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上達法を説いた解説動画を見てもなぜ上達しないのか

 巷には解説動画が溢れている。
 私もeスポーツの上達方法を解説している動画をしばしば見る。
 多くの人が感じているかもしれないが、解説動画を見ても、あなたは上達しない。ひとつやって駄目なので、次の解説動画を見る。それでもあなたはうまくならない。
 なぜなのか。

 動画の解説が悪いのではない。間違ったことを教えているのではない。
 あなたのやり方が間違っているのでもない。

 私の考える理由を綴りたい。

投資法の話と似ている

 私はこうして株で1億円稼いだ、みたいな投資本をよく見かける。
 そういった投資手法と称されるものをなぞってみれば誰でも億り人になれるかと言えば、決してそうではない。逆に、上手く行かないのが普通だろう。
 なぜそんなことが起きるのか。

 理由のひとつは、本に書いてある通りやっているつもりでも、そうなっていないからだ。その通りに実行することは無理なのだ。もしかするとその投資本を書いた筆者自身も同じことを繰り返せるかというと違うのではないか。
 例えば、株式投資には社会経済環境が影響するのはもちろん、投資家のその時の精神状態が影響する。気分の乗る乗らないもあるが、手元資金の大きさにもよる。精神状態の再現なんて出来ないのは誰でも分かるだろう。
 つまり、その時の状況下でたまたま上手くいく事例にぶち当たったのは私ですというスタンスが本来で、その筆者のやり方がその時点で結果的には良かったから上手く行ったが、普遍的な再現性は無い、というのが正しい理解だろう。

 もうひとつの理由に、学ぶ側の事情もある。
 人は他人の意見をそのままに受け止めることが出来ない。なぜなら、教える人と教わる人は別の人だからだ。
 心理的な問題ではない。
 当たり前のことなのだが、別人ということは、同じ情報に接し同じ状況に立った時に、その人独自の理解に基づいて行動を取るからだ。

再び、解説動画について

 eスポーツの解説動画の場合はどうだろうか。
 投資の話とはだいぶ趣が違うように見える。
 しかし、ある人が教え、もうひとりが教わるという構図と位置関係は同じ。教える側の環境と教わる側の環境が違っていて、取り組んでいる時間数も恐らく違うという構造上の違いも鮮明だ。
 例えば、教える側のプロの真似をして、同じPC、同じモニター、同じキーボード、同じマウス、同じマウスパッドを使ったにしても、同じ机、同じ椅子を使っているだろうか。
 あるいはPCにインストールするゲーム以外のソフト、部屋の大きさ、机の向き、空調、床の素材、朝食のメニュー、風呂に入る時間、着ている服も同じにしているだろうか。背丈や体重、腕のリーチ、指の長さ、視力、血液型他健康状態はどうだろうか。年齢はどうだろうか。eスポーツに対する考え方はどうだろうか。
 
 そんなに細かなことが影響するわけが無いと思うかもしれないが、ひとつひとつのごく小さな違いが積み重なった時、大きな違いになることは分かるはず。
 人は、他人と同じにはならないし同じ様にも出来ない。
 同じ方法論を踏んだとしても、上手く行かない。
 極論に思えるかもしれないが、それが現実だ。

学び方を知ってるか

 他人の教えや真似によって上手くいった人がいたとしたら、それはその人が学び方を知っているからだ。
 学校で同じ授業を受けていて同じ塾で同じ教材を使っていても試験の成績が違うことはザラだと思う。たいていは、あの人は頭の作りが違うからと片付けて諦めていると思う。
 けれど多くの場合、違うのは頭の作りではなく学びのスキルではないかと私は感じている。

 同じことを教わっても出来る人と出来ない人がいるのは、学びのスキルの違いによるところが大きいのではないか。

 学びのスキルは幾つかの要素に分解出来ると思っている。

<学びのスキルの要素>
・自分自身の理解
・要点をつかむ思考法
・要点を自分流に変換する思考法
・実行可能な手順の作成
・実行と修正


 学びのプロセスは、ソフトウェアの移植と似ているのではないか。
 例えばWindows用ソフトウェアをMac用に移植する場合、どういう工程を経るか。
 まず、オリジナルとなるWindows用ソフトウェアがどんな機能をもっていて、どうやってその機能を実現しているのか詳しく調べるだろう。次に、その機能って要するにこういうこと? じゃあMac用にするにはこんなツールが使えるかな、と当たりをつける。変換する順番を考えたらあとはバッチファイルを組んで実行すれば完成、みたいな手順でしょ。知らんけど。

