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410字のショートショート

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#ショートショートnote杯 と同じく、410字以内で完成されたショートショート作品。
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#小説

恥ずかしがり屋の立方体 #3|#毎週ショートショートnote

「さぁ皆様!とくとご覧あれ!」 男はそう言って、テーブルの上に伏せられた黒いコップを持ち上げた。 そこから現れたのは1つのダイス。弐の目を上にしている。 男はやれやれという表情でダイスに向かって声を掛ける。 「ここは壱になる場面だろ?」 男は生まれつきダイスと会話ができた。不思議なことだが。 「だって……」 「ん、なんだって?」 「恥ずかしい……から」 「そうか」 男はその感覚を理解することはできなかったが、その気持ちを理解することはできた。 「ねぇ、どうして

恥ずかしがり屋の立方体 #2|#毎週ショートショートnote

私は暗闇の中で息を潜めてじっとしていた。 大丈夫……さすがにここまでは彼も入ってこないはず。私は不安を取り払うように自分にそう言い聞かせる。 ザッ、ザッ。 闇に飲まれた洞窟の空洞音に、誰かの足音と思わしき雑音が混ざり込む。 大丈夫……まだ離れている。ここまでは……来ないはず。 ザッ、ザッ。 しかし、その期待とは裏腹に足音は徐々に近づいてくる。 そしてついに、彼の姿を目に捉える―― その角張った体の人物は、使い込まれたであろう鈍い光を放つツルハシを手にしていた。

恥ずかしがり屋の立方体|#毎週ショートショートnote

壱の目が赤い理由である。 あとがきおいおいnoteは初めてか? こんなネタ記事でイチイチ顔を真赤にして怒るなって。こっちが恥ずかしくなっちまうよ。 その立方体のように硬い頭をすこし柔らかくすることを勧めるぜ? ん、これは生まれつきだって? そいつは悪かったな……いやいや、そんな目で見るなよ。 物事の一面しか見ないのは俺の悪い癖だ。謝るよ。 P.S.あとがきが本編。 Special Thanks!たらはかにさんの企画に参加させて頂きました。 前回書いたやつ追記

夢のタイムスリップ|#爪毛の挑戦状|410字

今年の夏。9歳になった私を残して母は死んだ。 元々体が悪かったらしい。 最後の言葉は「また会いに来るからね」だった。大人というのは嘘つきだ。 大丈夫。私には優しい父、そして友達がいる。 月日は過ぎ、クリスマスの時期になった。 こんなにも寒いのに、あの真夏のことを思い出すのはなぜだろうか。 父の運転する車に揺られ、家に着く。 そこで待っていたのは―― 「え、お母さん?」 その女性は頷いて言葉を発した。 「久しぶり、だよね」 私はただただ号泣し、母に抱きつい

フォーク神様|#毎週ショートショートnote|408字

「さぁ、3人の中から好きな神様を選びな」 死んだ私に対して、目の前の天使は荒い口調で言い放った。 目の前には3人の神様。スプーン、フォーク、ナイフ。 天使の説明によれば、神様ごとに性格が異なるので、慎重に選んだほうがいいという話だった。 私は食事の時を思い出しながら長考した。 考えあぐねた結果、私はフォークの神様を選択した。フォークが一番万能な食器だろうという至極安直な理由からだ。 「あぁ、私を選んでしまったか……」 フォークの神様は悲しそうに言い放って続けた。

リストラうんこ|#爪毛の挑戦状|410字

確かに私は言った。 「気になったカテゴリから選ぶと面白いかも」と。 しかし、このカテゴリから作品が生まれると誰が予想できただろうか。 * 私はこうも言った。 「他の人のお題に被せると面白いかも」と。 しかし、このお題に被せてくる人がこれほど多いと誰が予想できただろうか。 * もちろん私も同罪だ。 ただ、それは自分の発言に対する責任感からであった。 他の人が追従するなど誰が予想できただろうか。 * そうして、タイムラインはうんこまみれになった。 もちろ

1億円のうんこ|ショートショート|408字

【地球の話】 その発掘されたうんこの化石には、1億円の価値があると推定された。 いくら化石と言えど、うんこの化石に何の価値があるのだとろうと思う人は少なくないだろう。 しかし、そうした化石にはその生物が食べて消化されなかった物が残っていることもあり、当時の生態系を明かす上では非常に価値が高いこともある。 その化石は数年の調査を経て、博物館に飾られた。 【火星の話】 「汚い話だけどよ。地球上で俺たちの排泄物に価値がついてるらしいぜ」 「物好きも居たもんだな」 「そこ

