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カラスの森

我が家から程近いところにあった照葉樹の茂る山が削られて高速道路の出入口が出来てから、周囲にはカラスが減った。あの山がカラスの寝床になっていたからだ。
突然住まいを奪われたあのカラス達は今頃何処で過ごしているのだろうか。

ゴミを荒らすカラスがいなくなったことで、人間にとってはある種快適になったとも言えるので、この変化を喜んでいる人もいるだろうと思う。
カラスの森の木々が倒されて山が削られる一方で、この十年、二十年で畑が潰されて次々と家が建ち並んで来た。
そのせいか、我が家に訪れる鳥や虫も年々少なくなっている。今や家の中では蜘蛛かゴキブリくらいしか見ないし、外ではムクドリが飛来するくらいだ。昔はよく見たコオロギやハサミムシ、ダンゴムシやセミはいないし、スズメやヒヨドリも見ない。
捕食関係だろうから、どちらかが減ればもう一方も自ずと減るのだろう。

こうして我が家の周りにあった小さな自然たちはいつの間にか消えてしまって、人間だけが住まう土地になっていく。
自然から見れば多様性とは真逆に、どんどん一様で単調な世界になっていく。
人間以外のものは排除され、人間の外に出たものは水に流して蓋をして、世界は思い通りで快適なものになっていく。

そうこうするうちに隣の畑もいつの間にか草が茂っているから、家が建ち並ぶのも時間の問題だろう。

高速道路が開通してみれば、遠くのインターチェンジまで行っていた以前に比べて、その快適性や利便性は格別で、お陰でこの辺も便利になったなと思う。
ただ、カラスの家族を路頭に迷わせるのに値するほどの価値があるかと言えば、私は自身を持ってあると断言は出来ない。少なくとも人間以外にとっては価値が無いを通り越して、害悪でしかないであろうことは分かっている。

人間の営みは何かの犠牲の上にしか成り立たないのであろうか。

おわり

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