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ヨハネスブルグの天使たち|感想・レビュー ★4.5

宮内悠介氏の『ヨハネスブルグの天使たち』を読了したので感想です。

前回の『エクソダス症候群』と同様に、2回連続で通して読んでしまいました。

短くまとめると

近未来を舞台にした、ディストピア・哲学色の強いSF短編連作集

戦争や内戦・テロといった重いテーマが扱われており、また氏の作品の中でも難しい部類に入るため、氏の作品の入り口としてのハードルは高め

しかし、意識・生き方・愛・社会・宗教など、哲学的に考えられる内容であり、考えさせられる作品が好きな方にはおすすめ

ハードSFでは無いので、緻密なSF設定などを求める人には向かないかも。

まえがき

氏の作品は、

  • 『超動く家にて』

  • 『偶然の聖地』

  • 『盤上の夜』

  • 『エクソダス症候群』

に続いて5冊目です。

うち、後半の3冊についてはレビュー記事を書いています。

概要

本作は近未来を舞台にした、以下の5編からなるSF短編連作集です。

  • ヨハネスブルグの天使たち

  • ロワーサイドの幽霊たち

  • ジャララバードの兵士たち

  • ハドラマウトの道化たち

  • 北東京の子どもたち

以下、Amazonの概要欄から引用します。

ヨハネスブルグに住む戦災孤児のスティーブとシェリルは、見捨てられた耐久試験場で何年も落下を続ける日本製のホビーロボット・DX9の一体を捕獲しようとするが──泥沼の内戦が続くアフリカの果てで、生き延びる道を模索する少年少女の行く末を描いた表題作、9・11テロの悪夢が甦る「ロワーサイドの幽霊たち」、アフガニスタンを放浪する日本人が"密室殺人"の謎を追う「ジャララバードの兵士たち」など、国境を超えて普及した日本製の玩具人形を媒介に人間の業と本質に迫り、国家・民族・宗教・戦争・言語の意味を問い直す連作5篇。才気煥発の新鋭作家による第2短篇集。

Amazonの商品説明より

短編でありながら世界観としては繋がっており、どれもDX9というロボットが登場するという点で共通しています。そういった意味では、『盤上の夜』と似た構成と言えます(*1)。

戦争や内戦といったテーマが扱われており、全体的に重い内容になっています。

*1 あるいは出版社側のオーダーがそういった内容だったのかもしれません。

感想

本作は、これまで読んだ氏の作品の中でも、難解な部類に入ると感じました。それなりの知識が要求されますし、物語を理解しながら読み進めるのにも集中力が必要な気がします。

私の1回目の読了後のレビューとしては、氏の他作品ほど評価は高くありませんでした。”よかったけれど、『盤上の夜』や『エクソダス症候群』には及ばない”、そういった印象でした。

しかし、2回目を読み進めると、1回目には見えてこなかったこの作品の良さが見えてきた気がします。それは、村上春樹氏の『ノルウェイの森』に通じるような、生き方や社会について考えさせられる哲学的な読書だったように感じます。

また、時間をおいてから何度も読み直したい、そのように感じさせる作品でした。

考えさせられるエンタメ

読了後に Amazon のレビューを読み進めていたところ、非常に印象的な一文がありました。

(前略)
ただし、人を楽しませるエンタテインメントではなく、読者に考えさせるエンタテインメントである。純文学に近いかもしれない。

https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R3R3AS2TKAKLSH/

個人的に、この一文は非常に的を射ていると感じました。

本作も物語としてのエンタメ(=面白さ)は、しっかりと含まれており読んでいて実際に面白いですが、それ以上に”読者に考えさせる”という側面が強いのかもしれません。

そうした傾向は『盤上の夜』や『エクソダス症候群』においても見受けられましたが、本作はよりそれが顕著で、かといって明確にそれが描写されたりはしないので、どう受け取るかは完全に読者に一任されている印象でした。

そのため、一般的なエンタメ作品として本書を読んでしまうと、「発想は面白いけど、つまらない」といった単純な感想しか出てこない可能性もあるとさえ感じます。

知識が要求される

本書の大きな欠点を上げるとするならば、それなりの知識が要求されるということかと思います。

氏の作品はどれもそうした傾向が見受けられると感じますが、本作はそれがより顕著です。『盤上の夜』や『エクソダス症候群』は知識があるとより深く楽しめるという印象でしたが、本作はそれなりに知識が無いと十分に読めないかもしれません

例えば、AIにおける『フレーム問題』について、以下のように一切の説明なしに描写されます。

だからそれは、フレーム問題に対する脆弱性ヴァルネラビリティを持つ。
(中略)
「わたしたちはフレーム問題に陥らない。なぜなら、機械ほど頭がよくないから」

個人的にかなり唸らせられた描写なのですが、『フレーム問題』について理解していないと、この文章は単なるフレーバーにしか感じられないかもしれません。

実際、私は2回目を読み進めるときは、インターネットでわからない単語などを調べながら読み進めるというスタイルになりました。やはりエネルギーを使う読書だと感じます。

しかし、一々用語の説明をしていたら文章が冗長になってリズムも狂いますし、個人的にはこれで良かったのだというのが最終的な感想です。

あとがき

ここまで記事を書いておいてあれですが、私はまだ本作を十分に読み切れてないと感じます。

表題作の『ヨハネスブルグの天使たち』は作中で一番気に入りましたが、私は”天使たち”が何を指しているのか分かりませんし、どうして”天使たち”になるのかも分かりません。

おそらく私は将来的に、本書の評価を★5.0の最高評価(*2)に昇格することになるでしょうが、そのためにはより深く本書を読み込む必要があると感じます。読者としての私の力が不足しているというのが現状の分析です。

村上春樹氏の『ノルウェイの森』のように誰にでも読みやすい内容では無いというのが本当に悩ましいですが、より多くの方に読んで欲しい作品だとあらためて思います。

*2 ★5.0は私の中で”後世に残すべき偉大な作品”という位置づけで、基本的に付けない評価です。

P.S.

本当に、宮内悠介氏は天才だとしか言いようがありません。


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