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 寒くなると食べたくなるのが鍋料理。
 鍋を食べるととにかく暖まる。家の中の暖房を切って寒くしてから食べると、より一層美味しく頂ける。

 先日我が家ではおでんだった。おでんは地域によって違いがあるようだが私は昔から関東風だ。スーパーのおでんコーナーでは汁付きのセット品もあって、家庭でも簡単に出来る。
 いろんな鍋の素も市販されていて、ありとあらゆる鍋料理が手頃に楽しめる。
 いい時代になったものだ。

 気の合う仲間と鍋をつつきながら一杯。話に花を咲かせながら一杯。笑いに包まれながら一杯、と杯が進むのも鍋の楽しみの一つだ。
 鍋を囲む時は小さなテーブルにみんなで肩を寄せ合ってという方がいい。大きなテーブルでは鍋まで箸が届かないし、だれかに取って貰うのでは忍びない。狭いところでワイワイするのが楽しいではないか。

 書きながら大学時代に部室で毎週のように開かれた鍋を囲む会を思い出していた。こ汚い部室のコタツに寝転がりながら誰かが「あー鍋食いてぇな」と言えば誰かが「そうだな」と呼応し、おもむろに食材と酒を買い出しに行き、日が暮れる頃には始まる。つれづれに人が集まり、入りきれなくなりそうになると「ちょっと詰めて」貰ってぎゅうぎゅうになりながら、男女睦まじく鍋にありつく。

 思えば、今の大学生はそんな経験はしていないのかも知れない。
 同じ鍋をつつくのも、換気とは縁が無いところでぎゅうぎゅうになって飲食し、タバコの煙がたゆたう部屋で大声で笑い合うなんてことは、きっと悪いことという認識しかないだろう。
 いつもの面子で、しかも決して豪勢な食材でもなく高価な酒でもないが、紛れもなく楽しい時間だった。かけがいのない濃密な時間だった。
 そんな他愛もない時間を仲間と共有することの喜びを、別の形でもいいので現在の大学生にも味わって欲しいと思う。
 密にならずに距離をおいて、衛生に気を使ってというこのご時世では難しいのかも知れないと思うと、他人事ながら残念でならない。

 鍋と言えば、部室鍋会の終盤に全部ぶっこめ! と余った食材やその辺にあった調味料をいろいろとぶち込んで出来た、見た目は最悪だが味は最高のあの鍋を超える美味しい鍋料理には未だに出会えていない。
 あの鍋はきっと、青春という特性の調味料が入っていたから出た味なのだろうと思う。二度と食えないと思うと少し淋しい。

おわり

 
 
 

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