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2023年8月の記事一覧
【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第10話
10 トリさんとムヨクさん
陽射しが傾き始めた頃にムヨクさんの自宅へと帰ってきた私たちは、二階へ上がり、クーラーボックスから各々の購入した品を取り出して、仕分けることにした。一階は完全に生き物の飼育スペースと化しているので、ムヨクさんは二階で寝食を営んでいるのである。
「あのぉ……ガマ子さん、スマホとポシェットは……いかがいたしましょうか」
人差し指と親指でポシェットを摘まみ上げたムヨクさんが、
【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第9話
9 二人でランチデート ⑤
「秘密の場所があるんだよねぇ」
丸鶏のお店を出ると、ムヨクさんが耳打ちするように口元に手を添えて、悪戯っぽく声を潜めて言った。
「秘密の場所……ですか」
幹部から聞いてはいけない裏話をされる悪の手下になったような気分で、私はごくりと唾を飲み、ムヨクさんの言葉を復唱した。
「ふふん……、二つ目のトンネル抜けたら、左に一本道が伸びてるから、そっちに逸れてくれる?」
その言
【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第8話
8 二人でランチデート ④
「どうですか、売上のほうは」
紙袋を受け取ると、ムヨクさんは鳥飼さんに問い掛けた。
「……ああ、そっちのほうね。おかげさまで、結構順調だよ。まぁ、損することはないだろうなとは最初から思ってたけどね」
ムヨクさんの手に渡った紙袋をちらりと見やった鳥飼さんは、腰に手を当てて平然と笑って答える。
そっちのほう、とはなんの話だろうか。紙袋の中身に関係していることらしい、という
【連作掌編】爬虫類女子ムヨクさん 第7話
7 二人でランチデート ③
窓の外に広がる庭園では色彩豊かな紫陽花がいくつも咲いており、川から水路を通って引かれてきた奇麗な水が重たげな水車をのんびりと回していた。
森の中のひんやりとした涼気に、時折、小鳥のさえずりが歌うように響き渡る。水車の下に掘られた池を、色鮮やかなニシキゴイが悠々と泳いでいた。
そんな風流な景色を眺めながら、私たちは蒸し鶏のサラダにチキンソテーを堪能した。
注文した料理と