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坂本誠志郎が主役になった日【10/20 対カープ戦○ CS突破】

打球が鋭く三遊間を抜けていった瞬間、このクライマックスシリーズの主役が坂本誠志郎であることを確信した。
4回裏の攻撃、S.ノイジーのタイムリーヒットで同点に追いついた直後だ。カープの先発・床田寛樹が立ち直る隙を与えない初球打ち。おそらく内角の直球を狙っていた。読み通りの球が来て確実に仕留めた。1塁に走り出しながら「やってやったぞ!」と言わんばかりにベンチを指差した。
試合は中盤に同点になるも、坂本が2本目のタイムリーを放って再び勝ち越した。2度目の勝ち越し打に、ベンチと観客の興奮は最高潮に達した。


坂本誠志郎がタイガースの中で主役か脇役のどちらかと聞かれたら、間違いなく脇役だ。守備力が高く優秀な選手なことは間違いないが、阿部慎之助や城島健司のようなスーパーキャッチャーではない。佐藤輝明のような派手さや近本光司のような華やかさがあるわけでもない。
なによりタイガースには梅野隆太郎という絶対的存在がいる。3年連続ゴールデングラブ賞の実績があるレギュラーの梅野と控えの坂本。強気な姿勢でチームを牽引する梅野と、献身的な姿勢でチームを支える坂本。この構図が長らく続いている。昨シーズンは坂本が選手間投票で主将に任命されたが、どちらかというと裏から支える存在だった。
梅野の骨折離脱によりその状況が変わったことは、改めて詳しく説明するまでもないだろう。

村上頌樹や大竹耕太郎の相棒として週に何回か試合に出ていたときの坂本と、毎日試合に出場するようになった坂本。プレーの面で大きな変化はなかったけれど、1つ変わったんじゃないかと思うことがある。試合に出ているときの坂本のリアクションだ。

抑えたときや試合に勝ったときの喜びが表情や仕草によく出るようになった。今までは慎重さが求められる捕手ならではの冷静な選手という印象だったけど、それが覆された。
ピンチで投手が三振を奪ったら右手を力強く握りしめる。ゲームセットを迎えたらピッチャーのいるマウンドへ向かい、とびっきりの笑顔を見せる。
特に印象的だったのが8月20日の対ベイスターズ戦で完封勝ちしたシーンだ。最後のアウトが宣告され、先発の伊藤将司とマウンドで力強く抱き合った。抑えた伊藤将より坂本のほうが喜んでいるようだった。坂本と伊藤将が喜んでいるのが嬉しくて、この日から僕のスマホのロック画面はふたりが抱き合っているシーンの写真になった。

坂本のリアクションが大きくなったのは守備のときだけではない。打者として効果的な一打を放ったとき、坂本は興奮する様子を隠さなくなった。キャッチャーとして自分が打てば投手を後押しできる。その充実感がまるで体から溢れているようだ。坂本の姿に呼応するように、ベンチの盛り上がりも大きくなった。

これまで梅野と割り勘してきた捕手としての重圧。坂本はその責任感を1人で背負うことになった。予期せぬ形で訪れたピンチは、結果として坂本の新しい一面を引き出した。
「自分の頑張りでチームを勝たせられる」。その喜びをより感じられるようになったから、坂本のリアクションは今まで以上に大きくなった。僕はそう思っている。

クライマックスシリーズファイナルステージの初戦、死球を受けた坂本は1塁へ歩きながらバットを強く放り投げた。きっとこれも試合を勝たせたい坂本の気持ちの表れだ。坂本の死球を足がかりにして、タイガースは逆転勝利を収めた。
第2戦。一打サヨナラの場面で坂本は四球を選び、チャンスを広げた。坂本は力強くほえて、後ろで待つ木浪聖也を指差した。坂本からのエールを受け取った木浪は見事サヨナラ打を放ち、日本シリーズ進出に王手をかけた。
初戦でチャンスのきっかけを作って、第2戦ではチャンスを広げる。そして第3戦はチャンスでタイムリーヒットを放った。それも2本。いずれも自分のバットで勝ち越し点を呼び込んだ。3試合でヒットはこの2本だけだったけれど、あまりにも大きかった。

自慢の守備でも投手陣を牽引した。村上も伊藤将も大竹もクライマックスで先発した経験はない。普段とは違う空気で本調子ではなかったけれど、それを感じさせなかった。キャッチャーの坂本が3人の状態を察知し、上手く引っ張っていったのだろう。3試合で失点はわずか4だった。

自らの打席で野手陣を鼓舞し、自らの守りで投手陣を引っ張る。優しさと気配り力はそのままに、ときおり秘める闘志が全面に現れる。穏やかさと気迫の同居。それは、僕がずっと見たかった坂本の姿だ。クライマックスシリーズの3試合で見せた坂本の活躍は、まさに物語の主役そのものだった。

こんな日が来ることをずっと願っていた。
行くぞ日本シリーズ。この先の物語の主役も君だ。




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