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36夜 教育を受ける目的とは・・・ 

 英国のハント財務相は11月22日,最低賃金を来年4月から時給11・44ポンド(約2150円)に引き上げると発表した.(毎日新聞デジタル2023.11.28)
 一方,厚生労働省によれば,8月の中央最低賃金審議会において最低賃金を1,002円としてとりまとめ,その後の地方最低賃金審議会の議論を経て,10月からの最低賃金額を1,004円として答申した.(厚生労働省「2023年度の最低賃金決定額について」2023.8.31)
 イギリスの物価高の状況を考えれば,このような賃金状況になるのは当然であろうし,同様に諸外国の賃金上昇は各国の国民生活への対応としては,まだ十分な賃金上昇にはなっていないと考える国民は多いことだろう.ラーメン1杯が2000円にもなる国から見れば,日本の物価がとても安いと感じるのは当然なのだろうが,最低賃金がやっと4桁になったこの国の国民からすれば,諸外国の最低賃金の状況はうらやましい限りであると,誰もが感じているところだろう.なぜなら,この国でも物価上昇はずっと続いているのだから.
 いったい働く目的とは何なのであろうか.この質問に対する答えは,世代によってかなり異なるであろう.ただ,多くの人々は,なぜ働くはたらくのかという問いへの答えとして,以下の3つを学んだのではないだろうか.
まず,1つ目は「自立した生活のため」.ほとんどの人は(企業や役所などの)組織体から労働の対価としての給与という金銭を受け取っている.その金銭と日々の生活の糧を交換することで生活することが可能となり,つまりは自立した生活を手にしていることになる.
 2つ目は「自己実現のため」.歌手になりたいとか,サッカー選手になりたいとか,「何者かになりたい」と誰もが夢を描く.十代も後半になれば,自分の能力とそれに対する現実を意識するようになり,現実と折り合いのつくような進路に向かうようになる.そのような進路選択のなかで,少しでも「何者か」を実現するために,ちょっとでも関わりのある仕事を目指すわけである.例えば,サッカー選手を夢見た少年が,自分の能力の限界を感じたときから,サッカーに関わりのある業種に就職したりすることで,少しでもサッカーとつながるという自己の夢を実現しようとするようなものだろう.
 3つ目は「社会貢献のため」.誰もが社会の一員として今を生きている.反社会的行為に基づく仕事でもない限り,何らかの形で社会のためにその仕事があると考えるべきだろう.医療・介護・教育・社会インフラ関連などの従事者といったコロナ渦でその重要性が再認識されたエッセンシャルワーカーがそのひとつであろう.
 私たちは「自立した生活」を得るべく,少しでも「自己実現」をなすために,「なにかの社会貢献をする」仕事に就くことを目指して「学ぶ」わけである.そのために「学校」があり,多くの人はそこで学ぶことにより,人生を成り立たせているのである.
 しかし,冒頭にある「賃金」の低さは,「自立した生活」を実現するには程遠い状況をもたらし,「学ぶ」ための「奨学金」という借金の返済が,「自己実現」を妨げる事態を招いている.その結果「社会貢献」などという悠長なことを言っていられない日々の生活に悪戦苦闘する人々を増やしてしまうという悪循環に陥っているのが、昨今の状況であると考える.
 今日は大変だけれど明日はきっとよくなる.とか,きっと将来は明るいに違いない.といった「根拠」は定かではないが,みんながきっとそうだろうと思い,それにむかっていけるような社会を目指すべきビジョンがなければ「なぜ働くの?」という素朴な子供の疑問に対して,大人は働く3つの目的を自信をもって示してあげることができない.今のこの国の状況がそこにあるようだと感じるのは,私だけではないだろう.いったい,この国には将来のビジョンはあるのだろうか.




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