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「スーパーマンはいない」 万能と思われる人の真実

 自慢話とは全く違うつもりだが、私は何でも知っていてどんな業務も引き受け、サラリとこなしてしまう人というイメージを持たれることがある。実際にはそのようなスーパーマンはいないし、私自身も普通の人を自認しているつもりだ。
 しかしあなたの周囲にもそのようなスーパーマンの様な万能な印象を抱かせる人がいるのではないか。
 私が思うに、スーパーマンと他の人の違いは恐らく知識量や経験ではなく、見ている景色だろう。

 会社の実務を知らない人が他社から来て社長(部長、課長)なんて無理でしょ、という話を耳にすることがある。
 例えば優秀な職人が集まる工務店にコンサル上がりの社長が就任したような場合だ。仮に社長のやるべき仕事がその会社の実務、つまり大工仕事であるとしたならば、その新しい社長には務まらないだろう。当たり前だ。その会社の社長がやるべき仕事がノコギリで木を切って釘を打つことではない事は誰が考えても分かるだろう。それが分かっていても実務経験がない社長は駄目という印象を拭い去るのは難しい。何でだろうか。

 冒頭に登場したスーパーマンと次に登場した工務店の社長は、周囲からの眼差しは真逆だけれど実は同じような立ち位置にいる事にお気づきだろう。
 皆が見ているスーパーマンや新入り社長は虚像なのだ。
 この人が知っているはずと周囲の人が思う事と、その人が知っている事は違う。
 その人の仕事に求められるだろうと皆が思っているスキルと、実際に必要なスキルは全く違っている。
 その人から見えている世界と周囲の人が見えている世界が違う。
 その結果、周囲から見て凄い人あるいは出来る訳ねぇ人は、実像と掛け離れた虚像として存在することになる。

 人は自分の経験からの類推しか出来ない。
 だから、もし自分のやり方でやったとしたら膨大な知識量が必要な筈で、それを成し遂げているこのスーパーマンは凄い人、となる。逆に自分のような知識も技術も無いのに一体何が出来るのかこの新入り社長は、となる。

 現在人々が抱いているchatGPTに対する印象もこの話と似ていると思っている。
 人々がchatGPTがやっていると思っている事と、実際にchatGPTがやっている事は実は違う。chatGPTが間違った答えを導き出す事があるという思い込みさえ違う。chatGPTは常に正しい答えを吐き出している。chatGPTは膨大なデータを持っている、のでもない。ましてchatGPTは人間の様に凄い機械、ではない。

 AIが人間にとって怖いのは、AIに対して人間が抱く虚像が独り歩きし、それに人間が頼り切ってしまうようになることだ。
 詳しくは述べないが、行政が何かの事業をする時に登場するコンサルタント業者と行政の関係にも同様の構図が垣間見える。先の東京オリンピックでもあった。
 虚像を信頼し切って頼り切って、自分で考えることをやめた時。それが一番怖い。
 結局のところ、怖いのはAIそのものではなく、人間なのだ。

おわり

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