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言葉の欠陥

 言葉は優れた伝達の道具でありながら、その確実性は思っているより低い。口頭にしろ文字にしろ言葉を使って伝える際には、相手も自分と同じだけの言語能力を持っているはずだという暗黙の了解に立っている。相手の外見がステレオタイプな日本人と異なる場合に何と話しかけるか一瞬でも躊躇するのはその左証だ。日本語を理解出来そうな人には日本語で話し掛けられるが、そうでなければコミュニケーションの端緒から躓いてしまう。
 日本語が喋れたとしても、文字を読むことは出来ない可能性だって本来はゼロでは無いが、日本の場合はそこが特殊で、殆どの人が読むことも出来る。だから日本人同士であればコミュニケーションのハードルが低いと思ってしまいがちだ。話せば分かる、みたいなことになる。

 しかし、たとえ相手が日本語に不自由ないように見えても、それだけで理解し合えるかというと、そんなことはない。知識量のことは脇に置いたとしても、語彙力や言葉の理解力、思考力が異なるから、言葉の力だけでは意図した通りに伝わらないことの方が多い。言葉によるコミュニケーションが成立するのは、相手のリアクションを見ることで正しく伝わっているかを私たちは無意識に把握し続けているからだ。

 文字によるコミュニケーションの難しさはここにある。どんなに言葉を並べても相手がどう受け止めるかは全く予測不能なのに、相手の反応を文字以外の手段で確認する術がない。相手の言葉に対するこちらの反応を伝える術が文字以外に無い上に、相手に届くまでにタイムラグがある。一つ一つのやり取りの間に、相手がどう受け止めたのかを否が応でも想像する時間が出来てしまう。既読が付くかがあんなにも気になるのは、こうしたカラクリのせいだ。

 言葉だけでは殆ど何も伝わらないし、リアルタイムでの反応が見られるやり取りでないと言葉通りに伝わったかどうかの確認すら出来ない。自ずとコミュニケーションは一方的なものにしかならないから、意思疎通は上手くいかないことの方が多くなる。リアクション用のスタンプやイイね!ボタンが必要な理由もそこにある。
 だから相手のことを本当に知ろうと思ったら、言葉と同時に、口調や表情などを含めた言葉以外の情報をリアルタイムでやり取り出来る状況が必要になる。すなわち、実際に会ってみないと分からないということだ。

 zoomのようなコミュニケーション・ツールは本人の顔出しがあるならかなり有用だが、それでも重大な欠点がある。相手の反応を見るのに最も重要な機能に劣っているのだ。
 それは視線を交わすということ。
 カメラを見たら相手の目が見られないし、相手の目を見たら相手からは視線を反らしているように見える。
 目によるコンタクトほど重要なコミュニケーション・ツールは無いのに、それが使えない。

 仕事でのやり取りの殆どが文字や電話によるコミュニケーションになっている人は気をつけた方がいい。そのやり方では、あなたの言っていることが相手に伝わっていない可能性が高い。あるいは、必要以上のコミュニケーション・コストを費やしているはずだ。
 相手の理解力が足りないと思ったら、コミュニケーションのやり方を変えてみるのが良い。言葉に頼りすぎずに直接会って話をしてみると良い。
 ちゃんと目を見て相手の話を聴くことを忘れずに。

おわり


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