見出し画像

Netflix映画『カレとカノジョの確率』

「But just be clear, this isn't a story about love. This is a story about a fate. Or statistics. Really just depends on who you're  talking to.」
(言っておくけど、これは愛の物語ではないわ。これは運命についての物語よ。もしくは統計の話。誰に話すか次第ね)

 物語のガイドとして登場するナレーター役の女性が物語の始めの方でそう忠告するように、これはただの恋愛映画ではない。
 愛の物語の背後にある、運命としか呼びようがない何かの話なのだ。

 タッチの差で乗る予定だったロンドン便に乗り遅れたカノジョ。次の便に切り替えて、待ち時間に空港ロビー内のデスクでスマホの充電をしようと思ったら、充電器が壊れていると隣の女性に教えられる。諦めて席を立とうとしたら反対側の隣の男性が、これで充電する? と充電ケーブルを差し出す。それがカレ。それが一目惚れの始まり、というほど物語は単純ではない。運命の振り子は右へ左へと揺れ動いているのだから。

***

 いい映画だった。
 久々にこういう映画に逢えて、良かったなと思った。
 単純と言えば単純なストーリーの中に、人生の憂いや歓び、人と人との繋がり、運命、そして愛が詰め込まれている。
 喜びを共有したいという想いや、そばにいてあげたい、そっと手を握ってあげたいという想いが、こんなにも人に幸せを運んでくれると改めて教えてくれた気がした。

 人は生まれて、育ち、生きるけれど、その間には予想出来ない様々なことに遭遇する。そして最後にはエンディングを迎えるという、誰にも避けられない運命を背負っている。ハッピーエンディングと分かりきっている恋愛映画なら飽きて途中で眠ってしまうこともある。良いことばかりではなく、嫌なことがあったり、サプライジングだからこそ、人生は輝くとも言える。
 全てを受け入れることは難しいかも知れないが、簡単に諦めるのは勿体ない。いつでも、誰にとっても人生は常に、まだ始まったばかりなのだから。

 原題の『Love at First Sight』を直訳するなら一目惚れだろう。このタイトルが伏線になっているのは内緒だが、日本語的には「一目惚れ」というタイトルでは安っぽくなってしまう感じがするし、本質を見失いそうになる。
 こうしたタイトルを翻訳するのは本当に難しいだろう。

 映画内で登場する、チャールズ・ディケンズの小説の次の一節は、映画のストーリーとの相互作用によって、さらに深く心に響く。

Is it better to have had a good thing and lost it, or never have had it?
(持っていた良いものを失うのと、それが手に入らないのは、どちらがいい?)

Our Mutual Friend (互いの友), Charles Dickens

おわり


この記事が参加している募集

#映画感想文

68,430件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?