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連載記事#02|ピンチとチャンスは表裏一体(リスク及び機会)《ISO14001解説》

この記事は連載記事となっております。
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表裏一体だから難しい


2015年に大幅改定されたISO14001で新しく追加された「リスク及び機会」という項目があります。当時、この項目は最大のトピックスであり日本中が理解に苦しみました。

その理由の一つに、「リスク」という言葉の日本語訳が無いことでした。

今でもリスクという単語は「カタカナ」で「リスク」と表現され、下記のような意味で訳されます。

国語辞典を開くと「危険」「危険度」「予想したとおりにうまくいかない可能性」「失敗したり損をしたりする危険」とあります。一般的には『リスク』は「危険」を表す言葉と定義されています。

しかし、リスクには上記以外の意味もあります。
それは「不確実性」です。
主に金融業界で使われる意味なのですが、その意味を知ってから「リスク及び機会」の理解が大幅に進みました。

不確実な事象を含んでいる物事・・・それは事態が「悪化」することもあれば「好転」することもあるということです。
この理解で得た結論は「ピンチとチャンス」ということでした。
下記に示す用語の定義も、「ピンチとチャンス」と説明できます。

3.2.11
リスク及び機会(risks and opportunities)
潜在的で有害な影響(脅威)及び潜在的で有益な影響(機会)

用語の定義から

そしてもう一つ、「ピンチとチャンス」は表裏一体であると考えます。
すると、一つの「不確実な事象」に対して2つの結果=ピンチとチャンスが発生することになります。

つまり、まずは自分たちにおける「不確実な事象」を選出することで「ピンチとチャンス」という2つの結果を生むことになります。

そうすることで、多くの不確実な事象を考えなくても良くなり、不確実な事象は「より大きな事象」に限定することができます。

これが「リスク及び機会」を簡単に考えるコツです。


1.リスク及び機会の策定


先ほどの例えのように、とにかく「より大きな事象」として考えるのがポイントです。

大きな事象として考える方法としては、社会動向をよく学んでおくことが大事です。
普段の仕事には必要ない、世の中の経済や社会動向を「学ぶ」意欲のある人は少ないと思いますが、以下のような情報源をマメにチェックするだけでも十分です。

特に世界経済フォーラムの「global risks report」は地球規模のリスク全体像を把握するには恰好の資料です。


2.条件(ISO14001への適合)


ISO14001では「リスク及び機会」の選定方法が決められています。
しかし、それらは特別な手法が決まっている訳ではなく「参照先」が記載されているだけです。

6.1リスク及び機会への取組み
6.1.1一般
組織は,6.1.1〜6.1.4に規定する要求事項を満たすために必要なプロセスを確立し,実施し,維持しなければならない。

環境マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,次のa)〜c)を考慮し,
a) 4.1に規定する課題
b) 4.2に規定する要求事項
c) 環境マネジメントシステムの適用範囲
次の事項のために取り組む必要がある,
環境側面(6.1.2参照),順守義務(6.1.3参照),並びに4.1及び4.2で特定したその他の課題及び要求事項に関連する,リスク及び機会を決定しなければならない。

− 環境マネジメントシステムが,その意図した成果を達成できるという確信を与える。

− 外部の環境状態が組織に影響を与える可能性を含め,望ましくない影響を防止又は低減する。

− 継続的改善を達成する。

組織は,環境マネジメントシステムの適用範囲の中で,環境影響を与える可能性のあるものを含め,潜在的な緊急事態を決定しなければならない。

組織は,次に関する文書化した情報を維持しなければならない。
− 取り組む必要があるリスク及び機会
− 6.1.1〜6.1.4で必要なプロセスが計画どおりに実施されるという確信をもつために必要な程度の,それらのプロセス

とても長く、文章構造も複雑です。
私の独断と偏見で書き直すとこんな感じです。

①リスク及び機会を含む決定方法を、考案し、実際に使い、定期的に見直しする
②環境活動を計画するためにリスク及び機会を決定しておくこと
③リスク及び機会を決定するには、以下の項目を考慮すること
 a)4.1で調べた会社の置かれている状況
 b)4.2で調べた会社として守るべき法律やお客様・株主・行政などからの
  規制や要望
 c)環境活動を行う範囲(会社なら組織体制)
 加えて、後述する環境側面と順守義務
④リスク及び機会は、環境活動として成果が出る項目とすること
⑤リスク及び機会は、悪い影響を防止または低減すること
⑥リスク及び機会は、継続的な改善となること
⑦環境活動を行う範囲において、緊急事態を決定する
⑧決定したリスク及び機会と、実際に活動した情報を残しておくこと

リスク及び機会の意訳(作:黒田誠太)

上記①~⑧の中で異質な項目が一つ含まれています。
それは⑦なのですが、これは別記事で解説します。

②、④、⑤、⑥は前提条件①と⑧は段取りのことを指しています。
残った③がISO14001適合のポイントとなります。
ところが、③には特別な条件など記載されておらず、4.1や4.2など、他の項目で特定した情報と整合(もしくは関連性が説明できるように)していればOKです。


3.よくある失敗例


細かく・精密に「リスク及び機会」を決定したことで、その後に続く活動やアウトプットが複雑怪奇になってしまう組織が数多くあると思います。
細かく考えるほど「条件分岐」が増えてしまうからです。
こうなってしまうと、本来の「活動」が細かすぎて面倒になり、最終的には小さな環境活動の数が増えすぎて「管理しきれず放置」され、成果の出ない(もしくは小さい)活動に陥ってしまいます。

よくある失敗例

上記の事例は、私が現役時代にも陥りました。
広い視野で組織にとっての「リスク及び機会」を捉えるには、末端の若手担当者ではなく、本物の組織の経営者のほうが得意です。
勇気を持って経営者から聞くのもありです。
(経営者を巻き込むコトがISOの真の狙いですから)

4.まとめ


今回は、リスク及び機会の考え方とよくある失敗例について記載しました。

何度も言うように、「大きな事象」であることが最も大事であり、ひいてはより効果の高い環境活動つなげる為の導線となります。
そして、「大きな事象」を決定するには、社会動向をよく学んだり経営層を巻き込むことが条件となります。

リスク及び機会の具体的な方法について、例文、助言やコンサルタントに関する依頼については私のXからお問い合わせください。

以上となります。次回もお楽しみに!



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