなに考えてこんなに連呼したことはない

ほつれる

・縫い目や結び目、あるいは編んだ糸などがとけること。とけて乱れる。

・束ねてあった髪や糸などの先が乱れること



門脇麦と映画『ほつれる』


映画『ほつれる』

何の前情報も入れずに観てきた。

主演である門脇麦への絶大な信頼と言って良いかもしれない。

彼女の出演作品は「コレだ!」っていうわかりやすいヒット作もないし、大衆向け作品も少ない印象。

けれど同業者やその道を好きな人には確実に評価される作品が多い。本人の作品選びが上手いのか、所属事務所にやたらとそういうのが上手いブレーンがいるのか…

この『ほつれる』も間違いなく大衆ウケはしないし、彼女とデートで観に行ってその後に食事っていう流れで観に行く映画でもない。

けれど “カンヌ国際映画祭” とか、ナントカ国際映画祭みたいな場所で評価されやすい映画だと思う。

映画を楽しんだというよりは嗜んだという表現のほうが正しい。喫茶店に入ってビターなコーヒーを飲みながら、何度も何度も反芻したくなるそんな映画。

言葉数も最小限。

カメラのアングルで煽ったり音楽や効果音で煽ったり、ナレーションや登場人物の独白で話が進んだりすることもない。

楽しみ方を提示してくれるわかりやすい映画ではないので、自分の読解力や感性が求められる。

近年で言うと『ドライブ・マイ・カー』のような作品。

『ほつれる』のポスター


ここからネタバレかも?


核心に触れるようなことは極力避けているとは思うけど、それでも多少のネタバレをしているかもしれないので、これから映画を楽しむ、楽しみにしている人はここでページを閉じることをオススメします。


ストーリーは人妻である綿子(門脇麦)が
夫と不倫相手との間で揺れ動く気持ちを描いている。

夫婦の関係は完全に冷め切っていて、その心の寂しさを不倫相手である木村(染谷将太)との関係で埋めている。ちなみにこの木村も既婚者。

週に1度くらいのペースで会ってるのかな?

本編では新幹線に乗って遠出していて、最近はグランピングがもっぱらのお気に入りっぽい。

『昼顔』のような肉体関係が存在しているような描写はないし、その感じは漂ってはこないけれど、もしかしたらそういう関係なのかもしれない。

仮にそういう関係ではなかったとしても、正式なパートナーがいながら、内緒で頻繁に密会しているわけだから完全にアウト。

綿子の心情としては、夫にはもう完全に愛がなく向き合う気持ちもない。かといって、夫と別れて浮気相手と一緒になりたいという感じでもない。

ただ今は、どっち付かずのこの関係がずっと続いてくれれば良い。多くは求めない。

そんな矢先に浮気相手が突然、交通事故で死ぬという衝撃的な展開が序盤で待っている。

つい数分前、次に会う約束をして別れたばかりの出来事。

綿子と木村


綿子は彼の事故を確認し119番通報をするが、不倫がバレることを恐れて電話を途中で切ってその場から逃げ出してしまう。

心中穏やかではない、心ここにあらずの中で家に帰宅すると、夫である文則(田村健太郎)から、この停滞する関係を打開していきたいと打ち明けられる。

綿子と文則


夫への気持ちは一切ないが、とりあえず彼と向き合ってみようと思う綿子。

…が、それでもやはり死んでしまった彼への気持ちは拭え切れないし忘れられないし、その気持ちはより一層大きく強くなっていく。

そんな自分の本当の気持ちと向き合っていかなければならなくなった綿子の感情がどんどん溢れ出していき、ほつれていき、ラストにはある展開が待ち受けている。

・なぜ夫との関係は冷え冷えになったのか
・そもそも夫との馴れ初めは?
・不倫相手になぜ惹かれたのか?

1つ1つの真相が話が進んでいくに連れて明かされていく流れなんだけど、綿子と文則の馴れ初めには正直驚いた。 

映画『ほつれる』に明確なテーマや結末は用意されていない。

感情移入も共感もほとんど出来ない。

だけど綿子の心情や感情の機敏は伝わってくるし、そんな綿子を否定する気持ちにはなれない。

わかっていても出来ない。
ダメだとわかっていても止められない。

そんな綿子のような不完全な部分を誰しもが持っていることを僕たちは無意識に自覚しているからなのかもしれない。

怒鳴ったり感情を荒げることはないが、淡々と理詰めで綿子を追い詰める夫役の田村健太郎がメチャクチャ嫌いだけどメチャクチャ良かった。

89分の映画なのに、体感では120分くらいに感じた超濃厚映画。

2023/09/13

飛田将行 とびだまさゆき

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