これ、瞬間接着剤でつけられる?


「これ、瞬間接着剤でつけられる?」

遅めの朝ごはんをとってる私の横で、
義母が義父に問いかけていた。

いつものハの字眉を、さらに下げた義母。
手には昨夜夕食に出てきたスープカップと
その持ち手の破片が。
一緒に持ってこられたのか、
朱色の筒状の接着剤が、
義父の前のテーブルの上に置かれている。

義母が言い訳するに、
どうやら今朝手がすべって
割ってしまったらしい。


「これなんだけど」

義母が少し上目遣いになる。

義父は、ちらりと
スープカップとテーブルの上に目をやった。


「それじゃつかねえよ」


ああ、やっぱりスープカップの持ち手は、
修復不可能なくらい、
粉々になってしまったのか。

「それ、瞬間接着剤じゃねえだろ」


…あ、

さっきは視界の端で
瞬間接着剤だった朱色の筒。

ちゃあんと焦点を合わせると、

“アラビックヤマト”

はっきりとそう書いてある。


「「ええええええええ(笑笑)」」

と、自分が持ってきたはずなのに、
なぜか他人事のように笑う義母。

「おめえそれ、瞬間接着剤じゃなくて液体のりだろうがよ」


たしかにたしかにたしかにたしかにー!!!!

義母は瞬間接着剤を持ってきたつもりが、
ちゃんと
“アラビックヤマト”を持ってきていた。

いくらアラビックヤマトでも、
スープカップの破片は
くっつけられない(はず)。

笑いながら、言い訳しながら、
改めて本物の瞬間接着剤を持ってくる義母。

さてさて、
これで一件落着かと思われたこの件は、

「おいこれ、破片足りねえじゃねえかよ」



また振り出しに戻った。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?