燃える雨雲|ショートショート|408字

その夜、森は燃え広がり続けていた。 大地に落下した隕石によって起きた火種はぐんぐんと成長し、いまや森の生物をすべて焼き払わんという勢いにまで成長していた。 その上空に浮かぶ1つの雨雲。 その雨雲から滴る雨は、森に生ける生物達の糧となっていたが、燃え広がる炎の勢いを止めるほどの力は無いように思われた。事実、火は燃え広がるばかりだ。 しかし、その雨雲が雷鳴を発すると、それが合図であったかのように遠くにある雨雲がどんどんと集まってきた。 それらは徐々に1つの雨雲へと成長し

1分のわるいところ|ショートショート|410字

僕の何が嫌いかって、1分ほど嫌いなものはないんだ。 例えばカップラーメンを作るじゃないか。3分とか5分かけてさ。 それくらいの時間があれば何かできると思うよ。何をやるかはその人次第だけどさ。 でも、1分だぜ。たったの。 その間に何ができるって言うんだ。できることがあるなら僕に教えて欲しいくらいだね。 それでいて時計を見ながら1分経つのを待っているとすごく長いんだな。1日経つ頃には季節が変わっちまうんじゃないかってくらいにさ。 こういう言葉があるじゃないか。「時間を

金持ち鬼|ショートショート|410字

「で、どうする?」 「俺は―」 桃太郎はこれまでの経緯を思い返していた。 * 悪事を働く鬼を懲らしめて財宝を持ち帰ろうと決めて家を出た。働くのも嫌だったし。 道中で出会ったイヌ、サル、キジを仲間にした。消費期限の怪しい『きびだんご』で。 船を使って鬼ヶ島まで渡った。船乗りは嫌そうな顔をしてたけど。 そして……鬼に出会った。金持ちの。 * 「世界の半分だぞ? こんなサービス滅多にしないぜ?」 「なぜそんな気前がいい?」 「そりゃ金持ちだからな。気分さ」 「……」

バズる実家|ショートショート|402字

実家がバズった。正確には実家の写真だが。 * 父がデザイン・建築した実家はアートとも言うべき外観をしていた。 SNSなどが存在しない子供時代においては、近所の話題程度にしかならなかったが、旅行者が物珍しさから撮影した写真がSNSにアップされると、それは瞬く間に話題に……つまりバズった。 このことがキッカケで、アーティストとして活動していた父はちょっとした有名人となったが、ある日に書き込まれた「○○のパクリではないか?」という投稿によって事態は一転、炎上の一途を辿ること

足りない料理店|#完成された物語

「足りない」 それが店長の口癖だったよ。 売上が足りない、客が足りないといった定番のモノから、従業員、名物メニュー、評判、そして看板娘まで……まったく聞いてるこっちがウンザリしちまったよ。 ある日のこと店長はこう言ったんだ。 「食器が足りない」ってね。 やれやれと思ったよ。 働いているから分かるけど、別に食器が足りなかったことなんて一度もない。他のものだって全部そう……足りないと思ってるだけ。 私はいい加減にウンザリしてつい文句を言っちまった。 「足りないのは

レストラン『マテリアル』|#完成された物語

「うーん、足りない……」 「何が足りないって言うんすか料理長。お客すか? それとも売上?」 「バカいえ。ちゃんと毎月お前の給料も支払われてるだろ」 「それもそっすね。じゃぁ従業員すか?」 「お前、自分が忙しいと思ってるのか?」 「確かにそうでもないっすね。じゃぁ名物のメニューとかすか?」 「うちには看板メニューがあるだろ」 「じゃぁ看板娘?」 「来月になったら入るぞ」 「え、マジすか!やったー!そしたら食器すか? 日に日に足りなくなるとか」 「そいつはホラ

使命を果たす男|#完成された物語

最初は目にゴミが入っただけだと思ったね。 それは……異様だったから。 それは黒い歪んだ球体のようにも見えて、極彩色の人型にも見え、半透明な獣のようなシルエットにも見えた。 五感とは別の新たな感覚器官が備わって、それで視えてるという感じなんだ。 そんなものが僕の目ー 便宜上”目”ということにしておくけどー に映るようになった。 最初は道端でたまに見かける程度だったのに、それは日に日に増えていった。 そのうち目を閉じていても視えるようになった。 僕は気が狂いそうにな