見出し画像

読書感想|ベストセラーを書く技術 著:晴山陽一

#読書の秋2022

タイトルに惹かれて思わず手に取ったこの1冊は、私にとって作家というキャリアを照らしてくれたランタンでした。

1.読んでも理解できない「ダイヤル」


この本はいわゆる文章力向上のHowTo本であり、著者主催のワークショップを元にしたレクチャーの視点で書かれています。構想段階、執筆前、執筆中、執筆後の4段階に分けたテクニックを説明するオーソドックスな構成ですが、「ダイヤル」など独自ノウハウを提唱されています。

しかしこの、「ダイヤル」という概念が難しい。

読み手側の感情や知識レベルに合わせ、「ダイヤルを回すことで(良い意味で)読者をコントロールしなさい」という主張は理屈では分かるのですが、頭が追いつかないのです。

noteの記事でもそうですが、一つのテーマに沿って文章を書く場合はある程度構成を考えた上で主張やオチに向かってキーボードを打つと思います。
(エッセイの場合はもっとラフに書かれる方も多いでしょうけど)
もちろん個人の力量差はあるのでスラスラ書ける人もたくさんいらっしゃると思いますが、そうやって書くことに加えて「ダイヤル」を使いこなせというノウハウは、ライティングを職業にしていない人には相当の鍛錬が必要だと痛感させられます・・・。

そう、この本の意図は「鍛錬を重ねるための教本」なのです。

読んで理解して本棚に置いておく、ではなく常にアクティブな場所にあり手垢で汚れるべき本なのです。

2.「ダイヤル」の概要


著者の提唱する「ダイヤル」とは、

  • 3つの優位感覚 : 視覚、聴覚、体感覚

  • 3種類の理論 : データ(ファクト)、ロジック、ストーリー

  • 3つの疑問詞 : What、Why、How

の合計9つから成り立っています。
読者の誘導路を3つの優位感覚に振り分けて、後に理論と疑問詞で肉付けをする、という使い方です。

『noteで多くの人からスキを集める』という題材で例えてみます。

視覚優位の読者に対して
先週スキを多く集めた記事のハッシュタグを洗い出したり、記事の文字量や投稿時刻・間隔など、定量的なデータ分析の結果を記事にします。
何をすれば良いのか?から、この条件を満たすこと!という結論で結ぶ記事になります。

聴覚優位の読者に対して
どんなテーマがスキを集めやすいのか、記事を書いている人のフォロワーはどんな人がいるのかなど、理由に迫る記事になります。
なぜスキが集まるのか?から、こうすれば良い!という方法論で結ぶ記事になります。

体感覚の読者に対して
有名なクリエイターを例題にし、その方の経歴やスキを多く集めている記事の内容について解析することになります。
どうやってスキを集めたのか?から、進め方や取り組み姿勢を結ぶ記事になります。

ざっくりとした説明ですが、これは本書で書かれているテクニックの一つに過ぎません。他にも「3つのレクト」「ひはへほふの法則」など、次から次へと襲ってきます。
濃厚過ぎる。

3.役に立ったのか?


例えるなら先端医療の特効薬ではなく、苦い漢方薬のような本です。

役に立つかどうかは、結局は本書を手に取った読者の意気込みや熱意によって大きく変わってくると思います。
ゆったりとマイペースに書く!という視点とは対極にある気がします。

2018年に発行され、私が手に取ってから3年以上経過していますが、今現在も手元に置いて頻繁に読み返しています。それでも、いまだに本書に書かれているテクニックを存分に活かしているとは思えません。
活かせていたら、とっくに私はベストセラー作家になっているでしょう(笑

それでいてなぜ、キャリアを照らしたランタンだと言えるのか?
その最大の理由は「考えること」についても明確に触れているからです。

4.誰でもクリエイターになれる可能性を


本書の醍醐味は、序章にあると思いました。
たしかにタイトルが「書く技術」であり、そのHowTo本です。しかし本質的には、その方法論の解説に入る前の「クリエイターになるには」という心構えが本書の最大の魅力だと感じました。

何かに突き動かされながら、やむにやまれず発信するという姿こそ、本当のクリエイターのあり方なのだと思います。

本書P16より抜粋

と本文中に書かれています。
ビジネス・収益化、評価・名声、社会貢献。
他者から認知されることはとても大事ですが、クリエイターは必ずしもそれらを伴っていることが必須ではありません。全て「結果系」なんです。

そういった意味では、富や名声を得ていなくても「クリエイター」は名乗れるんじゃないかと勇気づけられました。
これが、私が作家(自称:読み物クリエイター)というキャリアを踏み出してみようと思った、灯火ともしびになってくれたのです。

5.著者は英語教育会の第一人者


巻末にある著者の経歴を見ると英語に精通していることが目に留まります。
著者のことを全く知らずに書いていますが、業界では恐らくとても偉大な方であると思います。

個人的な意見ですが、日本語で文章を書く時に英語翻訳をイメージするとキレイにまとまります。会社生活でプレゼンの機会がたくさんありましたが、特に取締役会などでは短く・かつ印象に残る言葉で伝える必要がありました。その時、最も効果を感じたのがやはり英語からの日本語化でした。

そんなノウハウを持っている自分だからこそ、本書のテクニック論に強い共感を得ました。推測ですが、著者も同じ思考で書かれている気がします。

ただし、この方法はビジネスの面では役に立ちますが、情緒を奏でる文学においては不利な気がしてなりません。
それなのに何故小説を書くことを選んだのか・・・は、脱線するので止めにしましょう。

6.おわりに


本書は必ずしも「文章だけを生業としたクリエイター」に言及しているものではありません。料理家、写真家などなど数多のクリエイターにとっても「自分の意志やスキルを伝える手段としての書く技術」がこの本には記されています。
それってnoteの思想とかみ合うんじゃないかなって感じました。
だからこそ、私もnoteを活動拠点としているのです。

この1冊が私のキャリアパーツのランタンになり、大変素敵な道を灯してくれました。改めて、感謝の意をここに表します。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?