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【感想文】 「君の名前で僕を呼んで」

書き出しに惚れて一気に読んでしまった「君の名前で僕を呼んで」。
読み終わった直後に、世界中で話題となり2017年にアカデミー賞も受賞した映画版も鑑賞しました。
(以下、ネタバレ部分は明記しますのでご安心ください。)

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CMBYNを観て、Gwen Stefaniを想う

映画を見た時に真っ先に想起されたのが、Gwen Stefaniの楽曲"Cool"のMV。
イタリア北部で撮影された点や、青春のほろ苦い恋愛をノスタルジックに振り返る内容があまりにも似ており、すぐにMVを見返したくなりました。

GwenのMVが撮影されたのはコモ湖付近とのこと。
時代設定は明らかではなく、服装からすると1940〜50年代のようにも思われますが、そうだとすると世界大戦との前後関係はどうだろう…そしてMVに登場する「未来のGwen」はいつ頃の設定なのだろう…などと色々考えてしまい、意外と奥深い論点であることに気づかされました。
時代設定がわかるという人がいたら是非教えて頂きたい。

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一方、「君の名前で僕を呼んで」(CMBYN)のロケ地はクレマという小さな田舎町やその周辺。
時代設定は原作・映画ともに1980年代中期であるとされています。

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2つのロケ地は、いずれも北イタリアの同じロンバルディア州にあります。
時代設定には開きがありますが、夏のノスタルジックでドリーミーな雰囲気はどことなく似ている気がします。

検索してみると、同じ共通点を指摘する記事(英語)やTwitterのコメントもちらほら。

映画を見終えてCMBYNロスに浸っている方にはMVをおすすめしたいですし、逆にCMBYNを見たことがない人には、MVがちょうどCMBYNの世界観を味見するような感じになると思いますので、是非見てみて頂きたいです。

最近なぜか似た作品を読んでしまう件について

CMBYNの原作を読んで思い出したのは次の2作品。

まず、今年の春に読んだ中山可穂「白い薔薇の淵まで」。

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そして、実は今まだ読んでいる途中の、村上春樹「スプートニクの恋人」。

スプートニクの恋人

3作品とも、
・同性愛がテーマ
・恋愛関係にある一方の登場人物が年下、文系、そして天才肌
・もう片方の登場人物は年上、そしてもう少し安定的な性格
・文学が大きく関係する
(「スプートニク」と「白い薔薇」は若い方の登場人物が作家志望。
CMBYNには様々な文学作品や詩、哲学書が登場する。)

という点で共通しています。

似た作品をあえて選んだわけではないのですが。。不思議です。
「スプートニク」を読み終えたら3作品を比較する記事を書こうかしら。

原作と映画の違い

以下は私の純粋な読書(鑑賞)感想文。ものすごくマニアックです。
ネタバレありなので、ご了承ください。

原作を読んだ直後に映画を見たので、両者の違いを強く意識しながら映画を見ることとなりました。

まず、原作に登場する重要な場面やセリフを、話し手やコンテキストを変えながらも映画できちんと網羅している脚本には本当に感動しました。アカデミー脚色賞を受賞しただけあります。

例えば、ヴィミニの「彼もあなたが好き あなた以上に」というセリフを、映画ではヴィミニという登場人物自体を削除した関係上、エリオ母のセリフに変えたこと。この点を含め、映画では母親の役割や存在感が原作の場合よりもさらに強調されています。原作では母親の性格やエリオとの関係性があまり明確でなかったのに対して、映画では母親の描写を膨らませて、クールで俯瞰的でありながらも優しくエリオを受け止める、いわば「理想の母親」が表現されていて、とても好き。切ない悲劇に温かい家族愛がセットとなるからこそ、青春ものとして完成するし、救いがある。

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ちなみに原作では哲学者だったエリオの父親とオリヴァーが、映画では考古学者となっている理由について考えてみました。哲学が専門だと、登場人物がひたすらに読み書きや議論をするだけとなり、絵面として面白くないというのもあると思いますが、「恋愛」というテーマを強調するならば、人類は太古の時代から同じ恋愛の高揚感を味わい、同じ失恋の悩みに苦しめられてきたことを、銅像やその発掘現場の描写を通して伝えたいのかなとも思いました。発掘された銅像は、伯爵が愛人に贈ったものであったという話からしても。

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一番しっくりこなかったのは、エリオとオリヴァーの別れでしょうか。

映画では、オリヴァーが冬になって突然電話をよこしてきて、婚約の事実をエリオに伝えるという設定です。この時オリヴァーは、エリオの家族に「(イタリアに)いつ戻るの?」と聞かれ、「そうできれば」と返しており、やんわり誘いを断っています。そして悲しむエリオに対して「(僕たちのことを)何ひとつ忘れていない」と話しかけています。

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何だかこのオリヴァー、すごく思わせぶりでエリオを振り回しているように思えて、納得がいきません。

ちなみに原作だと、オリヴァーはエリオ家族との約束を守り、クリスマスにイタリアを訪れており、エリオに直接、口頭で婚約の事実を伝えています。それまでの間も頻繁に手紙や電話をエリオと交わしています。なんだかそっちの方が誠実な感じがしません?そしてだからこそ、オリヴァーのエリオに対する愛は本物だった、という印象を受けませんか?

