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黒猫と金貸し 01

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2019年6月の記事一覧

case01-06: 着信

いつものように新規客、既存客への対応が続いた。

こういうことをしていると24時間365日、休みと呼べるものはない。5人や10人ならともかく、50人を超えると毎日のように何か事件が発生するものだ。 ただでさえ問題が多い人間を扱うのだから、当たり前といえば当たり前である。

そして夜職では閑散期と呼ばれる2月の終わり頃。

いまにも雪に変わりそうな冷たい雨が朝から降っていた。
それだけでもう、かなり

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case01-07: 変化

case01-07: 変化

JR新橋駅、雪が降っていた。

SL広場にはこれから楽しい飲み会なのか、こんな天候にも関わらずたくさんのスーツ姿の集団がいくつも出来上がっている。社会人様は大変なものだ。

その中でひとり、真っ黒のスーツ、真っ黒のコート、真っ黒の傘で狩尾が来るのを待つ。雪がボタボタと傘を打つ音も、周囲の喧騒のひとつひとつもやけにはっきりと耳につく。

ここから少し歩いた場所にちょうどいい喫茶店があるのだ

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case01-08: 事実

case01-08: 事実

窓の外はますます強くなる雪。
狩尾の話は続く。

「最初に借りた2万円のところは週おきに1万円でジャンプするか、3万円で完済です。次に借りたところは5万円借りて、そこは利息3万円でジャンプできます。完済には9万円必要です。バイトは日払いで貰えるのでジャンプ分はなんとかできてたんですが、最近は娘が体調崩したり、お店もヒマになっちゃってる日も多くて…」

ジャンプという単語まで使うようになったか。

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case01-09: 共闘

case01-09: 共闘

翌日の朝、快晴にもかかわらず寝起きは最悪だった。理由は昨晩、ひとりで似合わないことに飲んでしまったことだけではないのだろう。マッカランなんて、がぶ飲みする酒じゃないのは流石に分かっている。

酒臭い溜息に顔をしかめながら起き上がると、まずはエサ皿にカラカラとキャットフードを入れる。ソファの奥からトコトコと、この時に限っては愛想よく歩み寄ってくる。かわいい黒猫である。

(債務者じゃあるまいし、

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case01-10: 誤算

case01-10: 誤算

その後、10分程度の簡単なやりとりが続いた。

「ちっ…そしたら振込先は・・・」
「承知しました、本当にご迷惑おかけしました。14時までに振込み完了させていただきます」
「はいはい、じゃーよろしく」

ところどころに入る舌打ちが気になって仕方なかったが、最終的な結論は本日3万で完済。この額でトラブルになるのは先方も得するわけがないのだ。ちゃんと約束は守るいい子である。

「トーアさん、ありがとうご

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