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“ギリ都内駅”と“ほぼ都内駅” 「本当に安い」のはどっちか?

HOME'Sが発表した「都県境の家賃が安い駅ランキング」。
結果は「川崎」や「市川」、ましては「浦和」が差額上位に並んでいる。
果たしてそれは、都県境駅での正しい比較になっているのか?

都県境をまたぐ路線を対象に、もっと”ガチ”な都県境駅での家賃比較をしてみた。


1.“ギリ都内駅”と“ほぼ都内駅”

HOME'Sの「都県境の家賃が安い駅ランキング」

不動産広告ポータルサイトのLIFULL HOME'Sが、2024年9月11日に「都県境の家賃が安い駅ランキング」を発表した。
これは、ギリギリ東京都内である地域に位置する駅を“ギリ都内駅”住所は東京都ではないもののほとんど東京都に近い地域に位置する駅を“ほぼ都内駅”と定義し、この都県境にある隣駅同士の家賃を比較し、単身向け賃貸物件においてどちらの駅が安いのかをランキング化したものだ。

結果は以下の通りである。

LIFULL HOME'S「都県境の家賃が安い駅ランキング」上位3位を抜粋し筆者作成

神奈川vs東京では1位は「川崎駅」の23,000円差、埼玉vs東京では1位は「戸田公園駅」の16,000円差、東京vs千葉では1位は「市川駅」の4,500円差であった。

本当に隣駅?

このランキングをご覧になって、なにか気づくことはないだろうか?
比較されている駅に着目してほしい。

品川vs川崎│たしかに1駅だけど…

例えば、神奈川vs東京の差額1位であった川崎駅。比較対象の駅は東海道線で隣駅の品川駅である。
確かに東海道線では両駅は隣同士であり駅間で県境を跨いでいる。
しかしながら、東海道線の横には京浜東北線が並走して走っており、品川・川崎駅間には大井町、大森、蒲田の3駅が設けられている。

「1駅」の間にさらに駅がある

そもそも、品川駅周辺はビジネスの拠点として多くのオフィスが立ち並び、居住できるエリアは限られている。品川とは名ばかりの港区に位置する品川駅は都内有数の高額家賃エリアであり、なかなか手が届きにくい。
一方で、川崎駅は駅を挟んで南北に川崎区と幸区で分かれており、家族連れで賑わう大型商業施設から一攫千金を夢見たギャンブラーが集う競馬場・競輪場、妖艶な夜の街まで取り揃えた日本随一のカオスな街である。ただ少し駅から外れれば住宅エリアが見られる。

そんな、性格が全く異なる離れた駅同士の比較は理論上都県境駅ではあるものの、本来であれば京浜東北線の蒲田と比較したほうが一般的なカスタマーとしてはより参考になるのではないだろうか。

赤羽vs浦和│こっちも1駅は1駅なんだけどね…

その他にも、埼玉vs東京の差額1位であった浦和駅。比較対象は東北本線(宇都宮線)で隣駅である浦和駅である。
こちらも並走して京浜東北線が走っており、両駅の間には川口、西川口、蕨、南浦和の4駅が設けられている。

こちらも「1駅」

こちらも川崎・品川と同様に、北区とさいたま市を横並びで比較するにはなかなか参考しづらく、やはり赤羽は京浜東北線で隣接する川口のほうが、現実的な比較になるのではないか。

ここまで疑問を呈してきたが、調査結果には以下の補足が添えられていた。

※複数路線利用可能駅の場合、家賃相場の差額が大きい路線の家賃を使用しています。

https://lifull.com/news/35725/

まあ間違いではないけどさ……

つまり、上記のような川崎駅や浦和駅は「複数路線利用可能駅」に当てはまり、隣駅での差額が大きいものを採用されている。

この集計方法では、東海道線や東北本線など駅間が広い中距離列車ほど差額が大きくなると考えられるため、このようなランキングになったのだろう。

「東京都民」の称号を得るために、徒歩数分で埼玉や神奈川、千葉に至るようなエリアでもいいから身分証明書に東京都の文字を入れたい人にとって、あるいは逆にステータスなんて気にせず、生活圏は東京と同一であるにもかかわらず”住所の魔力”で安く住める地域を探したい人にとって、このランキングは参考になるとはいえない結果になっているだろう。

