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BIG BOSSにやられた

 最初にお断りしておくと、私は昔からさして野球に興味は無く、知り合いから譲り受けたチケットやタダで貰ったチケットでナイターを見に行ったことはあったという程度だった。ただ、ルールも知らないと言う訳でもなく、全く選手を知らないと言う訳でも無い。

 私の子供時代は、夏の夜のテレビ番組と言えばプロ野球というイメージがある。最低1局、多い時はそれ以上のテレビ局でナイター中継を放映していた。
 テレビのチャンネル権を親が持っていたあの頃は、夜のテレビはニュースか野球か映画と相場が決まっていたので、ニュースよりはいいかと思って一緒に野球中継を見ていた。
 野球中継の延長のせいで映画の放送がズレ込むと、当時早く寝ろと躾けられていた私は映画の結末を見れずに眠る羽目になって、ナイター中継を恨んですらいた。
 夏休みになれば昼間っから高校野球もあって少々辟易していたのは内緒だ。
 それでも、実際のスタジアムに行って、ビールを飲む父親の傍らで明るい照明に照らされたグリーンの芝生の上で白球を追いかけるプロ野球選手を凄いなぁと思わない訳ではなかった。
 球場の熱気と声援の中でプレーする気持ちはどんなだろうか。ダイヤモンドの中で躍動する選手達は、野球少年とは程遠い私にとっても間違いなくヒーローだった。

 だから、新庄剛志という人物を知らない訳ではなかった。
 エラの張った独特の容姿と、圧倒的なパフォーマンスがあるように見せる演出(私にはそう見えていた)。野球というスポーツを劇場化し、デフォルメし、楽しませようという意気込みは少々浮いて見えたこともあった。
 そんな彼がメジャーリーグに行った時には、パフォーマンスだけではなく実力もあったのかなんて醒めた目で見ていた。
 引退してからも何かと話題を作って時折テレビに登場し、海外に移り住んでからもモトクロスを初めたなんて映像を見て、活動的な人だなぁと思っていた。
 とにかく目立ちたがり屋という印象だった。

 だから、北海道日本ハムファイターズの来季監督に就任するという噂を聞いた時は耳を疑った。もしかするとファンの方なら順当な人選ということなのかもしれないが、全く知らない私にとって、あの新庄が監督?日本ハムファイターズの経営陣は大丈夫か? とすら思った。

 しかし。
 しかしである。
 意外にも彼は私の心をつかんだ。
 野球とは門外漢の私ですら彼の何かに引き込まれた。

 相変わらず派手なパフォーマンスで記者会見を行ったり、日替わりで衣装を変えるキャンプでの取材対応、そして種々の発言などに野球関係者の中には煙たがる意見を言っている人もいるようだ。
 だが、彼の行動や言動には強いメッセージがあった。少なくとも私にはそう感じた。
 それは、

このままでは日本のプロ野球は衰退するぞ!

というものだ。
 試合をすれば少なからず観客動員があって、昔は閑古鳥が鳴いていたパ・リーグなどは、むしろあの頃に比べると圧倒的に盛り上がっている。
 選手の実力だって海外の選手に引けを取らないものがある。

 けれど、ビッグボスはこう言っているように私には思える。

プロたるもの、もっともっとプロであれ!

 プロである以上、みんなを楽しませる義務がある。日常のあれこれを吹き飛ばしてせめて野球を観戦するときは思いっきり楽しんで欲しいという情熱が伝わってくる。
 そのためには、プロである選手自身が思いっきり楽しんで練習し、プレーしなけりゃならない、と。それだけではなく、野球をプレーしている時意外の全ての時間も、野球を盛り上げてファンを楽しませることに費やさなければならない、と。
 それがプロフェッショナルというものだ、とビッグボスは伝えたいのだと感じる。

 だから、彼の過剰とも思えるパフォーマンスは、彼のプロとしての野球人としての使命を帯びた、壮大なる演出なのだ。
 きっと彼は、この先の野球界は安泰ではないと感じているのだろう。

 だからきっと、ビッグボスはこの日を待ちわびていたのだろう。
 いつの日かプロ野球を盛り上げる応援団長になって日本中を巻き込んで大騒ぎしてやろうと準備していたに違いない。
 彼が派手なパフォーマンスをするのは、彼自身が目立ちたいのもあるかもしれないが、プロ野球というものをもっと目立たせるための戦略なのではないか。
 少なくともビッグボスひとりのお陰で私は、ほんの少しだけだが日本のプロ野球を応援したい気持ちになった。そしてこの記事を書いている。

 そして、分野は違えどプロの端くれである私自身も、プロの仕事はプレーをするだけで満足してはいけないのだと改めて気付かされた。

 ガンバレ! ビッグボス!
 ガンバレ! プロ野球選手たち。
 ガンバレ! 全ての働く人々!

おわり

サムネの画像は北海道日本ハムファイターズのオフィシャルサイトから転載しました。

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