【掌編小説】Fizzy Pop

身体が干からびそうだったので、あたしは自動販売機でソーダを買った。
あたしは自動販売機があまり好きではなかった。道の脇にズーンとのっぺり佇んでいて、あたしよりも背が高く、なんとなく、見下ろされているような感じがする。首を垂れて、低い位置にあるコイン投入口に供物をチャリンチャリンと差し出すと、その額に相応しい見返りの選択肢が交渉の余地もなく一方的に提示される。優しくボタンをポチッと押しても、あたしの望んだソーダは地面に叩き落とされるようにガンババンと乱暴に渡される。その挙句、取り出し口の裏側に引っかかって、ズルズルと引き出すのに苦戦を強いられる。
やっとの思いで手に入れたソーダボトルのキャップを開けると、プシュッと空気が弾けて、ソーダが飲み口から飛び散った。ガンババンと叩き落とされた衝撃とガタガタと取り出した刺激で、水に溶けていた二酸化炭素ガスが気泡化し、すぐに開けたことで、圧迫された内部の空気がボンと爆ぜたのだ。

ズーン……。
チャリンチャリン、ポチッ、ガンババン、プシュッ、ボン、である。

髪から靴までソーダまみれ。ボトルのソーダは、残り半分……。

納得がいかない……。

ここで弾けるミューズィクワンツー。
あたしは賢い、頭がよろしい。ソーダが吹き出る原理も知ってる。
同じコインで、量は半分。二倍の値段を取られてる。
お嬢さん、いい香りだね
ボクにも一口分けとくれ
甘い砂糖の匂いに釣られて、アリやらハエやら集まってきた。
「いやよ、これはあたしのソーダ!」
カバンに隠して、後退る。
いいじゃない、少しくらいは
いいじゃない、もっかい買ったら
いいじゃない、いいじゃない、地球と割り勘したと思えば
言い寄るアリやらハエやらカマキリ、次第にどんどん増えていく。
「あげないったらあげないよ!」
あたしは叫んで地面を蹴って、夏雲めがけて走って逃げた。
ここまで来れば、もう大丈夫。アリはあたしに追いつけない。
辺りを見回しカバンに手を入れ、こっそりソーダを取り出して、
キャップを回してプシュッと爆発、残りも全部なくなった。
散々走って曲がって逃げて、あたしのソーダもシュワッと逃げた。
お嬢さん、お嬢さん
「……えっ?」
甘い匂いのお嬢さん
「わぁ!」
お金を失いソーダも逃した汗だくベタベタお嬢さん、
弾ける羽音に身を翻して、夏雲めがけて走り出す。

……みたいな気分である。

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