そこで、そんな都県境と駅間の関係性を気にしてしまう一部のマニア(私含む)に向けて、ガチの“ギリ都内駅”と“ほぼ都内駅”で価格差が大きい駅を調べてみることにした。


2.ガチの「都県境の家賃が安い駅ランキング」

調査方法

不動産広告ポータルサイトの「SUUMO」が提供する『全国の家賃相場・賃料相場情報』をもとに、都県境を挟んで立地する鉄道駅を対象に家賃の相場価格の差額を集計した。

本来であれば、ランキング元データのHOME'Sの家賃相場データを使うほうがより適切であると思うが、残念ながら間取り帯によって非公開になっている駅もあり、全駅を網羅していたSUUMOのデータを使用した。

調査方法はシンプルで、都県境を跨ぐ路線・駅をひとつひとつ調べていくという方法である。
SUUMOの家賃相場で選択できるのは、マンションやアパートなどの建物種別と間取りのみのため、今回はマンション物件を対象として各間取りでのランキングを作成した。

なお、サイトを見ながらちまちまスプレッドシートにまとめるという、原始的な方法で集計しているので、一部誤りが含まれる可能性がある。
あらかじめご了承ください。

1Rで差額が大きい都県境駅は「相模湖」「川口」「舞浜」

ガチの「都県境の家賃が安い駅ランキング」│ワンルーム
ガチの「都県境の家賃が安い駅ランキング」│ワンルーム

ワンルームで最も都県境の差額が大きかったのは、JR中央線の高尾駅(36,000円)と相模湖駅(18,000円)である。差額は18,000円と2倍も都県境で差が開いている。
とはいえ、中央線は高尾駅を境に折り返す列車も多く、生活圏は異なっていると考えられる。山間部のワンルームは通勤や通学の有無で大きく左右されるため、その部分が反映されていると考えられる。

埼玉方面ではHOME'Sのランキングでも名を連ねていた、JR京浜東北線の赤羽駅(69,000円)と川口駅(53,000円)が1位であった。
こちらは荒川を跨ぐだけで1.6万円が変わると考えればかなりお得な感じがする。

千葉方面では、JR京葉線の葛西臨海公園駅(57,000円)と舞浜駅(50,000円)が最も差額が大きかった。
神奈川や埼玉と比較すると差額の金額が千葉方面は比較的小さかった。
東京南部・西部や北部と比較するとそもそもの家賃が安いこともあり、都県境をまたいでも大きな差額はないのだと考えられる。

1K・1DKで差額が大きい都県境駅は「鶴川」「川口」「矢切」

ガチの「都県境の家賃が安い駅ランキング」│1K・1DK

1K・1DKで差額が大きい神奈川方面の都県境駅は、小田急小田原線の鶴川駅(44,000円)と柿生駅(59,000円)であった。
1Rと異なり、神奈川県よりも東京都に位置する鶴川駅の方が安い結果であった。とはいえ、新宿から近いのは柿生駅であり1駅いけば新百合ヶ丘から快速急行にも乗り換えられるような利便性や、高低差が比較的少ない点が利点と考えられる。

埼玉方面の差額が大きい都県境駅は、1Rと同じ赤羽・川口に加えて、埼玉高速鉄道の赤羽岩淵駅(81,000円)と川口元郷駅(69,000円)も同率1位の12,000円差であった。
この後に出てくる大型間取りでもJR京浜東北線・埼京線周辺の都県境駅が多くランクインするなかで、3位には八高線と西武山口線の駅がランクインしている。
特に、八高線の箱根ヶ崎駅は東京都に位置しているが安い駅となっている。今後当駅にはモノレールが乗り入れる予定もあり、ランキングも開通後には大きく変化する可能性があるだろう。