 学びのプロセスはの要素について、順番に解説を試みる。

自分自身の理解

 教わったものを習得するということ以前に、自分自身をよく理解しておく必要がある。
 例えば、本格的に相撲を教わりたいと思っていたとして、あなたの体重が70kgだった場合、まずあなたは何をすべきだろうか。
 恐らく力士は見た目と体重の数値から受ける印象以上に筋肉量が多いのではないかと思う。そうだとすればあなたがすべきことは、ただ体重を増やすだけではなくて、あなた自身の体重を構成する筋肉量を測定し、力士のそれに近づけるよう筋トレをする必要があるだろう。

 自分自身のことは以外と知らないものだ。
 自分自身を知っているか否かが、この後の工程に影響するので、まずは自分自身を理解しておく必要がある。

要点をつかむ思考法

 何かを教わった場合、恐らく教える側は具体的な方法論を説明することが多いだろう。ところが、教わる側はその方法論をそのまま受け入れてはならない。なぜなら、その人とあなたは別人だからだ。
 要点をつかむ思考法とは、教える側から提示された具体的な方法論を一旦、抽象化するということ。
 要するにこういうこと? という理解の仕方、自分なりの受け止め方をする必要がある。本来的にはこの段階で、こういう理解で良いですかと教師に確認出来ると良いのだが、解説動画に問いかけても答えは得られない(コメントで質問するという手はある)。

要点を自分流に変換する思考法

 方法論を抽象化した後は、それを自分に当てはめるとどうだろうかと考えることが必要だ。
 既に自分が持っている技術要素が使えそうだったとしたら、その応用という方で習得できないか。あるいは自分が初めて耳にするものだったとしたら、どうすれば自分の身体で実現出来るかを考える。自分に足りない要素がないか考える。必ずしもコーチが示したやり方そのままではなくても、代わりにこんなやり方が自分には出来るんじゃないかと考えつくかもしれない。

実行可能な手順の作成

 抽象化した方法論を自分流に変換出来たら、それを自分流の、あなたが実行可能な具体的方法論に落とし込む。
 例えばエイム力強化練習という解説動画があったとして、的を連続して打つ練習が紹介されていたとする。よくよく解説動画の説明を聞いていると、打つ時のリズムが大切と言っているのではないかと思えたとする(実際はリズムは関係ないだろうが)。もしリズムが重要なのだとすれば、あなたにリズム感が無い場合、ゲームに向き合う前に別の方法でリズム感を養うのもアリということになる。じゃあ、メトロノームに合わせて手をたたく練習をしよう、ということになるかもしれない(ありえないが)。そこであなたは毎朝目が覚めた時にベッドの中で目覚まし時計の音に合わせて手を打つことにしたかもしれない。

 ここまでの工程で、教える側が伝えようとしたやり方を自分流に変換した方法、が出来上がる。

実行と修正

 自分流に変換した練習方法を実行してみたとき、予想と違って上手くいかなかったり、もうちょっとこうした方が良いんじゃないかと思うことがある。そういった改善点、修正点を取り入れて再び実行してみる。
 つまり、練習のフィードバック制御だ。
 フィードバックを繰り返して方法論を修正し続けることで完成された練習法が出来上がる。

それから

 このような学びのプロセスは、教えてくれる人と同じ条件を整えて同じ時間を掛けて実行する事が出来ない場合に、効率よく自分なりに実行するための方法論だ。
 生まれてこの方、学校や塾で学び方を教わったという人がいるだろうか。○○の勉強法、学習法というのではなく、学び方の学習法みたいなものを。
 残念ながら、学びのプロセスそのものを身につける方法を解説した動画は無い。なぜなら、あなた流の学びのプロセスはあなたにしか見つけられないからだ。一般的な方法は当てはめられないからだ。

 学び方を習得しない限り、上達法を説いた解説動画を見てその通りに実行しても、あなたは教えてくれた人を超えることは出来ない。

 あなたなりの工夫が絶対必要だ。


 あなたなりの工夫を発見すると、きっとあなたは人に伝えたくなって本を書いたり動画を作ったりするかもしれないが、それはそのままの形では他の人には有効ではないものなのだということを忘れてはならない。

おわり
 

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