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賢いとはどういうことか

 脳科学者 茂木健一郎が学長のイマジン大学というYoutubeチャンネルで、賢さについて語っている回を見た。茂木健一郎と言えばNHKテレビのプロフェッショナルという番組の開始当初の司会で一躍有名になった、あのもじゃもじゃ頭のおじさんだ。脳科学者として多数のメディアにしばしば登場するからどこかで見たことがある人もいるだろう。私も東京駅で新幹線を降りようとした時にデッキでかち合ったことがある。 
 私など、仕事で会ったことのある人でも顔と名前を忘れることは良くあるのに、あの人誰だっけと考えなくとも思い出せる存在感は並大抵では無い。なので、知り合いでも身内でも無いが、フルネームの呼び捨てにつきご容赦あれと御本人に向けて予め釈明しておきたい(科学論文では呼び捨てが当たり前だし)。

 テレビ局側の意図と本人の意図が合致しているかは分からないが、そもそも科学者と自称してテレビ番組に登場する人々はどこか胡散臭さを醸し出している。脳科学者はその最たるもので、本当に研究をして論文を書いているのだろうか、この人の言うことは本当だろうか、科学の世界でも知れている人なのだろうかと思ったりもするが、茂木健一郎に限って言えば、脳科学についての論文が世界的なジャーナルに掲載された実績があるかどうかを私は知らないから、脳科学者というよりも脳科学評論家に見えている。

 と、まあ、世間の人とさして変わらぬ茂木健一郎イメージを抱いていると思っている私なのだが、彼がしきりと口にするクオリアについては、個人的な体験を踏まえ興味深いと思っていて、彼の言動には人並み以上に注視しているところがあるのも事実。だからといって、ファンとかいうわけでもないと言い訳しておきたい。

 冒頭に挙げたイマジン大学チャンネルで茂木健一郎が語っていた真の賢さについてに話を戻そう。
 この動画で彼は、日本社会の偏差値偏重主義はどこかおかしくて、偏差値の高い大学が良いとされて目指したり我が子に目指させたりするのは、絶対的な賢さではなく単にマウントを取る(相対的な)賢さだ、という様な考えを述べている。これは至極もっともなのだが、彼自身が東大法学部卒で、かつ、同大学院で物理学を研究し理学博士を取っているという、凡人から見たら正に「賢い」人の典型であるから、話の説得力は薄まる。かと言って、同じことを例えば高卒だけど有名になった社長などか言えば、ただの負け惜しみに聞こえるから、この手の話は誰が言っても浮世離れしてしまい、結局世の親御さんたちは子供を学習塾に通わせることになるのだろう。

 東大理Ⅲに入って医者になる人が賢いかというとそうではないし、本当に賢い人は医者になどならず他のことをした方が良い、と誤解を覚悟で述べている。本当に賢くなくても東大理Ⅲで医者になることは出来ると言っているようにも聞こえて、これまた東大に入った人しか言えない様なことで、本人にそのつもりは全く無いはずだが、こうした一連の話がマウントになってしまっている。そこは致し方ない。というか、愛嬌だろう。

 それはさておき、ここまでで1200字以上費やしている私は間違いなく賢い部類では無いが、この動画で述べられていることには全体的には大いに賛同し、そうだよなぁとメモを取ったりしてしまったのだった。
 例えば、次の様なフレーズにそれが表れている。

「どこかに正解があるはずだと思うことが一番情けないこと。正解なんてない。正解は人によって異なる。自分にとっての正解は自分にしか分からない。」
「いろいろ経験するという中にしか知性はない」
「いろんな人と話してて一番の病気だと思っているのは、どこかに教科書があるとか、どこかに答えがあると思いこんでいること。これが賢さから最も遠ざかること」

動画本編より

 日頃、何かと「正解」や「正しいやり方」を求めてくる人の多い事に辟易している私にとっては、共感したというか、背中を押された感があった。
 
 ただし、AGI(汎用人工知能)について、万能で何でも出来るなんてことは有り得ないと言っていた点は違和感があった。恐らくAGIで言うところの「何でも」は、現在のAIとの対比、つまり相対的な意味での表現であって、絶対的な「何でも」では無いだろうと思うからだ。ASIにしても、「人間を超える知性」という標語であって、そこで言う知性は人間の知性とは違っている(なぜなら、人類は人間の知性を正しく定義・把握出来ていないから)。

 私からすれば、東大に入って法学を学び、理学博士になってケンブリッジ大学でも研究し、様々なメディアで様々なことを発信し続け、走ることが生き甲斐と言いながらぽっちゃりしたお腹で、かつ、著書の『IKIGAI』が世界的なベストセラーになっている茂木健一郎は、十分に万能だ。何でも出来る人と言われてもおかしくないだろう。

 いくら私がここで書いても、彼の言いたいことの1億分の1も伝わらないと思うので、興味がある方は是非、下のリンクから動画をご覧になられると良いだろう。
 予め言ってはおくが、動画を見てもピンとこない人の方が多そうな話ではある。
 と、書いている私はどこかマウントを取っているように見えやしないか、不安でしかない。

おわり


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