千葉方面では北総鉄道線の新柴又駅(69,000円)と矢切駅(54,000円)の15,000円の差額が1位であった。矢切は江戸時代から続く渡し船「矢切の渡し」があり、現在でも大人片道200円、子ども片道100円で渡ることができる。

1LDK・2K・2DKで差額が大きい都県境駅は「川崎」「川口」「篠崎」

ガチの「都県境の家賃が安い駅ランキング」│1LDK・2K・2DK

1LDK・2K・2DKで差額が大きい神奈川方面の都県境駅は、HOME'Sのランキングでもランクインした川崎駅(99,000円)と蒲田駅(120,000円)であった。
品川と比較せずともこれだけ差額が大きいなら、結構なインパクトがあるようにも思える。

埼玉方面は1K・1DKと同じような顔ぶれが並び、千葉方面は都営新宿線の篠崎駅(85,000円)と本八幡駅(96,000円)がランクインしていた。こちらは千葉県側のほうが家賃が高い結果だった。
本八幡駅は都営新宿線のほか、総武線、京成線が乗り入れるターミナル駅となっており、3路線で東京方面へアクセスできる点も含めて家賃が高いと考えられる。

2LDK・3K・3DKで差額が大きい都県境駅は「武蔵小杉」「川口」「矢切」

ガチの「都県境の家賃が安い駅ランキング」│2LDK・3K・3DK

2LDK以上はファミリー層向けの物件ということで、これまでよりも差額が大きくなってくる。特に、埼玉方面の赤羽駅(162,000円)と川口駅(100,000円)は62,000円も家賃に差があるため越境することによるメリットは大きいだろう。
同様に神奈川方面の西大井駅(187,000円)と武蔵小杉駅(144,000円)でも43,000円差であり、東京都を外すことによる価格差のメリットは大型間取りほど大きくなることがわかってきた。

3LDK・4K~で差額が大きい都県境駅は「古淵」「戸田公園」「矢切」

ガチの「都県境の家賃が安い駅ランキング」│3LDK・4K~

こちらも大型物件に分類されてくるが、埼玉県の差額が平均して大きく、ついで神奈川・千葉といった格好だ。
千葉方面では単身向けでは都内のほうが高かった京葉線と東西線は、こちらでは千葉側の舞浜や浦安が家賃を引き上げている点は対象的であった。

3.まとめ

HOME'Sの公開したランキングをより”ガチ”に分析するために、ちまちまとランキングを作ってみた。
調査前は東京都側の「ギリ都内駅」の方が高くなる駅がほとんどのパターンかと思っていたが、結果としては一部で隣接県側の「ほぼ都内駅」の方が高くなる駅もちょこちょこあった。
都県境に住む際には差額を意識して住宅選択をしてみるのは、このランキングを踏まえても検討する価値はあるということを、少なくとも明示できた気がする。

ちょうど執筆しているタイミングで、タレントのマツコ・デラックス氏も情報番組の中で下記のようなことを述べていた。

「別に難癖をつけるわけじゃないんですけど」と前置きしつつ「品川と比べるって、京浜東北線で調べろよ。川崎がほぼ都内は分かるんだけど、ギリギリ都内が品川って都心ですよ」とほぼ都内の川崎駅と、相場の差をつけたいがために比較対象を都心の品川駅にしたことにクレーム。
さらに「なんて言うのかな、話題性を作りたいっていうのはわかるんだけど、地理とか地図とかに愛情を感じない人が作ってる」とバッサリ切り捨てた

https://www.sanspo.com/article/20240930-IBTR7ZC4ONGQPJ4CJCFN24VUNU/

都県境で比べるならせめて各駅停車タイプの路線の隣接駅同士で比較したほうが、入居希望者主体によるポータルサイトでのお部屋探しを伸ばすきっかけになるだろう。
来年のランキングでは、この辺も考慮した発表をしてくれたら、めちゃめちゃ参考にしたいと思った。


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