あともう1点。原作では、オリヴァーがイタリアにまだいた頃、エリオに「君にとって僕たちの関係はまだ楽しいお遊びだし、そうあるべきだけど、僕にとっては、まだ僕が正解を出せていない違う何かを意味している。そして正解を出せていないことが、僕は怖いんだ」と言う場面があります。これはおそらく作中で唯一、オリヴァーが実はアメリカに女性の恋人がいて、その人との関係や、自分のセクシャリティを悩みながらエリオと恋愛をしている様子が少しでも垣間見れる場面であり、その意味でとても重要だと思っています。このセリフがあるからこそ、当時から未来の婚約相手とエリオを対等に考え、どう決着をつけるべきか、きちんと悩んでいたことが分かりますし、ひいては決してエリオを弄ぶつもりはなかったことが分かるのだと思うのです。このセリフが映画になかったことは非常に残念ですし、2人の関係を本質的に変えてしまうこととなったように思います。(ただ、このセリフによる予告がないからこそ、結末がよりショッキングに感じられ、よってエリオ自身のショックも視聴者に鮮明に伝わる、という仕掛けにはなったように思います。)

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さらに原作では、映画の出来事以降、20年間もの間にわたって、2人が度々会ったりしながら、「結婚」という形でこそ報われないものの、愛が通う関係をずっと大切にしながら生きていく様子が描写されています。他にもオリヴァーのエリオに対する愛が感じられる細かいディテールが作中に散りばめられています。対して映画だと、なんだかエリオの気持ちは一方的で、ナイーブなエリオがオリヴァーに弄ばれ、挙句にふられた、という感じがして、原作の世界観とは解離しているように思いました。尺の限界も理解していますが、もう少し、オリヴァーの誠実さも表現してほしかったなと思います。

他にも細かい点でいうと、原作だとエリオは現地民とイタリア語で話すのに対して、映画だとフランス語なのは納得がいきませんでした。
主役のティモシーがたまたまフランス語ネイティブだからって、後付けで追加した設定に思えてならなくて、違和感。
百歩譲ってイタリア北部はフランスに近いから、現地民がフランス語を話せるのは普通だとしても。その設定いる?

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とはいえ、映画では言語(誰が誰と、いつ、何語で話すか)が登場人物間の距離感を表現していたり、あとはピアノ楽曲がBGMとして挿入されており、ピアノを愛するエリオの心情が表現されていたり(胸のざわつきが沸き起こるタイミングでふとピアノが始まり、会話をしている最中はすっと音が止む描写など)、そのあたりの言語や音の使われ方はすごく美しいなと思いました。

さらには、映画でもエリオの天才っぷりをもっと表現してほしかったなと思いました。7歳年上でハーバード大学卒、コロンビア大学所属の哲学者オリヴァーと同じ目線で話すことができ、恋愛関係に至ることができたのは、エリオ自身が教養溢れる天才だったからだと思うのです。例えば、原作のエリオは、英語・イタリア語・フランス語・ドイツ語が流暢に話せる上に、それぞれの言語で古典やニッチな哲学書、詩集なども読むことができ、オリヴァーも驚くほど多くの文献を熟知している設定となっています。オリヴァーの専門である哲学について対等に議論することもできます。2人の距離がぐっと縮まるエリオの告白シーンが、オリヴァーの「Is there anything you don't know?」(君が知らないことはある?)という感心の一言からはじまるのも、2人の関係性をまさに象徴していると思うのです。だから、私としては、エリオの鬼才っぷりをもっと強調してほしかったのですが。。

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(さらにいうと、「Is there anything you don't know?」というオリヴァーの重要なセリフを引き出したのが、「ピアーヴェ川の戦い」という第一次世界大戦中の戦いに関するエリオのうんちくだったという流れはあまり気に食わない。。原作では、ゴシック小説「フランケンシュタイン」の作家であるメアリーシェリーと、その夫であり詩人であるパーシーシェリーの愛と死にまつわる逸話をエリオが知っていたことに驚いたオリヴァーがぽろっと溢したセリフなのに。原作の設定の方が、ロマンチックだし、とてつもなく物知りじゃないとそんなこと知らない感が出ません?町の歴史って世界的に有名でなくても町の住民なら誰でも知ってそうな気がしますし。。
おっと細かい話になりすぎました。)

なんだかすごくマニアックな感想文になってきたのでそろそろ締めたいと思いますが、最終的には、原作には原作のよさが、映画には映画のよさがあり、どちらも捨てがたく、是非セットで楽しんで頂きたいなと思いました。

続編(本)が出るようですが。。あらすじをざっと読んだところ、私はあえて読まないかも。

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