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秋が来た
こんなに毎日危険な暑さと報道されている中でこんな事を言うと暑さで気が触れたと思われかねないけれど、確かにそう感じたのだから仕方がない。
昨夕、まだ日が沈む前の頃に駅から自宅までのおよそ3キロの道のりを歩いていたときのことだ。日中の熱を帯びたアスファルトから立ち昇る熱気と、空気にこもる湿気にうんざりしながら歩みを進めていた。
その時だった。
暑くてムッとする空気にまぎれてひんやりとする空気が肌をさらった。最初は建物からエアコンの冷気か何かが漏れてきただけだろうと思った。気にせずそのまま進むと、また冷気が、今度は首元から顔に掛けて撫でる様に通り過ぎた。周囲を見回しても何もない。しかもその冷たい空気には独特の香りが混ざっていた。それを嗅いだ時、私はふと思ったのだ。
秋が来た、と。
前線が通過する前に冷たい空気が流れ込むことがある。それは大気を不安定にさせて積乱雲を作り、夕立を降らせる。きっとそうだろうと思って空を見た。
そこにあるはずの入道雲は無かった。ただ淡いオレンジ色に染まり始めた青い空が広がっていた。
季節の変わり目ごとに、しかもかなり先取りした時期に、こうした感覚に襲われる。それはまさしく襲われる感じで、いつも急にやって来る。あまりにも早すぎるからいつも自信が持てず、誰にも打ち明けられない。
理性ではまだ七月なのにと思いながらも、それを裏切るかのように秋の空気が纏わりついてくる。もちろんその涼やかな空気が通るのは一瞬のことで、直ぐにまたうだるような熱気が全身を包んでくる。
道すがら時折やって来る秋の冷気に励まされながら、私の歩みはいつしか真夏のダラダラから脱却してテンポよくなっていた。流れる汗が気持ちよかった。その汗をドキッとするくらい冷たい空気がくぐる。いまやそれは幻想や妄想ではなく、はたまた超常現象でもない。明白な秋の訪れを告げるものだった。
今日になって晴れた空を見上げれば、ギラギラした太陽が輝いていた。負けじと熱気を注ぎ込みに来ていた。一面の快晴に吹く風は涼し気もなく、再び危険を孕んでいる。昨日来た秋は退却してしまったようだ。きっと何処かで機会をうかがっているのだろう。
遠く山の向こうには入道雲が微かに見えた。
おわり
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